≡ 連載もの・3≡

□ORGEL 7
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初めてカカシさんを家に招いてから、彼は三日と空けずに俺の部屋へやって来るようになった。
二度目の時には「ねえ、今日先生の家で飲んでいい?酒買って行くから。」と声をかけて来たのだが
その後は受付などで「今日良い?」と軽く聞いてくる程になっていたのだ。
彼には付き合っている彼女がいる。なのにこの状態はなんだ?そう思わなくもない俺だったが
もしかしたら喧嘩でもしたのか?それともいつもの気まぐれでフラフラと男友達(俺)との付き合いが楽しくて女を放っているのか?
そんな風にいろいろ考え、何か聞いて波風立てる事もなかろうと気にしないようにしていた。
そんなある日、約束もしていない夜。
夕飯も終わった頃に彼が突然訪ねて来た。
呼び鈴が鳴ったので玄関まで行くと外の気配からカカシさんだと分かった俺は躊躇無くドアを開けた。

「カカシさん?どうしたのですか?」
「先生…お腹空いたよ。それに疲れた。」

見ると背嚢を背負った彼はホコリまみれで遠出の任務帰りのようだったので
「今、お茶でも煎れますから、さあ入って。」と招き入れた。

「すっごく急いで帰ってきたの。」

だるそうにサンダルを脱ぎながらカカシさんがボヤくように話しだす

「何か約束事でも?」
「ううん。お腹空いたなぁって思ったら、イルカ先生の顔が浮かんで、夕飯に間に合いますようにって…。」
「………。」

なんか違うだろ。 そう思った。

「カカシさん、そんな時は恋人の顔を見る為にも恋人に顔を見せる為にも、先ずは彼女の所へ行かなきゃあ…。」

おかしな人だな。 そういう感じでフフフと笑えば
彼は「え?」って顔でこちらを見ると「恋人って?」と聞いてきた。
…これだよ。 多分「彼女」は、もう「彼女」として見られていないのかもしれない。 多分…そう。

「カカシさんには黒髪の美人な彼女いるじゃないですか。俺に背中押されて返事を返して付き合うようになったって…。」
「ああ… 柊ね。そうか…。」

濡らして固絞りにしたタオルを足を拭くよう手渡すと、ぼんやり考え事をしながら拭いていたようだが
綺麗に畳んだタオルを俺に返す時にこう言った。

「恋人って“大事な人”の事だよね?自分も心から愛して心から大切にしたいって思う存在。」
「です… ね。」

だよな?って自分の心に確認しながら『あれ?彼女とかってそういう存在なのでは?』とも思ったのだが。

「だったらアイツは恋人では無いね。」
「え?」

冷たい表情でそう言うと「トイレ貸してね。」と俺の横を通りすぎて便所へ入っていった。
アイツは恋人ではない?て事は… え?セフ…
そこまで思うと顔が赤くなるのが分かった。アレだ、なんちゃらフレンド。性欲を満たすだけの相手。
上忍にはよくある事らしいが、カカシさんも…と、今更ながらだがハッキリと分かった。
やはり噂通りの人なのだと、少し残念にも思えたが仕方のない事なのかもしれない。
恋人と言うより情人か。
『上忍の情人…。』自分のダジャレにニヤッと笑っていると、いつの間にトイレから出たのか
「何笑ってんの?」とカカシさんが不思議そうな顔で覗き込んできたから驚いた。

「すっすみません!思い出し笑いで… ハハハッ!」

その後は彼に茶を煎れて風呂も沸かして入らせ、その間に用意した晩飯まで食わせた。

「はあ〜お腹いっぱい!幸せ!やっぱり先生の作る御飯は美味しいね!」

いやいや、焼いた魚に卵焼きに買ってきた惣菜の残り物だぞ?
あれか?味噌汁か?あ、長ネギ入りの卵焼きがお気に召した?

「んー… もう帰るの怠い。泊まっていい?」
「良いですけど明日は?」
「明日は昼までに報告書出しに行って、その後は待機所。」
「昼までに…って、俺は普通にアカデミー勤務で朝には出ますが…。」
「え?寝ていたら駄目?鍵を置いていってくれたら、ちゃんと掛けて出ますから。鍵届けるし。」

俺にもこのくらいの軽さがあれば彼女の一人や二人出来てるかもしれない。などと変に感心しながら「分かりました、いいですよ。」と返事をしていた。
そして卓袱台の前で眠たそうなカカシさんの為に寝室へ行って押入れから客用布団を出そうとしたが

「何やってんの?」
「!!!」

押入れの戸を開けた俺の手を止めるように、いつの間にか真後ろに立っていたカカシさんが手に手を重ねてきた。

「何ってカカシさんの布団を…。」

ピタリと背後に立つ彼の体温に胸が苦しく高鳴る。

「そんな面倒な事しなくてもいーでしょ。一緒に寝ればいいんじゃない?」
「え?でもベッドはシングルなんで男二人は狭いかと…。」
「いいよ、面倒だから。それにイルカ先生の体温高いから抱いて寝たら気持ち良さそう。」
「だっ抱くって…」

静まれ心臓!

「あ、なに期待してんの?やだなぁ先生ったら。」

急に離れて行きクスクスと笑うカカシさんに我に返る。
何期待してんのって… 何期待してんのって…  酷いですよカカシさん。

「?あれ?先生?泣いてるの?」
「泣いてなんかっ!」
「ごめん、からかったわけじゃないんだよ?」
「から…からかったじゃないですかっ!」
「違うよ、ごめんね?意地悪に聞こえたならごめんなさい。謝る。ね?」

今度は俺を優しく包み込むように、ふわっと抱き締めてきた。
何がなんだか分からなくなる。この人は俺をどうしたいんだ?
友達?ならばこうして女を抱くように優しく抱きしめないで欲しい。
馬鹿だなぁお前!って、笑って言ってくれたほうがいい。

「あのね、わざわざ布団出さなくてもいいですよ。シングルって言うけど先生のベッドは大きめだし大丈夫かなって。」
「カカシさん…寝づらくないですか。」

不覚にも鼻をすすりながら聞いてしまう。

「うん。あのね、イルカ先生を抱きしめて眠りたいなって言うのはホント。先生暖かいし。」

なんかもう… 好きにしてくれって感じで この件に関してのこの人との会話はやめた。

「分かりました…。じゃあ歯磨いて寝ますか。」
「だーね。あ、歯ブラシって有る?無ければ先生のでも構わないよ。」
「俺が嫌です。予備の有ります。」
「うわー… つれない…。」

つれないとかじゃ無いでしょうが。

そして本当にその夜カカシさんは、背中を向けた俺の体を抱きしめて眠りについた。
俺も何年ぶりかの人の体温で、思ったよりも深い眠りにつけたようだった。
何故か あのオルゴールの音色が聞こえたような… 気がする。










 


 

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