∞シリーズもの3∞

□告白〜小鳥の恋/それから〜D
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カカシは静かに見つめていた。目の前にある愛しい人の寝顔を。うっとりと飽きる事なく いつまでも見ていたいと思った。
生まれて初めて本気で好きになった人。
同性で、しかも絶対に女性と結婚して家庭を持つタイプだと思われた人。
諦めていた。どうせ自分には手の届かない儚い恋だと諦めていた。 それなのに⋯
イルカの気持ちも自分と同じなのだと気がついた時は信じられなかった。
自惚れなのかもしれないと言う恐れもあったのだが、彼の言動が自分と同じ気持ちの現れだと気づかせてくれた。

『イルカ⋯。』

すぐ側にあるイルカの黒髪をさらりと指で優しく撫で、カカシは彼の寝顔を見続けていた。
幸せ過ぎて怖い。とうとう誰にも壊されたくない⋯そして失くしたくないものを手に入れてしまったのだ。

「ん⋯⋯」

イルカの瞼がゆっくりと開いてゆき、目の前のカカシを捉える。

「おはよう。」

カカシの柔らかく優しい声に数秒寝ぼけた顔を見せていたイルカは、漸く状況を把握すると頬を赤く染めながら「あ!えっと⋯お、おはようございます⋯」と消え入る声で挨拶をするなり目線を下に向けてしまった。
目の前に 信じられないくらい間近にあるカカシの顔にドキドキし過ぎて困ったのだ。
そして目線を下に向けた事により布団の中の彼の裸の胸が視界に入り、その逞しい胸にも心の中で『うおー!』と叫ぶイルカだった。

『あああ!お⋯俺はとうとう昨夜この人と⋯』

この胸に抱かれ、優しい声で囁かれ、その綺麗な形の唇でありとあらゆる所を口づけられ⋯ チラッとカカシの唇を見る。

『ふごぉーー!この唇がっ!この綺麗な唇が!し⋯舌が⋯』

イルカの体を余すところなく愛してくれた。この無骨な男の体を⋯だ。

「ねえ、イルカ先生顔見せて?顔上げてよ。」
「⋯⋯危険です。」
「え?」
「今カカシさんの顔を見たら俺の心臓が止まるかもしれない。」
「⋯⋯なにそれ。」

ハハハと笑われチラと上目使いでカカシを見ると、幸せそうな顔の彼と目が合い
「それは困ったな。せっかく恋人になれたのに。」と言われてしまった。
恋人⋯ 名実ともに恋人となったのだ。

「あの⋯」
「なに?」

カカシの声がいちいち優しく良い声なのでイルカのドキドキが止まらない。

「こんな俺ですが⋯ よろしくお願いします。」
「うん。俺もです。よろしくねイルカ先生。」

カカシは今から心の中で『捨てないでね。嫌にならないでね。』とイルカに縋っていた。

「先生キスしていい?」
「う⋯ は、はい。」

固まるイルカに、カカシは少し笑いをこらえながら「おはよ」と口づけをしていった。

「ん⋯ ん?カカシさん?え?」
「ごめん朝から⋯。キスだけじゃ終われないみたい⋯。無理?体辛い?」
「だっ大丈夫ですっ。」

本当は少し辛い。でもカカシに愛される方が優先。自分だってこんなにもカカシを欲している。

「カカシさん⋯」
「うん⋯ 幸せ過ぎて泣きたいくらいです。」
胸の上に有るカカシの頭を、イルカは愛おしげに引き寄せた。



「シズネ!あいつらはまだかい!?」
「あ、はい。昼までには来るはずですが。」
「昼までって言ったら普通もっと早く来るだろうがっ。もう昼になるだろう!」

綱手はわざとらしく大きな溜息を吐いてみせた。

「でもまあ⋯イルカが元に戻り、お互いの気持ちに気付いて晴れてくっついたのは喜ばしい事だ。」
「そうですね。二人の事を知ったら里の女の子達が泣きそうですけどね。」
「ふん。」

その時 執務室の扉がノック音を響かせた。

「やっと来たか。入れ!」

カチャリと静かに扉が開き「失礼します。」と先にカカシが、続いてイルカも室内へと入って来ると二人並んで綱手の前へ立った。

「今日呼んだのは他でも無い。ちょっとした任務に付いてもらいたい。カカシと⋯イルカ、お前もだ。」
「え!?私もですか?はっ!まさか⋯」
「五代目、人間のイルカ先生と一緒ですよね!?」

慌てる二人にニヤリと笑った綱手は立ち上がるなり「どうしようかねぇ?」と意地悪く言い放った。

「昼までに来いと言えば朝っぱらから何をしていたのやら、昼丁度に来る始末⋯。」
「!!やっ!そ、それはっ!違っ!違いまっ⋯」
「イルカ先生動揺しすぎですよ。」

クスクスとカカシに笑われ首まで赤くしたイルカは顔を上げる事が出来なくなってしまった。

「お前達二人で風の国からの客人を迎えに行って欲しいのさ。まあ簡単な護衛任務だ。」
「風の国まで行けば良いのですね?」
「いやいや、国境近くの温泉街があるだろう?そこの宿で待ち合わせをしておくれ。」
「こちらまで来ていただけるのですか?」

