※カカイル短編※
□桜の丘で
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ぽかぽかと春の陽気に誘われ、イルカは昼休みに桜の咲く丘にやってきた。
空は晴れ渡り、名も知らぬ小鳥がピーヨと ひと鳴きして飛んでいった。そしてその後を追うように、もう一羽が同じくピーヨとひと鳴きして飛んでいく。
いいなぁ。つがいかしら?と考えつつ芝生の上に腰をおろす。
新緑の良い香りがあちこちからしてくる。春は好きな季節だ。
その新緑の香りを胸いっぱいに吸い込むと息をひとつ吐き、手に持っていた弁当箱を伸ばした足の腿の上に乗せる。
そして包みをほどき『…一緒に食べる素敵な人でも居れば良いのだけど…』と自嘲した。
そんな時に頭に浮かぶのは、決してこの気持ちが叶わぬ相手…。
はたけカカシ上忍
エリート上忍で、里の誉で、とにかく凄い人
そして可愛い教え子達の師でも有る人
最初は憧れだった気持ちが、彼を見ているうちに心臓が高鳴るようになり、すぐにこれは「恋」なのだと自覚した。
自覚したら前のように彼の顔が真っ直ぐと見れなくなった。
顔が赤くなりそうだったから。
もし赤くなって『なんだ?こいつ。』と気持ち悪がられるのも嫌だった。
話しかけられそうな時も、わざと逸らしてその場を去ったりもした。
『俺って こんな臆病だったっけ?』
なんだか可笑しい。20代の、いい大人が。
ふふっと笑い弁当箱の蓋を開ける。すると白いご飯の上に、ひらりと桜の花びらが舞い落ちた。
「1人で お花見ですか?」
「 ! 」
頭上からの声に驚いたが、声の主が誰だか分かっただけに顔を上げる事が出来なくなった。
桜の木の上に、あの人がいる。胸が高鳴る。静まれ心臓!…お願いだから…。
不覚にも少し泣きそうになる。
『勘弁してくれ俺。笑っちゃうぜ?大の男が。』
ストッと音をさせ、カカシがイルカの右後ろ辺りに降り立った。イルカは思わず弁当箱に視線を落とす。
「お、驚かせないでくださいよ。カカシさん。アハハ…。ビックリした。」
肉団子を見つめながら言った。自分は上手く笑えたかしらと思いながら。
「美味しそうなお弁当ですね。先生が作ったの?」
「…はい。」
「すごーい!彩りも綺麗ですね!へぇ〜。」
イルカの顔の直ぐ横から顔を覗かせてカカシが言った。
桜の木の中に居たせいか、ふわりと桜の香りがした。
「…カカシさんも…少し食べますか?」
「え!?いいの!?」
「はい。こんなので良ければ。」
自分の手作り弁当をカカシが食べてくれる。一緒に弁当を食べてくれる。
そう思っただけで喜びで胸がいっぱいになる。
「先生。」
「はい?」
「嬉しい。」
「先生」と声をかけられ、思わずカカシの方を向いたが「嬉しい」のひと言と口布を下ろしニッコリと笑った顔に心臓が止まりそうになった。
「カ、カカッ!!!」
「おっ。肉団子美味しそう。って、何?先生。」
「顔っ…い、いいのですか!?あの、見せちゃって。」
「ああ‥。イルカ先生だからいいですよ。見ての通り隠すほどの顔じゃないんですけどね。」
ハハッと笑うと「肉団子貰っていいですか?」と綺麗な顔を可愛い表情に変え聞いてきた。
「ど、どうぞ…。」
カカシはイルカの隣に同じように足を投げ出して座った。
「箸貸して頂けますか?一緒に使ってもいいかな…。それとも‥先生が食べさせてくれる?」
「……。」
ニコッと笑ったカカシとは逆にイルカの表情は堅くなる。
何故だか悲しくなったからだ。
きっとこの人は、今までも この綺麗な顔でニッコリ笑い、優しい声で相手を惑わすような言葉を口にしてきたに違いない。
その行動に自覚が有るのか無いのかは分からないが。
「…イルカ先生!?やだなぁ、冗談ですよ!!自分で食べますって。…すみません。変な冗談言って…。」
カカシが申し訳無さそうに頭を掻いた。
「あ…いえっ。俺こそボーっとしちゃって。あははっ。あ、箸どうぞっ。」
気にし過ぎのせいか、箸を手渡す時にツイッとカカシに指先で指をなぞられた気がした。
「いただきます。」
両手を合わせ、そう言うとカカシは肉団子を1つ取り、口に入れた。
「!美味しい!!」
「そうですか!?」
どう考えようが、やはり嬉しさは前面に出てくる。褒められれば顔も綻ぶと言うもの。
「…イルカ先生もハイッ!!あーん。」
「え!?」
「ほらほら、口開けて。自分で作ったものでしょ!?」
「あ…あーん…。」
パクッと食べると、カカシがニコッと笑った。
「美味しい物は分かち合わないとね。」
「はい…。」
きっと今自分は赤い顔をしている。
思いもよらなかった幸せな時間に気が遠くなりそうだった。
「ね、先生。今度ご馳走してくださいよ、先生の手料理。俺、上手い酒でも持って行きますから。…駄目?」
また この人は…。
そう思いつつも、断る気なんてさらさらない。