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□告白 5(完結)
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カカシさんと慰霊碑の前で会い、上忍部隊が戦地に向かって6日。
静まり返った夜の受付で隣に座っている同僚が
「そう言えば、国境に上忍部隊が行ったのはいいが、思ったより手こずってるらしいぜ。」
と、欠伸を噛み殺しながら言った。
その話は俺も耳にしていた。
カカシさんには「大丈夫」とか「信じてます」とか強気で言ったけど…
今になって一抹の不安が、不本意ながら俺の胸に浮かぶ。
「大丈夫」なんて。
あれはカカシさんに言ったのと同時に自分にも言い聞かせていたんだと、今更ながら思う。
カカシさんに会いたい。顔が見たい。
笑って「イルカ先生。」と名を呼んでもらいたい。
「…俺って馬鹿だよなぁ…。」
「ん?馬鹿?お前が?」
「あ、いやいや。あははっ。」
…すっかりカカシさんに心を捕らわれちまってる。
カカシさんも、俺に対して こんな気持ちだったのかな。
こんなに切ない思いもしてくれていただろうか。
帰宅して1人ボソボソと飯を食い、風呂に入って布団に潜り込む。
やはり頭に浮かぶのはカカシさんの顔。
今頃 彼も体を休めているだろうか。
幾らかまともな食事は取れているだろうか。
彼の無事を祈りながら瞼を閉じた。
おやすみなさい。カカシさん。
***
「どうした。カカシ。」
紫煙をくゆらせ、アスマが司令室となる天幕に顔を出す。
「どうした…って?」
「心此処にあらずって顔してるぜ。里に いい女でも出来たか?」
「…そんなんじゃないよ。ちょっと考え事してただけ。」
テーブルに広げた国境の地図に目を落とした。
「ちょっと手こずったけど、明日ここを一気に攻め込めば間違いなく落ちてくれるでしょ。」
カカシが地図上の一部を、トントンと人差し指で叩いた。
「だな。もう陥落寸前だろ。俺は早く帰りてぇよ。煙草も切れそうだ。」
「その辺の葉っぱでも吸ってろよ。」
「それも考えたんだよなぁ。」
「え。マジで?」
ハッハッハッ!!と笑い、アスマが腹を抱えて笑った。
「司令官殿の驚いた顔も見れたし、少し寝るかな。」
「…アスマなら本当にやりそうで驚いたよ 。」
「まあ、そんな顔してないで、お前も少し寝ろ。チャクラ保たんぞ。」
ポンポンとカカシの肩を叩き
「じゃ、先に寝るわ。」
と、アスマが天幕から出て行った。
「……。」
早く帰りたい…か。
自分も早く帰ってイルカの顔が見たい。
祝杯をあげましょうね。と言ってくれた。
誤解してしまいそうな、あの切なく揺らめいた黒い瞳…。早く彼の顔を見たい。
「イルカ先生…。」
向こうから抱きついて来てくれた。
彼をこの手で抱き締めた。
「待っててね先生。もうすぐ帰るから。」
すぐに終わらせる事が出来ると思った戦なのに。
だから写輪眼も使わずにいたのに。
「明日で一気に終わらせるさ…。」
そっと指先で額あての上から左目を抑えて呟いた。
**
「 ! 」
嫌な夢を見て目が覚めた。
「…カカシ‥さん…。」
寝苦しかったのか、うっすら体も汗ばんでいる。
自然と右手は、動悸を静めようと胸元を抑えていた。
「夢か…。」
少し落ちついてから洗面所へ行き、水で顔を洗う。
昨日 受付で同僚と、今回の戦は手こずっている、なんて話をしたからか。
信じているはずの俺が少しでも不安になったからか。
夢の中では、皆が血を流して闘っていたのだ。
それはカカシも例外ではなく…。
「大丈夫。皆無事に戻ってくる。」
鏡の中の情けない顔をしている自分に、そう言い聞かせた。
***
昼過ぎ
紅さんが声をかけてきてくれた。
「イルカ。あなた顔色悪いわよ?ちゃんと食べてる?」
考えてみたら、最近食が細くなっている。食べる気がしないのだ。
「食べてますよ。でも最近忙しくて、食事を取る時間も不規則になって来てるかなぁ。」
アハハと笑ってみたが
「寝不足も有るんじゃない?ちゃんと体調管理しなきゃ駄目じゃないの。」
クマ出来てるわよ、と 綺麗な顔を近づけて俺の目の下を見ていた。
「ご心配ありがとうございます。」と、紅さんと別れ、午後の授業の為 教室に向かった。
**
「上忍部隊が やってくれたぞ。」
「負傷者も少なくはないようで、急いで戻るようだ。」
夕刻
受付業務に付いた時、長引いていた戦が、終わりを告げた事を知った。
急いで戻るとしても、明後日の昼前くらいには里に着くだろうか。
「おい、頼むよ。」
「!あ、すみません。お預かりしますっ。」
ボーっとしていて目の前に差し出された任務報告書さえ見えていなかった。
「はい。お疲れ様でした。」
なんとか笑顔で業務をこなしたが、正直「心此処に有らず」な俺だった。
カカシさんが帰ってくる。
怪我はしていないだろうか?
あの祝杯をあげる約束は覚えているだろうか。
その祝杯の席で、俺は言うべき事が有る。
今度は俺が告白しなければ。
今の自分の‥カカシさんへの気持ちを。