※カカイル短編※ 

□恋情
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カカシは 太めの木の枝に沿って足を伸ばして座り
遠く離れたアカデミー校舎裏の一点を見ていた。

そこにはイルカの姿が有った。

カカシは、ずっとイルカのことが好きで
3ヶ月前に思い切って飲みに誘ってから自然と仲良くなっていく事に成功して
今では そろそろ此の気持ちを打ち明け、良い返事を貰いたいと思うほどになっている。

そんなカカシの気持ちに拍車をかけるのは、イルカがモテると言うこと。

特に最近、イルカが女性と2人で話しているのをよく見かけるのだ。
そして大概 赤い顔した女性から手紙を受け取る。

幸い 好みの人が居ないのか、今のところ誰とも付き合っていないようだった。

そして今も。

イルカの前に、駆け寄る女が1人。
待たせてすみませんとでも言っているのだろう。綺麗な髪をサラリと揺らし、ぺこりと頭を下げている。

華奢で可愛らしい女だ。イルカの好みかもしれない。

そう思うと、胸の奥からジワッとドス黒いような…嫌な物が滲み出てくる感じがする。

『イルカ先生、断って。何を言われても 断って。可愛い笑顔を向けられても、切ない目で見られても。』

女は結局 イルカに手紙を渡して去ってゆく。あとで返事を寄越せと言う事なのだろう。


『先生、良い返事なんてしないで。あんな女と付き合わないで。』

カカシは遠くから、今にも泣き出しそうな顔で祈るだけ。


イルカは何かを考えているかのように、手紙を数秒見つめていたが
静かに肩掛け鞄の中に仕舞い込み、此方に向かって歩き出した。

実は今日も、この木の下で待ち合わせていた。
一緒に食事に行きましょうと誘っておいたのだ。


カカシはスタッと下へ降り、何事も無かったかのように平然を装い木の幹に凭れて密かに愛する人が近づくのを待つ。

「 ! カカシさん!!すみません。お待たせして…。」
「い〜え。先生は忙しいから。俺は何時までだって待ちます。」

それは本当の気持ち。
彼の為なら何時間何日何年でも待てる。
この彼への思いは、それほどに強い。 誰にも渡したくない。

だから早く告白しなければと思う。
“思う”のだが、彼がさっきのように綺麗な女と顔を付き合わせているのを思い出すと
男の自分が告白しても、気持ち悪がられて嫌われるのでは‥と言う恐怖心に苛(さいな)まれる。 でも。

『 今日こそは‥今日こそは‥。』

この気持ちを言わなければ。早く自分のものにしなければ。

この可愛い人は、どこぞの馬鹿な女に取られてしまう。


さっきの女に、心惹かれていたら どうしよう。

そう焦った気持ちが、自分に余計な事を言わせてしまう。

「イルカ先生。実は見ちゃったんですよ。隅に置けませんねぇ。可愛い人でしたね。」

するとイルカが足を止め、此方を少し驚いた顔で見た。

「 や…やだなぁ。ハハ‥。見てたんですか?‥その…彼女の声まで聞こえたりして?」

イルカが照れくさそうな、それでもって 何見てんだよ。 的な困ったような蔑んでいるような目で此方を見た。

「 いえっ、あの!遠くから見ていたし、会話なんて聞いていません!本当です。」

カカシはアハハと笑って取り繕い「ごめんなさい。」と言った。

「そんな‥謝らないでください。カカシさん。別に貴方を責めてるわけでは‥。」

どうやらイルカは本当に申し訳無く思っているようで、少し安心した。

「に、しても‥イルカ先生はモテますね。さっきの子なんてタイプじゃないの?」

違うと言って!

「 そうですねぇ‥まあ可愛いですよね。カカシさんは、ああいう方がお好みで?」

違うとは言わないのか…

「俺は‥タイプじゃないなぁ。」

心なしか 答えたカカシの声が沈んでいた。



タイプじゃないのか。
あの女はカカシさんのタイプじゃないんだ。
カカシが此方を見ていない時に、クスッと口元だけで笑ったイルカは
さて、先ほどのラブレターなる物を どう処分しようか考える。

いつものようにビリビリに破いてから燃やしてしまおうか。
どうせ 手紙の主は はたけカカシに ふられるのだ。

『どいつもこいつも、俺がカカシさんと親しいと知ると 仲を取り持って欲しいと願い出て来やがる。』

渡して欲しいと、何通の手紙を手渡された事か。

「イルカ先生。今日は魚の美味しい店を予約してあります。刺身も煮魚も凄く美味しいって。」
「そうですか!煮魚なんて自分では なかなか作らないですからねぇ。楽しみです!」

カカシは優しい。

『俺が前回 煮魚って食べてないなぁ、なんて帰り道で話していたのを覚えていてくれたんだ。』

なんの気まぐれか カカシが酒や食事に誘って来るようになって3ヶ月。
いつからかイルカはカカシに恋心を抱くようになっていた。

そのうち2人が仲が良いと知った くのいち達が、イルカを呼び出しては
カカシとの仲を取り持って欲しいだの、手紙を渡して欲しいだのと頼むようになった。

そんな女達には、こう返事をしておく。

「わかりました。カカシさんに聞いて(渡して)おきますね。良い返事くれるといいですね。」


誰が伝えるものか。誰が手紙など渡すものか。
手渡された手紙は 全て灰にしてやった。

返事も「残念ですが…」と言う内容ばかりを伝えてきた。


「イルカ先生?こっちですよ。」
「 ! あ、すみませんっ。ボーっとしていた!アハハ!」

気が付くと、右に曲がろうとしていたカカシと離れていたのだ。

「何考えていたの?まさか さっきの女性の事?それとも…煮魚の事?」

クックッと声を抑えて笑うカカシに

「バレちゃいました?」

と、惚けておどけてみせる。


笑うカカシにイルカは思う。

貴方を誰にも渡したくないと。


笑うイルカにカカシは思う。

俺だけの貴方でいて…と。









 



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