≡ 連載もの・3≡

□ORGEL 9
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「ねえ、あなたに聞きたい事が有るんだけど…。」

詰め寄る女に食事は一旦諦めざる負えないと踏み、俺は握り飯を包み直して立ち上がった。

「何でしょうか?俺は短い昼休みの間に飯も食わねばならんし、やってしまわなければならない事だって有るんです。」
「ああ… そうね、アカデミーの先生なんですって?」

顎を上げて軽く鼻で笑うと、柊は腕を組んだまま俺を蔑む様に見つめてきた。

「そうそう、自己紹介しなきゃならないわね。私の名は柊。そして付き合っている彼… 恋人は“はたけカカシ”。」
「なるほど、カカシさんの彼女ですか。」

初めて知ったふうに返したが、多分俺は薄笑いを浮かべていたと思う。
女達にはカカシさんの彼女という事で俺が愛想笑いを浮かべたと受け取られたかもしれないが
俺のこの笑顔は、いつまでも自分が「はたけカカシ」の恋人だと思っている事が可笑しくて… と言うか、端から恋人でもなかったのだと気付きもしないこの高慢な女に対する嘲笑だった。

「で?聞きたい事とは何でしょうか?手短にお願い致します。」

すると“元カノ”の女が身を乗り出してきた

「あんた、前にカカシの恋人だって私の前で言わなかった?あれはカカシと話を合わせていただけだったの?」
「あ〜… ははは。」

あの時の事は もういいだろうと思い正直に言う事にする。

「そうです、すみませんでした。一応上忍命令でしたし…お察しください。」
「今は隣りにいる柊と付き合ってるって聞いたけど、私見たのよね。」
「見た?」

すると今度は柊が目の前まで歩み寄り、俺を据えた目で見上げて言った

「ここ半月程カカシが来ないのよ。週に一、二度は会っていたのに。里にいる事は分かっているの。里外だって翌日には戻るような任務ばかりみたいだし。」
「……。」

だから何だというのだ。何が言いたい。

「このクヌギが見たって言うのよ。カカシがあんたと買い物して帰る姿を。」

クヌギと言う名の元カノがニヤリと笑う。

「後を付けたら中忍寮のアパートに入っていったって言うじゃない。どういう事?」
「やだなぁ…勘繰り過ぎですよ。俺とカカシさんはそんな…。」
「わかってるわよ。カカシが男を相手にするわけ無いじゃない。ましてや あんたみたいな平凡な男。」

二人の女がクスクスと笑い出したが俺は何とも思わない。だって確かにその通りだからだ。

「ふふふ。」
「 くすくす…柊ったらハッキリ言うことないじゃない…」

うん。ちょっと癪に障ってきた。でも我慢。

「話はそれだけですか?もういいでしょうか。昼飯食い逃してしまいます。」
「聞きたい事、まだ聞いてないわ。」
「何でしょう。」
「まさかと思うけど… あなたカカシの事を好きなのかしら?」
「どういう事ですか。」

俺は至って平然と聞き返したが、心が少しざわついた。
「あんたのカカシを見る目よ。楽しそうに並んで歩いちゃって。」クヌギが意地悪そうに含み笑いをして言った。

「随分と愛しげにカカシを見てなかった?」
「時々居るのよね… 男でもカカシに惚れる奴。もちろん相手にされずに終わるけどね。」
「本人が言ってるもん。男相手に勃つわけないって。」

だからどうした。思うだけの恋ってのもあるんだ。
……そうか。俺はカカシさんに恋をしているのかもしれない…。

「あなたがカカシにどう取り入って居るのか知らないけど、たまには彼女の家に行けって助言してくれない?」
「あら、元カノの所でもいいって言っといて。」
「駄目よ。今は私のモノ。」

モノ扱いか… 笑える。

「なに笑ってんのよ。」
「いえ、別に…。」

ああ駄目だ。笑いが止まらない。
この女達が愚かすぎて笑える。カカシさんからひとつも愛されていないってのが分からないのかな。
いや、分かりたくない… と言うか考えたくないのかもしれない。