漸くイルカが顔を上げて綱手に聞いた。

「ああ。向こうからも護衛の忍びが二名付いてくるしな。お前達には火の国の名所を案内してやって欲しいのさ。最終的に木ノ葉隠れの里へ連れてきておくれ。」
「名所を案内⋯ですか。」
「イルカ、お前なら結構知ってるだろ?良い所を。」
「そうですねぇ⋯ でも日程と言うか、あちらのご予定にも寄るのでは?」
「うーん⋯どうだろね?ぶっちゃけ新婚旅行のようだし。」
「新婚旅行!?」

カカシが素っ頓狂な声を出して驚いたのでシズネが苦笑しながら説明してくれた。
先月結婚したばかりの風の国の大名の息子夫婦が火の国の名所、温泉地を巡りたいとの事だそうで⋯

「なるほど。火の国の温泉は有名ですからね。他国からも沢山の方が湯治に来られてる。」
「さすがイルカ先生だね。温泉好きはダテじゃない。」
「え〜?やだなぁカカシさん。火の国の温泉が有名なのは誰でも知ってることじゃないですか!」
「うふふ、だって先生の趣味は湯治でしょ?」
「ゴホンゴホン!!」

綱手の咳払いも二人には聞こえていないのか気にもならないのか
「今度プライベートで是非行きましょ?」「え?ふっ二人でですか?」「当たり前ですよv」とイチャイチャが増すばかり。

「シズネ⋯ こいつらにこの任務渡すのやめようか⋯」
「何言ってるんですか!綱手様がイルカ先生への償いにって決めた任務じゃないですか。」
「う⋯ そうだがしかし⋯」

チラッと、まだイチャイチャと話している二人を横目で見る。

「どこの温泉がいいかなぁv」
「カカシさん決めてくださいよ。」
「ダメですよ。温泉に関しては先生の意見が優先です。」
「いえ!カカシさんこそ日頃の体の疲れを⋯」

「な?腹立たないか?あの二人。」
「仕方ないですよ。ふふふ。」
「ちっ。 ⋯カカシ!イルカ!その温泉街へ向かうのはいつでもいい!任せる!ちなみに風の国の者は三日後に宿に着くそうだ!」
「三日後?」

イルカがキョトンとしていると、カカシが嬉しそうに微笑み「ありがとうございます五代目。では今から発っても?」と聞いてきた。

「いつでもいいと言っている。既に宿は抑えてあるからサッサと行け。」

「え⋯」と、まだ綱手の意図するところを飲み込めていないイルカの横でカカシが満面の笑みを浮かべ「御意。」と頭を下げた。

「え?あれ?あちらが着くのは三日後では⋯」
「イルカ先生、行きましょう。五代目の御配慮ですよ。」
「!五代目⋯」
「サッサとお行きよ、目の前でイチャつかれても腹が立つばかりだ。美味しい酒のひとつでも買ってきてもらわんとやってられん。」
「あ⋯ありがとうございます!うみのイルカ、必ずしや満足の行く旅を提供してまいります!」

深々と頭を下げるイルカをカカシは愛おしそうに目を細めて見つめ 次に自分も頭を下げた。

「では、はたけカカシ、うみのイルカと共に只今から出立する事といたします。」
「うむ。よろしく頼んだぞ。」

イルカはシズネにも会釈をし、カカシと寄り添う様に背中を見せた。

「イルカ先生、まずは家へ戻って支度をしましょう。少し長旅になるかもしれません。」
「火の国温泉マップも持たねばです。」
「そんなもの持ってるんですか!流石だなぁ。」
「えへへ。時々開いて見て楽しむのです。」
「全部回っちゃいましょうか?」
「え〜?すごい数だからダメですよ。秘湯とか幾つか⋯」

やおら立ち上がった綱手のこめかみがピキっと筋立った。

「ええーいっ!サッサと出て行けーーー!!」

慌てふためき出て行く二人にシズネは苦笑し綱手は「ふんっ!」と椅子に身を沈めた。

「なんなんだいアレは!この任務から二人を外してやろうか!」
「ふふふ。何をおっしゃいます。綱手様がお決めになった事ではありませんか。」
「⋯ふん。しかしカカシがあそこまでデレデレする奴だとは思わなかったな。」
「そうですねぇ。彼は恋人の前でもクールで居るのかと思いました。」

シズネはコトッと綱手の前に湯呑みを置くと「少し窓を開けましょうか?」と外の空気を部屋へ入れた。

「いい風だねぇ。 ⋯イルカが初めて小鳥になった日もこんな天気の良い日だったねぇ。」
「ええ。青空が広がる良い天気でした。」

空を飛んでみたいと願い、窓から飛び立った青い小鳥。

綱手は青く広がる空を見つめながらカカシとイルカの幸せを祈った。











 



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