※カカイル短編※ 

□魔法の言葉
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イルカ先生と付き合い始めて半年。

付き合う前から、大好きな先生の事は色々と観察させて貰ってはいたが…
やはり付き合ってみないと わからない事って有るものだ。

まず先生は朝6時に起きて珈琲を入れる。
最初は お泊まりしちゃった俺の為に、わざわざモーニング珈琲とやらを出す為かと思い

「先生、気を使わなくていいですよ。そんな事より、隣で寝てて。」

と優しく言えば

「毎朝の事なんで。お気になさらずに。」

と、声はシャキッとしてたけど
体は腰の曲がったお婆さんよろしく腰を片手でトントン叩き、時々

「イテテテ…。」

と顔をしかめたりする。
まあそれは
ハリキリすぎた夜の翌朝の先生の様子だが。

あと、先生は一見真面目で明るくて
可愛い笑顔が天使みたいだけど(アスマに眼科行けと言われた。何故?)
夜 俺と愛し合う時の先生ったら、それはそれはもう…
俺に理性って有ったっけ?そんなもの、元から有りませんでしたよね!?
そう思わせるほどに艶やかで、気が付けば理性吹っ飛びっぱなしで
窓の外で雀が鳴いてるなんて事も、ざら。
で、腰を抑えつつ先生が珈琲を…て、パターンになる。

そんなこんなで、気が付けば(…計画的でも有ったが)
今ではイルカ先生んちで半同棲状態になっている。

そして最近気が付いた事。
先生は案外泣き虫さんだって事。

悲しいドラマを見ては涙し
遠くへ赴任している元教え子からの手紙を読んでは涙し
舐めていた飴玉を誤って口から地面へ落としてしまっては涙し

そのたび俺は、どう声をかけていいのか解らなくて

「先生 大丈夫?」

なんて、ありきたりの言葉をかけていた。

だってドラマなんて所詮作り物の世界。
先生の横で冷静になって見ている俺は1つも泣けない。

元教え子からの手紙だって
手紙書けるくらいの余裕が有るんだから
むしろ喜ばしいし、書いてる暇有るなら鍛錬しろって俺なら言っちゃう。

飴玉に関しては…
先生はモノを大事にする人だから。食べ物を粗末にしない人だから。
しかし俺には、その執着が解らない。
「拾って洗えば大丈夫かも…」と呟いた先生を止めたけど。


でも、そんなある日
先生の涙して悲しくなった顔を、笑顔に変える言葉を発見したんだ!
それは先生と並んで歩いた夕暮れの帰り道。

「俺の不注意で、生徒の1人が大ケガするとこでした。」

と、目に涙を浮かべ嘆いていた先生に
少しでも元気を出して貰おうと


「せんせ、一楽でラーメン食べて行きませんか?」

そう言うと

「え!?御馳走してくれるんですかっ!?」

と、目をキラキラさせて満面の笑顔で俺を見たんだ!

さっきまで、しょんぼりと悲しそうだったのに、だよ?

もちろん言ったからには、先生にラーメン御馳走したけどね。

ハフハフ麺を冷まして美味しそうに食べる先生って超可愛い!

で、それから数日後

「大家さんちの飼い犬が死んじゃったんです。俺を見たらシッポ振って喜ぶ可愛い奴だったのに…。」

と、涙をポロポロこぼして鼻をすすってたから
先日 先生を笑顔にさせた、あの言葉を思い出し言ってみたんだ。

「…先生?お腹すいてない?ラーメンでも食べに行っちゃう?」

するとガバッと顔をあげ、目をキラキラさせて

「一楽がいいです!お腹すきました!」

と、ニパッと笑いながら言ったんだ。

で、確信したわけ。
「ラーメンを食べに行く。」は、イルカ先生を一瞬にして笑顔にする言葉なんだって。

イルカ先生の悲しみを吹き飛ばし
あの可愛い笑顔が見れる

「魔法の言葉」なんだって。

それからは、先生が涙ぐむ度に

「ラーメン食べる?」
「一楽 行く?」

が、俺の口癖になっていた。


ある日

久しぶりに、任務でドジって二の腕に刀傷を負って帰って来たとき。
先生は青い顔して俺を叱った。

「何やってんですか!なんで、病院行かないんだ!」
「だって…まずは先生の顔見ないと…。」
「馬鹿っ!俺は医者じゃないって、何度言えば解るんですか!?この傷は…縫わなきゃ…。」

少し落ち着きを取り戻した先生は

「動けますよね。一緒に病院行きましょう。ちゃんと専門医に縫って貰ったほうがいい。」

と、俺の腕を見ながら言った。

病院で、ちゃんと消毒して麻酔打って縫って貰って。
イルカ先生は、その間そばに居てくれたけど
ずっと渋い顔して傷口ばかり見ていた。


帰り道。渋い顔したままの先生を笑わせたくて冗談言おうと顔を覗き込んだら。
…少し涙目だった。

そうだ。こんな時は魔法の言葉!
先生を笑顔に出来る魔法の言葉だ!
丁度お腹もすいてきたし…。

「先生?あの…お腹すきません?一楽行きませんか?ラーメン。」
「……。」

先生は、俺の声にハッと気づいたように顔を上げ

「あ…そ、そうですね。はは…ラーメン。いいですね。」

と、何気に悲しそうな笑顔で応えてくれた。
あれ?魔法の言葉…効き目が薄れた?
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