※カカイル短編※ 

□愛される人
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俺は生まれて初めて「幽霊」というものを見た。

それは夏の終わりの夕暮れ。
縁側に座り、茜色に染まりゆく西の空をボーっと見ながら西瓜をシャクシャク食べていた時。
あ〜今日も1日平和で良かったな〜なんて呑気に考えていた時。

ふと俺の視線は、それを捉(とら)えた。
庭と道路を隔てる板塀の右側に誰かの頭の先が見えた。
板塀は俺と同じくらいの高さなので、その頭の主も俺と変わらぬくらいの背丈の持ち主…
しかも髪の色は銀色。

これは間違いなくカカシさんに違いない。きっと頃合いを見計らって脅かすつもりでいるんだ。
そう思い笑いが声に出てしまいそうなのを堪え、ニヤケる顔をそのままに腰を上げた時に気が付いた。

  なにか 変だ。

この夕暮れに少しばかり風が有るにも関わらず、その銀の梢は少しもそよがない。
しかも15cmほど開いてる板塀の下側に、見えるはずの足が見えない。
一瞬にして全身総毛立つ。
そして、ふと勝手に「嫌な予感」と言うものまでが頭の中を駆け巡る。

カカシさんは長期任務に就いていて、遅くとも今日の夜には里に戻れるはず…
だから俺は、こうして休みも取り1日かけて部屋の掃除をして…

なぜ あの板塀の向こうの髪はピクリとも動かない?
なぜ 気配も感じられないのか。

俺が勝手に思い込んでる「嫌な予感」と言うものが、ジワジワと体中の感覚を麻痺させ体の力を抜いてゆく。
嫌だ! そんな…

  「カ…」

「せ〜んせ!ただいま!!…あれ?何してるの?夕涼み?」

中腰で立ちかけた俺は、その声に驚きギョッとした顔で部屋の方を振り向いた。
そこには任務から帰って来た、少し薄汚れたカカシさんが畳の上に立っていた。

  「!」

ハッと、また板塀の方に目をやると銀髪は消えていた。

「?イルカ先生、どうしたの?何か有った?」
「あ、いや、えと…。な、何でもないです。」
そう言いながらも今の出来事に、胸がドキドキしていた。
良かった。あれはカカシさんではなかったようだ。

「せんせ?」

心配して近付くカカシさんに精一杯の笑顔で「お帰りなさい!」と言うと「うん。」と彼も笑顔を見せてくれた。
そして「キスして?」と言う彼の言葉に従い俺から顔を近づけていった。
ああ 良かった。カカシさんは生きて此処にいる。ぬくもりが此処に有る。
では、先程の銀髪の主は?

「イルカ先生、部屋掃除してくれたの?もしかして障子も張り替えてくれた?」

カカシさんは俺を抱きしめながらキョロキョロと部屋中を見渡した。

「はい。余計な御世話かなとも思いましたが、障子もだいぶくすんで来ていたし…!!」

「そう。ありがと。古い家だからね。亡くなった両親も喜びますよ。」

チュッと俺のこめかみ辺りにキスをしたカカシさんの肩越しに見える部屋の奥に、その人は立っていた。
銀髪の、カカシさんに よく似た顔付きのその人は、柔らかい微笑みを浮かべ俺を見てから、ゆっくりと頭を下げた。
そうしてカカシさんを見て、うんうんと2〜3度うなづくと、また俺を見て 宜しく頼むと言うかの如くペコリと御辞儀をして静かに消えていった。

不思議と怖くはなかった。笑っていたからかもしれない。
でも…代わりに涙が出て来た。消えて姿の見えなくなった和室の片隅に目をとめたまま、次から次へと涙が出た。

「!?せんせ?どうしたの?なに泣いてるの?」

急に半泣きしだした俺を心配して顔を覗き込むカカシさんを抱きしめて、よしよしと背中を撫でながら俺は言ってあげた。

「カカシさんは愛されてますねぇ」


え?誰に?先生に?と、はしゃぐカカシさんに今日のこの事を話すのは、もう少しあとにする。
息子に気づかれる事なく、そうっと見守っていたいのかもしれない。ふと、そう思ったからだ。





 ※亡くなった父が現れてくれたら嬉しいなと思い…浮かんだ話です。



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