「とにかく、何の気まぐれでアンタみたいな男の部屋へ転がり込んでいるのか知らないけれど、私に顔くらい見せるようそれとなく言っておいて欲しいのよ。」
「“先生”に分かるかしら?女心ってやつが。」
「頼んだわよ?もし…私に飽きたっていうなら…それでも一度は顔を見せに来て頂戴って言って。」
「分かりました。またカカシさんが来るようなら伝えておきます。」

伝えておくが… どうだろう?カカシさんはこの人に会いに行くのだろうか?会えばまた誘惑されて抱くのだろうか。

「じゃあお願いね。お昼、食べちゃってちょうだい。」

柊という女はニコリともせずに踵を返して数歩歩くと消えて行った。

「…ねえ、カカシから何か聞いてるんじゃないの?もう柊なんて飽きられてるんでしょう?」

あとに残ったクヌギがニヤニヤと俺に聞いてくる。

「いえ、別に何も。」
「そう?ふうん?でも飽きられてるも同然よね。じゃーね。」

ポフンと軽く煙を残してクヌギも消え去った。

「……やれやれ。」
「ほんと、やれやれだよね。」
「!!カカシさん!?」

気が付くと後方にカカシさんが立っていた。
屋上のフェンスに背中を凭(もた)れさせ、腕を組んで女達が消えた方向を見ている。

「いつから此処に!?」
「うん。二人が先生に詰め寄ったあたりから。」

ニコニコと悪びれた様子も見せずに晒した右目を弓形にしているが、少しカチンとくる。カカシさん本人の事なのに。

「俺が困っている様子を見て楽しかったですか。」
「ううん、そんな事ないよ。ごめんね?だって俺が出ていっても余計に女共がギャアギャア煩くなるかなと思って。」
「お陰で早食いでもしなきゃ次の授業の用意も出来ないですよっ。」

ちょっと膨れっ面でそう言ってやると俺は再びドッカと胡座をかいて座り、握り飯をムシャムシャ食べ出してやった。

「怒ってる?先生。」
「別に!ですっ。」
「…怒ってるじゃない。」

俺の横に来ると、しゃがみ込んで顔を覗いてくる。

「…お握りありがとね。美味しかったよ。」
「/////そ…そうですか。」
「今夜も遊びに行っていい?」
「………」

さっきの彼女達の話を聞いていたはずなのに…。
俺は落ち着き払って言ってやった。

「彼女の所へ言った方が良いのではないですか?」

するとカカシさんは「ふっ」と笑うと「やだよ」と真面目に答えた。

「飽きたんですか?やっぱり。」
「うん…飽きたって言うか、今はイルカ先生と居る方が楽しい。」
「何ですかそれ。」

不覚にもクスッと笑ってしまったが、本当に何ですかそれ、だ。楽しいってなんだ。

『ああ…そうだよな。同性といる方が楽ってやつだよな。』

納得。 カカシさんでも女遊びに飽きる時があるのだ。うん。

「あのね、先生今日遅いでしょ?受付入るって言ってたものね。」
「あ、そうでした。明日にしますか?」
「ううん待ってるよ。何か食べて帰ろう?迷惑かけたし御馳走します。八時頃には終わりますよね?」
「把握してますね〜。はい、では遠慮なく御馳走になりますよ!」
「ふふ…取り敢えず鍵、返しておきます。」

鍵を手渡すと「じゃあまた夜に。」と片手を上げてフェンスを飛び越え姿を消した。
手の中の鍵にカカシさんの温もりが残っている。今夜も遊びに行っていい?だなんて、もしかしたら二次会は俺の家でってことになるのかな。
また湯たんぽ代わりか?
そう考えると嬉しいのと可笑しいのとで笑いながら握り飯を食う変な奴と化していた。


その夜はカカシさんの知ってる寿司屋に連れて行かれ「好きなもの食べて。沢山食べてね。」と勧められ
人生二度目の回らない寿司屋のカウンターで少し緊張しながら寿司を食べた。
(一度目は三代目が連れて行ってくれた)
カカシさんはと言うと小鉢に入った肴を摘みに酒を飲み、最後に軽く寿司を食べただけ。
俺一人でムシャムシャ食べていたけど、こんな店ではカカシさんのような食べ方をする人が似合うんだろうなと思った。

