≡ 連載もの・3≡

□ORGEL 10
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カカシさんと寝た。もちろん性的な意味で。
これで俺も他の女達と何ら変わりない人間となってしまった。
はたけカカシにとっては只の性処理の相手となってしまったという事だ。
きっとあと数回は抱かれるかもだが、そのうち離れて行くのは目に見えている。
一緒に⋯ 飲みに行く事も無くなるのか。彼と話しているだけでも幸せだったし楽しかったのに。彼の顔を間近で見ているだけでも幸せだったのに。

『彼に抱かれた事が思い出に、なんて決して思わないぞ。』

俺もカカシさんの事は忘れる様にする。
彼が俺に飽きて離れて行っても、二人の間には何事も無かった様に過ごしてやる。
何処かで顔を合わせばニッコリ笑ってやって礼くらいしてやる。
だけど俺にもプライドはあるから、もしも⋯もしもだ、再び関係を迫られた日にはピシャリとお断りしてやるんだ。
「遊びの関係はあの時だけで充分。」てね。
そこまで考えてから「よっこらせ」と布団から体を起き上がらせる。

「うっ!?」

くっそ⋯ そう言えば中出ししてたよな⋯ 尻からシーツに流れ出るモノに不快感を覚えながら溜息を吐いた。
当の本人は既に部屋の中には居ない。早朝に俺の額に口付けながら「任務入ったから」って出ていったのは覚えている。
また来るのかどうかは知らないが、恋人にするような出かけ方はやめて欲しい。勘違いする。
⋯いや、あれは彼の自然な行動で、だからこそ女達も勘違いしてしまうのかもしれないな。
俺は騙されない。あれは彼にとって只の挨拶のひとつにすぎないのだ。きっと。

「あたた⋯」

軋む体をなんとか立ち上がらせ残りのモノが流れ出ないように尻に力を入れて風呂場へ急ぐ。
手にはベッドから引き剥がした汚れたシーツだ。
取り敢えず洗濯機にそれを投げ入れ急いでシャワーを浴びる。

『⋯勘弁してくれよ⋯なんでこんなにキスマーク付けるかな⋯』

体を洗いながら呆れ返った。 タコかあの人。 でも情けなくも、ちょっぴり嬉しい俺も居たりする。

「いかんいかん!」

絆されてはいけない。これ以上好きになってはいけない。騙されるな!
ガシガシと髪を洗い、風呂から上がると洗濯機を回し始め、その後俺は何事も無かった様に一日を過ごしたのである。


残業も無く家へまっすぐ帰り、夕食後にテストの採点を始めた。
テレビも付けず静まり返った部屋の中には赤鉛筆を走らせる音だけが小さく鳴り響く。
少し手を止めた俺の目はチラッと寝室に見えるベッドを見てしまう。
昨夜⋯ あの上で俺はカカシさんと⋯
見つめ続けていると余計な事が頭に浮かぶので目をそらした。
そらした先に両親の写真が有ったので、何故か酷く後ろめたい事をしたように少しだけ胸が傷んだ。
父ちゃん母ちゃん⋯ごめんよ。孫の顔見たいよなぁ?でも今 俺の心の中に居るのは男の人であって⋯
なんとなく なんとなくだけど、母ちゃんなら「イルカの好きになった人なら男でも女でも構わないじゃない?」って言ってくれる気がする。勝手な妄想に過ぎないが。
父ちゃんは⋯ うん。考えないでおこう。てか、絶対に縁を切られそうだ。

「⋯⋯⋯。」

俺は赤鉛筆を置くと立ち上がり、両親の写真の前まで行った。写真の前にはオルゴール。
母ちゃんは微笑んでるけど父ちゃんは難しい顔をしている。
ごめん父ちゃん母ちゃん⋯。本当にまだまだ孫の顔は見せられそうに無い。

