※カカイル短編※ 

□魔性の中忍
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「先輩 知ってます?“魔性の中忍”と呼ばれている者が居る事を。」

暗殺戦術特殊部隊の待機所の片隅で、テンゾウがカカシに問いかけた。

「魔性?何?女?」
「う〜ん‥多分‥女かなぁ?」
「なんだ お前も知らないんだ?」

テンゾウは両手で自分の暗部面を裏にしたり表に返したり、くるりくるりと弄んでいた。

「先輩は上忍師になられて里に居る時間が長くなったから御存知かと。」
「だよね〜。なんで暗部の仕事までさせられちゃうかな〜。俺 明日の朝早いのに。」

遅くなったら、また子ども達にイヤミ言われちゃう、と げんなりしていた。

だったら任務も済んだし自宅で休めばよいのに、と思いつつテンゾウは話を続けた。

「そうかぁ。先輩は知らないのかぁ。」
「何?気になるの?その魔性の中忍とやらが。」
「いえ。たいして興味は無いのですが、暗部に入りたての子達が話してたから‥どんな人かと。」
「魔性…って、男を手玉に取るとかかねぇ?中忍で、そんな子居たかなぁ?」
「美人なんでしょうね。先輩でも落ちるかなぁ。」
「……は?」

カカシが、あからさまに嫌な顔をした。

「俺、そういう女に興味ないっ。絶対落ちない。」

何故なら、今カカシには気になる人が居るから。

後輩には まだ秘密だが、気になって気になって…顔を見ただけで「幸せ」って思える人が出来たのだ。

『あ〜あ…暗部の任務報告じゃ会えやしない。』

その「気になる人」は、今の上忍師としての部下である子ども達が、アカデミーで御世話になった教師。
そして偶に任務の報告、受付所にも借り出されており、笑顔で迎えて労を労ってくれる人物なのだ。

『ん〜‥考えてたら、また顔見たくなっちゃった。あの笑顔が気持ちいいんだよねぇ』

あの可愛い笑顔。癒される笑顔。

『ま、そう感じてるのは俺だけだろうけど。』

なにしろ「気になる人」こと中忍“うみのイルカ”は男だし、容姿も愛嬌は有るが普通だし、特に目立つような人間ではないからだ。

『顔の傷さえ隠せば、潜入捜査には持って来いの人だね。』

そう イルカの顔には鼻を横切る真一文字の傷が有るのだ。


「……先輩…何ニヤニヤしてるんですか? 」

気持ち悪い。とまでは口に出さずに仕舞ったが、テンゾウは先程からニヤついているカカシが不気味だった。

『この人、偶に思い出し笑いとかするからなぁ。』

普通の忍者以上に、あまり感情を表に出さないようにするのが暗部だが
意外とカカシは喜怒哀楽を感じさせるのだ。

「…なんでもないよ。ちょっと考え事してただけっ。」
「ふぅ〜ん‥そうですか。」

あ、そ。 とでも言いたげなテンゾウの返事に、少しカチンと来たカカシは

「お前、暇な時間にでも その魔性の中忍とやらが誰なのか、調べてきなさいよ。」

と、不機嫌丸出しな言い方で命令した。

「え〜!?嫌ですよ。調べて、どうするんですか‥。」

どうせ嫌がらせの考え無しな発言だろうと分かっていただけに テンゾウはウンザリした。

「顔を拝みたいだけ。」
「え、それだけですか?先輩が、その子を落とすとかじゃないんですか?」
「…それも一興だね‥。ま、俺からは落ちる事は無いけどね。」

だって今はイルカを見ているだけで幸せな気分になれるから。

「大丈夫なんでしょうねぇ先輩…。魔性ですよ、魔性。」
「なんなのよ、魔性っていうくらいなら、それなりの任務専門の“くのいち”なんじゃないの?」
「なるほど。その辺から調べてみますか。」
「はい。頑張ってね。よろしく〜。」
「……………。」

しまった!と思った時には、すでにカカシは煙と共に姿を消していた。

『…仕方ない。時間の有る今からでも聞き込みするか。』

諦めと言う溜め息を吐き、テンゾウは重い腰を上げた。
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