「美味しかった?」
「はい!回らない寿司屋とはネタが違いますねぇ。すっごく美味しかったです!」
「ふふ。いつでも言ってよ、また連れて行くよ?」
「いえ、あれはたまに食べるからいいんです。舌が慣れたら普通の食生活に戻れないですよォ。」
「ははは!先生って面白い!」

しばらく歩いていると案の定カカシさんが「今日泊まっていい?」と聞いてきた。
この人が女を切らさないのは一人寝が寂しいからなのかもしれないなどと、チラッと考えてしまった。

「良いですよ。帰ったらすぐに風呂沸かします。」
「今日はもうシャワーだけでいいよ。」
「じゃあ俺もそうするかな。」
「うん。…明日は?」
「普通に出勤で帰りも残業無し…の予定です。」

これで俺が女なら、まるで恋人同士のような会話では?と思ってしまう。
そしてこんな時に限ってふと昼間の女の言葉が思い出された 「男相手に勃つわけないって。」
分かってるよそんな事。別に俺だってそこまで求めちゃいない。
…無理だって分かっているし俺も男の経験が有るわけじゃないから。

「ただいまぁ〜。」
「クスクス… カカシさん、ここ俺ん家ですよっ。」
「いーじゃない。歯ブラシも置かせてもらってるし。」
「シャワーお先にどうぞ。あ、ビール切らしてるかも。牛乳で良ければ冷蔵庫に入ってます。」
「うん。ありがとう。」

カカシさんが先にシャワーへ入っている間、昨夜に続き二枚目となる俺の新品のパンツを脱衣カゴに置いておき
「新しい下着お貸ししますので、ここに置いておきます。」と声をかけた。
こんな調子ならカカシさんの下着も用意して貰わないとな…と思う。

その後カカシさんとバトンタッチでシャワーを浴び居間に戻ると、彼は畳の上で本を開いたまま眠っていた。
「カカシさん、カカシさん?起きてください。」ポンポンと軽く肩のあたりを叩くとポカッと目を覚まし「…寝てた…」と呟いた。

「さあ起きて、湯冷めして風邪ひきます。布団に入りましょうね。」
「大丈夫…俺には湯たんぽが有るから。」

半分寝ぼけながら、ふんわりと笑って子供の様な顔を見せるものだから、堪えているものの箍(たが)が外れて抱きしめたくなる。
でも我慢。折角ここまで仲良くなれたのに。折角ここまで心を許してくれているのに。それを無くしてしまう事だけはしたくなかった。

「湯たんぽですか。」
「うん。俺は俺の湯たんぽを所望。」

ふふふと顔を合わせて笑い合う。二人にしか分からない会話に、くすぐったくも楽しさを感じてならない。
気が付けば二人の顔は鼻が触れ合う程に近付いていて…

「!!!」

何が起きたのか一瞬分からなかった。

「ん……カカッ」

俺は彼に口付けられている。酒と眠気が俺を女と間違えている?まさかそんなはずは

「ね、ダメ?」

カカシさんのその言葉に「え?」ってなった。ダメって何が?この人は何を言っている?

「イルカ先生を抱きたい。」
「……」

イルカ先生って言った。俺だと分かって俺を押し倒している。

「だ…抱くって…」
「ねえ、いい?」
「!!」

耳元で囁かれゾクッとする。でもこの人男には勃たないって…。 いや違う、この人… 勃って…

俺は凄く嬉しかった。男の俺に反応してくれている。あの女二人の顔が浮かび、続けて「ざまあみろ」って言葉が頭に浮かんだ。
でも同時に「ここで抱かれてしまえば、あの女達と同じになる」という事も悟った。

「はっ!?」

瞬身で飛んだらしく、気が付けばベットの上だ。

「先生… 嫌だったら殴っていいから。」
「何を… あ!」

彼の手が下着の中へするりと入り込み直に肌に触れてきた時には、もう何も考えてなんて居られなくなった。
俺は今、男に… はたけカカシに抱かれている。そう思うと少しの罪悪感とそれ以上の歓喜が俺を包んだ。

もうどうでも良い。

彼の手が、唇が舌が…  ああ…


そうして俺はカカシさんと一線を越えてしまった。
多分俺もあの女達と同じ気持ちで過ごす事になるだろうと言う後悔を抱えて。 














 


 

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