∴季節物・誕生日∴
□2016年 イル誕
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今年もイルカの誕生日が迫るなか、カカシは何をプレゼントしようか悩んでいた。
毎度毎度の事ながら、何が欲しいのか聞いてみても「別に何も」だの「何も要りませんよ」だの
物欲が無いイルカの返事は素っ気ない。
それでも粘って聞いてはみるが「では新しい炊飯器を!」だの「一度餃子を腹いっぱい食べてみたい!」だの
色気の無い答えが返って来るだけだった。
『何をあげるかって事より、どう喜ばせるか…だな。』
カカシは木の上の太枝に足を伸ばして腰掛け
こちらに気づいていない、校庭で子供達と はしゃいでいるイルカを見ていた。
『ほんと あの人って子供好きよね…。』
そこでカカシの頭に良い案が浮かんできた。
子供が好きなら子供に囲まれた誕生日パーティを開いてあげれば良いのだと。
『決まり!プレゼントも人数分用意しなきゃね。』
うふふと目を細めて開いていた愛読書を閉じると、ドロンと枝の上で姿を消した。
さて 五月二十六日
「準備もあるから帰りは遅くなってもいーよ。」とカカシに言われていたイルカ。
しかし今日に限って残業も無ければ受付業務も無し。
遅くなっても… と言われても、あまり遅くなっても怒るだろうから
少しだけ書庫に立ち寄って調べものでもする事とする。
『…準備が有るからって、俺の誕生日に御馳走でも作ってくれるのかな。』
カカシが先に家で待っている誕生日なんて初めての事。
彼の、イルカに何かをしてあげたいという気持ちがひしひしと伝わっていただけに
カカシの思う通りに気の済むまでやらせてあげようと思っていた。
お金をかけた材料で料理をしていても「勿体無い」は言わずにおこう。
珍しく欲しい物を聞いてこなかったけど、高級品を手渡されても臆する事無く受け取り素直に喜んであげよう。
そういろいろと考えていたら早くカカシの顔が見たくなり、結局はいつもよりほんの少しだけの遅い帰宅となった。
アパートに近づき、二階角の自分の部屋に明かりが灯っているのを見るだけで
とても幸せな気持ちで胸がいっぱいになった。
『…換気扇が回っていないって事は台所には立っていないのかな。』
もしかしたらカカシの事だから、仕出しの料理でも並べているのかもしれない。
どうあれ祝って貰うのは嬉しいし照れくさい。
イルカは自然と笑顔になりながらアパートの階段をゆっくりと登って行った。
『!!この気配!イルカ先生ったら思ったより早く帰ってきたな。』
卓袱台の上には所狭しと御馳走が並べられ、その中心にはスポンジの層が二段のバースデーケーキが置かれてあり
部屋の壁にも子供が作ったような色紙のリングで出来たペーパーチェーンが飾られ、イルカの形の風船も浮かんでいた。
そして子供らしい字体で「イルカ先生おたんじょう日おめでとう」と書かれた紙も貼られている。
『む、来たな。』
玄関先までイルカが近づいたのを察知すると、カカシは印を組んだ。
「ただいま!カカシさん?」
いつもなら先に部屋に居れば玄関ドアを開けた途端に目の前に居るはずなのに
今日は準備に手間取っているのか出て来ない。
「カカシさん?」
靴を脱いで居間へ向かう。
「カカ…」
部屋に入った途端にパーン!パーン!とクラッカーが鳴り響き、色とりどりの紙吹雪が舞った。
「「「せんせーお誕生日おめでとう!!!」」」
「 へ? 」
イルカの目の前には銀髪でカカシの顔をした子供が三人。
ふふっと同じ様に笑いながらイルカを見上げていた。
「カ… カカシさん?」
「そうだーよ。今日は子供好きな先生の為に子供三人がお祝いしてあげます。」
「何故三人?」
「子供に変化、そして分身三体くらいが無理なく楽かなと。もっと居て欲しいなら増やしますよ?」
そう言い 本体と見られる真ん中のカカシが印を組もうとしたのを、イルカが慌てて手を添え止めた。
「チャクラ無駄に使わないでください。三人でも充分嬉しいです。」
その言葉にニッコリ笑った三人の子供は「せんせー早く早く!早く座って!」と、はしゃぎだした。
『もともとが大きい子供の様な人だから、違和感ないなぁ…ふふふ』
二人のカカシに両手を引っ張られ、主役の座布団に座らされると
何処から出して来たのか頭の上に花の冠を乗せられた。
「先生可愛い…」
一人のカカシがウットリとイルカを見つめていた。
多分本体なのだろうけど、花冠を乗せたイルカを「可愛い」だなんて
恋は盲目とは、よく言ったものだと可笑しくなる。
「それにしても凄いご馳走ですねぇ!」
「あのね、怒らないでね?火乃国屋の料理長に作らせて届けて貰いました。誕生日だからいいでしょ?」
いつもイルカから「贅沢は敵!」みたいに言われているカカシは、幼い顔で眉を八の字にさせていた。
火乃国屋と言えばイルカなど足を踏み入れる事すら怖ろしい高級料亭だ。
「構わないですよ、嬉しいです。」
そう言ってほほ笑むと三人のカカシはパアッと顔を輝かせ「うふふ」と顔を合わせて嬉しそうに笑った。
『うっ… これは可愛すぎる!カカシさんも考えたものだなぁ…。』
小さな美少年が三人。別に美少年でなくとも良いのだが、子供好きの自分にとっては嬉しい時間となりそうだ。