≡ 連載もの・3≡

□ORGEL 8
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カカシが柊と言う黒髪の彼女を、もう恋人と言う枠から外しているのが分かった。
恋人… と言っても、そう思っていたのはイルカと彼女だけだったようでカカシの口からは「アイツは恋人では無い。」と聞かされたのだ。
しかしイルカの家に来ない間は“彼女”の柊と会ったりしているようで
時々「昨日女と飯食いに行った店でね…」とか「女って面倒くさいよね。昨夜は何だか質問攻めにあったよ。」など、イルカにこぼしていた。

「カカシさんが あまり構ってやらないからヤキモキしてるんですよ。可愛いじゃないですか。」

別に彼女のフォローをする訳でもないが、イルカは会話の流れでそう返しながらカカシのグラスに酒を注いだ。
今日も宅飲み。二人で帰りの時間を合わせ、商店街を並んで歩いて買い物までしてきたのだ。
惣菜屋でアレもコレもと食べたいものを買い、二人で選んだ酒を買い…
とうとうカカシが「泊まった時の為に!」と、自分用の使い慣れているブランドの歯ブラシまで買った。

「ねえ、なんで構ってやらなきゃいけないの?抱くだけじゃダメなの?飯だってたまに連れてってやってるよ?」

不満そうな顔と口ぶりで聞き返してくるカカシが、まるでアカデミーの生徒の様で
一瞬ポカンとしてしまったあとにクスッと笑って答えてあげた。

「女ってそんなものですよ。ま、経験の少ない俺が言うのも何ですが。」
「ふぅ…ん。面倒くさいよね…ほんと。」

イルカの答えに納得したのかしないのか、意気消沈した様に黙々と酒を飲み続けるカカシを見て、イルカは心のどこかで「この人は可哀想な人だ。」と思ってしまった。
今まで本当に人を愛する事が無かったのか?彼を取り巻く環境は、どんなものだったのか?

『当たり前…か。エリートで何でも熟(こな)す。聞けば六歳から中忍で部隊長までやった事が有るスゲェ人だしな。』

それにしても前に廊下で見かけた柊と言う女は「カカシってそんな奴」と、友達に余裕が有る様な口ぶりで話していたのに
なかなか腰を落ち着けないカカシに業を煮やして来たのか焦りが見える。
それを考えると何だか可笑しい。
カカシは多分女の前では見せぬ顔や生活感をイルカの前ではしてみせるのだ。

「ねえ先生?今日泊まっていっていい?明日休みなんだけどさ。」
「俺は仕事ですよ。それに放課後も残業と受付業務が入っているので…。前の様に鍵かけて行ってくださればオーケーです。」
「そうかぁ…忙しそうだね。じゃあ帰るかな…。」
「朝飯作って置いておきますんで、良ければお泊まりください。布団… 敷きます?」
「一緒でいい。湯たんぽ先生と寝ます。」
「何ですかそれ。俺 湯たんぽですか。」

ちょっと不貞腐れた顔でイルカが言うと、カカシはくすくすと楽しそうに笑い「あったかくて気持ち良いからね。」と言った。
イルカも悪い気はしないので「ええ、ええ。貴方の湯たんぽで結構ですよ。」と仕方無いなと苦笑いで答えた。
カカシとこうして同じ時間を過ごすのが楽しくて仕方がない。
いや、それだけじゃない。楽しくて… 嬉しい。そして、ときめきさえ感じる。
彼とずっとこうしていたい。いつでも隣りにいて欲しい。
イルカの心は既にカカシに奪われていた。しかし それを認めてはならないと言う自分も居る。

『二人で過ごす時間では、俺だけのカカシさんだ。』

里で一番強いと言われるカカシだが、屈託なく笑う様に幼さを感じる時もあって庇護欲を掻き立てられたりもする。
「恋人」には成れなくても、こうして側にいられる存在で有りたいと願ってしまう。
夜も更け、二人共風呂も済ませて一つのベッドへ入る。

「湯上がりだからかなぁ…。先生ってホント温かいよね。」

カカシが背後から密着して来て呟くのだが、息がイルカの首筋に当たって変な気持ちになりそうだった。
「俺は湯たんぽですからね。」軽く笑って返したが、内心ドキドキしている。少し辛い。
カカシのスキンシップは女限定であれば良かったのに…と恨んでみたりもするが…

「ひっ!」

首筋を舐められ驚いたと同時に変な声も出てしまった。

「あー… ごめんごめん。ごめんなさいです。ついつい。」
「………。」

ついつい?
カカシの戯れは、それだけで終わり 直ぐに眠ってしまったようで寝息が聞こえて来たのだが
収まらないのはイルカで、ただひたすら静かに静かに…気持ちに冷静さを保ち心と体の熱が冷めてゆくのを待った。

『馬鹿な… 俺はカカシさんを求めて…いる?』

他の女達のようにカカシに抱かれたがっている…

『考えるな。望んじゃいけない。』

望まなくとも最初からそんな希望すら無いのは分かっている。
それに仮に望んだ事が現実になるとしても今までの女達同様、カカシにとってはただの戯れにしか過ぎないのだ。
イルカは力無く笑うとカカシの寝息を聞きながら静かに瞼を閉じた。


午前の授業を終えたアカデミーでは、子供達が各々お弁当を広げ始めていた。
教室で食べる者、外の木陰や芝生の上で食べる者。
イルカも作ってきた握り飯の包みを片手に屋上へとやって来た。ここは子供達には立ち入り禁止にしている場所で他の大人達も滅多にやって来ない。

「んー…気持いいなぁ。いい天気だ。」

胡座をかいて両手を頭上に掲げて背筋を伸ばす。そして足の上に置いた握り飯の包みを見てカカシの事を思い浮かべる。
朝起きた時には、イルカを抱き寄せていた腕も解かれていてスゥスゥと静かに眠り続けていた。
その綺麗な寝顔を暫く堪能したあとに、そっとベッドから離れて朝の身支度をし、軽い朝ごはんを食べたあとに二人分の握り飯を作った。
カカシが起きて腹をすかせていればパッと食べやすい様に、食器の片付けも無いよう握り飯を二個包んで置いてきたのだ。

『もう食べ終えたかな。』

鮭と梅干しのシンプルな具だけれど、美味しく食べてもらえたら嬉しい。
そう思いながら自分の包みも広げて握り飯を一つ手に取った。

「ちょっとあんた。」
「 !! 」

一口目を食べようと口を開けた瞬間、背後から不穏な空気をかもし出す低い女の声が…
すぐさま振り返ると見た事のある女が二人、どちらも胸の前で腕を組み合わせてイルカを見下ろしていた。

「…なんでしょうか?」

眉ひとつ動かさず、座ったままで二人を見上げて問うた

「あんた、カカシと付き合ってたわよねぇ?」

そう聞いてきたのは、カカシがオルゴールを壊した日に見たヒステリックな女。

「こいつが?」

そしてイルカを「こいつ」呼ばわりしたのは未だ自分はカカシの恋人だと思っている柊と言う女。

「ねえ、あなたに聞きたい事が有るんだけど…。」

柊が赤い唇の口角を上げ、にっこりと笑った。











 


 

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