『オルゴール⋯』

手に取ってクランクを回すと、カカシさんと俺を繋げてくれたオルゴールは二人が関係を持った事を祝福するかの様な優しいメロディを奏でた。

『オルゴールは俺を応援してくれてるのかな。』

なんて乙女でもあるまいし。自分でも笑える考えが頭に浮かんでビックリだ。

「!!」

その時 寝室の方で窓が開く音がして、俺はとっさに身構えた。そして薄暗闇の奥の窓の方を目を凝らして見ると⋯
「はぁ⋯」と怠そうに部屋の方へ足を投げだし窓枠に座る暗部が一人。

「カ⋯カカシさん?」

面はしているが体型と月明かりに輝く銀髪で誰なのか分かった。

「イルカ先生⋯ お腹空いたよ。」

近づく俺に気づいた彼は、面を頭の上へずらして顔を上げた。

「早朝からの任務で口にしたの兵糧丸ひとつだよ?それで何人殺ってきたと思う?」

明かりを付けると、そう愚痴りながら宙ぶらりんの足から靴を脱ぎ 片手にぶら下げて畳の上に降り立つ。

「ごめんね。方向的に窓から入る方が早かったから。」

そう言ってから「ただーいまっ。」と俺の頬に軽くキスをして玄関へ靴を置きに行った。

なん⋯ なに? 当たり前の様に俺んちに帰ってきて「お腹空いた」とか。
そして一度寝ただけで「俺達付き合ってます」的な雰囲気。
いや、普通ならそれが当たり前なのだろうけど「はたけカカシ」の場合は違うだろ?
俺の想像では またひょっこり関係を持ちたい時だけ顔を出すものかと思っていた。
あ⋯ でも任務後にヤリたくなる奴っているよな⋯。 そうか⋯今夜も⋯か。

「先生?何か食べさせてくれる?お腹空いた。」
「あ、はいっ。」
「シャワー貸してくれる?」
「どうぞ。」

彼が風呂場に行く後ろ姿を見て、また下着貸さなきゃなと頭に浮かぶ。
もう新品のは無いから俺が使ってる物を貸さなきゃだ。なるべく新しめのを⋯

『⋯てか、今度は下着持って来て貰わなきゃか?でもいつまでも続く関係か分からないし⋯。』

戦地に長い間居ると下着なんて何日も履き続けるものだ。綺麗な下着を出しておかなくてもいいのかも⋯。
そう思いつつも彼の汚れた暗部服を袋に入れ、脱衣かごの中には支給されてまだ袖を通していない忍服の上下と一度しか使用してない下着を入れておいた。

「スッキリしました。忍服や下着までありがとう先生。」
「いえ⋯。」

なんだろう、俺だけが少しぎこち無い。昨夜の事を思い出すとドキドキするからだ。そして多分このあとも⋯

「これなーに?」
「親子丼です。鶏肉有ったんで。お腹空いたって言ってたし。」
「へえ。 あ!美味しい!」

目の前で里の誉れがパクパクと俺の作った親子丼を頬張る。

「カカシさん、もう少しゆっくり食べないと。味噌汁作らなかったのでお茶飲んでください。」
「ありがと。でもほんと美味しいよ。」
「はは⋯。」

やめてくれ。 そんな⋯ 子供みたいな顔で美味しそうに飯食うの。
嬉しそうに笑顔見せて「美味しい」だなんて言うな。勘違いする。
この人 天然なんだ。計算して女を引き寄せてるんじゃないんだ。
この人の強さや美しさはもとより、こうして垣間見える無邪気さに皆心を奪われているに違いない。

「ねえ、先に寝ていい?疲れちゃった。」
「あ、はい。」

普通に眠りについてくれるのか?昨日の今日でそれならありがたい。少し体も辛いから。
そうして彼は本当に眠ってしまった。まるで自分の家で眠るかの様に無防備な寝顔を俺に晒して。
この人は女の家でもこうだったのだろうか。食事はした事がないと言ってはいたが、朝まで眠って過ごした事くらい有るだろうし。
まだしばらくは俺の元に居る気が有るらしい。虚しくもそう思い、彼の寝顔を見つめながら眠った。







 


 

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