≡ 連載もの・3≡

□ORGEL 2
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注※カカシが女の部屋で朝を迎えるシーンが有ります。
(何もしてませんが不快な方はごめんなさいです。)




母の形見である小さなオルゴールを修理の為と、写輪眼のカカシに預けてから、ひと月が過ぎた。
忙しい人なのだから、すぐに返して貰えるなどと思ってはいなかったが
簡単に手渡してしまった事を少し後悔もしていた。
忙しさに紛れて… イルカのオルゴールの事など忘れてしまっているかもしれない。
修理にさえ出していないかもだ。
それでも彼の部屋の片隅にでも、無事に保管されていれば良しとするのだが。
まさか面倒でその辺に捨ててはいないだろうと願う。

「ふぅ… 。」

職員室の窓から見える白い雲の流れを見つめて溜息を吐いた。


***


「あら、もう行くの?」
「ん。報告書出して来なきゃ。」

白い肌を露わに、シーツの上に横たわる女が声をかけてきた。
ベッドに腰掛けたカカシは、そんな女を背後に ゆっくり衣服を身に付けている。
隣国までの任務の帰り、すでに深夜にもなろうとしていた時間に
一緒に行動していた女の「ねえ、良かったらウチでシャワーでも浴びて行かない?」の一言に
まあそれも良いかな。ちょっと疲れているし。こんな時は女を抱いた方がぐっすり寝れるかも…などと
いつもの如く、軽い気持ちで「いいよ。」と良い返事を返し朝を迎えたのだった。
「また会える?」と女が聞いても、自分の背嚢の中身を確認しながら「機会があれば。」と素っ気なく答えるだけ。

「あら、何か転げ落ちたわよ?」
「 ん? 」

見ると木の箱の様なものが転がっていた。

「何それ。」
「忘れてた…。」

隣国へ向かう直前に「修理出来ました。」と目の前に現れた後輩。
代わりに返して来てもらおうかとも思ったのだが、ふと浮かんだあの笑顔。
自分の手で返しに行きたいと思い、背嚢にしまいこんで任務先まで持って行ったのだった。
元通りになっているクランクを指で回すと、間もなく優しい音が小さく響きだす。
母上の形見だと言っていた。

「オルゴール?素敵ね。」
「……うん。」

修理をして返すと言ってから、かれこれひと月は経つ。その間、今回の任務で十日程は里外だったが。

「コーヒーくらい飲んで行かない?」

女は起き上がるとカカシを背後から抱きしめて、肩越しに彼の手元のオルゴールを見た。

「それ、貴方の?」
「いや、違うよ。」
「あら、じゃあ貰ってもいい?」
「駄目だーよ。持ち主がいるからね。」

女から やんわりと体を離すと、カカシはオルゴールを大事そうに背嚢の中へしまいこんだ。

「ありがとね、じゃあ。」

身支度を整えると女の部屋を後にして、報告書を出すべく受付へと向かった。





「アカデミーは休みなのに受付勤務の方を引き受けるなんて、お前少し働き過ぎなんじゃねーの?」

午前中の誰も来ない受付で、イルカは隣りに座る同僚に意見されていた。

「大丈夫だよ。それに今日はイソベと交代したんだ。用事があるらしいし。」
「お前、お人好しにも程があるぞ。アイツの用事は遊びの用事だろ?」
「…ハハッ。いいじゃないか。俺には何ひとつ用なんて無いからな。」

それに昼過ぎには帰れるからと、明るく笑うイルカに同僚は返す言葉もなくなった。

「お前も恋人の一人や二人が出来たらだなぁ、大きい顔でアイツと交代してもら…」
「!お疲れ様です!」

気配さえ感じさせずに、すでに報告書を手に持ったカカシが部屋の中ほどまで来ているのに気付いた二人は
顔を突き合わせて会話していたのを慌ててやめると、姿勢を正して前を見た。
そんな二人の様子を見ていたカカシは何を咎める事もなく、真っ直ぐとイルカの方へと歩み寄る。

「イルカ先生って、受付もやるの?」
「ええ、人手不足なもので。」

イルカの頭に「オルゴール」という文字が浮かぶ。
まだ返してもらえないのか、修理は済んだのか、聞いてみても良いだろうか?
すると「丁度良かった。」と、カカシが背中の背嚢を目の前に下ろし
何やらガサゴソと中を探りだすと「これ。」と、取り出した物をイルカの目の前に置いた。

「あ…。俺の…。」
「うん。遅くなってごめーんね?里外任務にも出ていたし修理にも時間がかかったみたいで…。」
「すみません。お忙しいのに…。」

イルカは綺麗になったオルゴールを、そっと手元に引き寄せて
嬉しそうに微笑みながらそれを見つめた。

なんて嬉しそうに笑うの

不思議と心惹かれる笑顔。
この顔が見たいが為に返すのも遅くなったと言うもの。

「ねえ。」

カカシの目がキラリと光る

「あれ、まだ有効?」
「? 何がです?」
「俺の“恋人”ってやつ。」
「恋人?ああ…あの時の。」

あの日、カカシがオルゴールを壊した日
厄介な女に追いかけられ逃げてきたカカシは、その場にいた男のイルカを「新しい恋人」として女に紹介した。
嗜好が「男」に変わった事で諦めさせようとでもしたのか。
イルカも自分は「カカシの恋人だ」とカカシに合わせて女に宣言したのだった。

「有効って…。」

面白い人だと言うように、イルカはクスクスと笑った。

「まあ…俺で良ければ、またいつでもお力になりますよ。ただし変な噂がたっても知りませんからね。」
「そう?アンタも困るんじゃない?」
「俺は大丈夫です。知られて困る恋人もいません。」
「じゃあ今夜誘ってもいい?」
「え?」

イルカが真顔で驚いたので、カカシも思わず苦笑した。

「やだなぁ、飲みにですよ。」
「あ… ですよね。ははは!」

一瞬ドキリとしたのは確か。
カカシの一言で女が堕ちるのも頷けるというもの…。

「では、酒々屋で待ち合わせましょう。」
「俺なんかで良いのですか?」
「アンタだから誘ってんでしょ?この前の御礼。待ってるから。」
「…はい。」

何処でどんな出会いが有るかわからない。
あの「写輪眼のカカシ」と飲む事になった。

カカシが退室してから隣りに座る同僚が、何があったのか教えろと煩い。
イルカは手にしたオルゴールを見て小さく笑った。










 


 

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