≡ 連載もの・3≡

□ORGEL 3
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夕方
カカシと飲む約束をしていたイルカは身支度を整えると箪笥の上の両親の写真に手を合わせた。
写真の横にはカカシから返してもらったオルゴールが置かれている。

「父ちゃん母ちゃん、俺今から飲みに行くけど… 誰と行くと思う?里一番の忍者と言われる はたけカカシさんと飲むんだぜ。」

この俺が誘われたんだ、とエヘヘと笑う。
アカデミーは休みだったが、同僚に代わって午前中は受付に座っていたら
「はたけカカシ」が報告書を出しに現れ、オルゴールを返してくれただけではなくイルカを飲みに誘ってくれたのだ。

「まあ…これきりだと思うから失礼のない程度に飲んでくるよ。」

両親にニカッと笑顔を見せると薄暗くなりつつある部屋を出て行った。


約束の時間より早めに酒々屋に来たイルカはお通しだけで先に酒を軽く飲んでいた。
少し飲んでおかねば凄腕上忍とまともに会話も出来ないかもしれないから。
しかし多少砕けた感じのする物腰の柔らかい人なので、気張ることも無いかもしれない。

『でも少し飲んで置かなければ…だな。素面じゃ何を話して良いのか意識しすぎるしなぁ…。』

準備万端、いつでも来い!
イルカは自分の気持ちを奮い起こしていた。  なのに

『遅いな…カカシさん。』

カカシの姿は約束の時間を三十分過ぎても向かいの席には無かった。
もしかしたら急な任務が入ったのかもしれない。

『だとしても何らかの連絡くらい…。』

ガラッと入り口の開く音に、何度振り向いた事か。

『誘ったのは只の気まぐれだったのかもしれないな…。』

上忍に… 里一番と言われる上忍に誘われ、自分は少し自惚れていたのかもしれない。
そして四十分も過ぎる頃には徳利をもう一本注文して半ば自棄酒状態で独酌し始めた。

『今頃俺との約束なんて忘れてさ、どこぞのいい女としっぽりやってんのかもしれないな。』

まあそんな事どうでも良い。大事なオルゴールは返して貰ったからそれだけでも良しとする。

「ごめんね。先に飲んでてくれたんだ?」
「え?」

顔を上げると向かいの席にカカシがそそくさと座るところだった。

「……来たんだ。」
「ええ。え?来ないと思った?」
「だってもう一時間近く経ってます。」
「へえ…。」

ちょっと驚いた顔のカカシが、次にはニヤリとした顔を見せ「なるほどね。」と頷いた。

「何がですか。」
「ちょっと小耳に挟んだよ。イルカ先生の噂。」
「俺の?ですか。」
「相手が上忍でも臆面もなく意見する人だって。」
「そんな事… 無いと… 思うけど、うーん。…ちょっとは。」

二ヘラッと笑った子供のような笑顔にカカシも釣られてクスッと笑う。

「上忍に意見する中忍なんて、まずお目にかからない。俺が一時間遅れようが二時間遅れようが今来たばかりという顔をしているのが普通でしょ?」
「一時間は許せる範囲ですが、二時間過ぎたら俺は帰ります。」
「他の奴なら閉店まで居ると思うよ。居られても嫌だけどね。イルカ先生が真っ当だよ。」

それでも二時間は待ってくれるんだね。と嬉しそうに笑うと通りすがりの店員に酒を注文した。

「あの… オルゴールの修理、ありがとうございました。」
「ああ…うん。悪いのは俺だから。気が付かなかったとはいえ踏んづけちゃってすみません。」

カカシは酒が運ばれてくると、イルカが目の前にいるにも関わらず気にする事無く口布を下ろした。

『うわっ!イケメンッ!』

噂には聞いていたが、こちらが気後れしそうなくらいに綺麗な顔立ちだった。
同じ人間なのに、この差は何なんだと半分不貞腐れてしまいそうになる。

「いいんですか?顔… 出して。」
「え?ああ… 大丈夫ですよ、他の奴らには口布付けっぱなしに見えているから。」
「俺は見て良かったんでしょうか。」
「勿論ですよ。“恋人”だからね。さ、乾杯しましょ?」
「何にですか?」
「うーん… 俺とイルカ先生の出会いに。それとオルゴールが直った事に。」

その言葉にイルカも「ふふっ」と笑い、互いの猪口で小さくカチリと乾杯をして飲みだした。
カカシは遅れてきた訳を話してくれたが、やはり女絡みで、実は二人に言い寄られているが迷っているとの事だった。

「俺は特定の恋人を作る気なんて無いんです。でも大抵の女はそれを許さない。」

「でしょうね。」と相槌を打ったが、それはイルカも“許さない、許せない”側の人間としての相槌だった。

「でもねぇ、どちらかと付き合ってみようかな…とも考えてみたりして。」
「それは良いかもしれませんよ。付き合ってみてどんどん好きになって行くかもです。」
「……好きに?それって面倒くさくない?」
「面倒だなんて…。」

イルカは、はたと気が付いた。
カカシ程の戦忍には、恋人という「大事な存在」を作る事をも難しいのかもしれない。
狙われるのが己の命だけではなくなる可能性が有るからだ。

「お相手も上忍クラスのくノ一で在れば、きっと大丈夫ですよ。」
「そう?好きになれるかなぁ…。」
「どちらもカカシさんの事が本当に大好きなんでしょう?より誠実そうな方とお付き合いをしてみては?」
「うーん…。アカデミーの先生がそう言うなら…試しに付き合ってみるかな…。」

返事の割には あまり気乗りがしていない顔でそう答えたカカシは
「イルカ先生とも、これでお友達ですよね?また誘ってもいい?」と綺麗な笑顔を見せた。
里一番の忍者に、こんな笑顔で誘われれば断る事なんて出来るはずがない。

「俺で良ければ またお声をかけてください。そして“彼女”の話でも聞かせてくださいね。」
「だね。決まり!また誘うよ、俺イルカ先生気にいっちゃったしね。」

あはは!と楽しそうに笑ってくれる上忍にイルカは笑顔を見せながらも小さな溜息を吐いていた。
それは… 最初の出会いがそうだった様に何故か面倒に巻き込まれそうな予感がしなくも無いからだった。











 


 

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