∴季節物・誕生日∴

□2017年 イル誕
1ページ/1ページ



今日は俺の誕生日。うみのイルカの誕生日だ。
仕事帰りに小さめのホールケーキ買ってワインも買って、ついでに「コノハ・フライドチキン」でサラダとポテト付きのチキン三ピースパックなんてのを買って、まるでクリスマス気分な俺は一人で鼻歌フンフン歌いながらご機嫌そうに歩いているんだ。

「………。」

時々急に寂しくなって鼻歌が途切れてしまうのは気にしないで欲しい。
て言うか、この歳で寂しいってなんだよって感じだよな。
夕暮れの道、アハハハ!っと笑いながら走ってきた三人の子供達とすれ違う。遊び終わって家へ帰るのだろう。
ナルトも… あんなふうに笑う子だった。しかし今や立派な木の葉の忍者になった。しかも里を救った英雄だ。
もう俺がラーメンを食いに連れて行ったり家に泊らせて飯を食わす事も無くなった。
子供の独り立ちを見送る親の気持ちってこんな感じなのかな…と思ったりする。無邪気な頃のアイツが懐かしくなったりする。
手にぶら下げたチキンの良い香りが鼻をくすぐり、あの頃のナルトにも食わせたいなぁ…と思ってしまう。

『いやいや、今はもっと考えてあげねばならん人が居るだろ俺っ!』

それは俺の大事な…その…カカシさんなのだが。カカシさんって言うか、今は六代目火影様だ。
火影様とかカカシ様って呼ぶと「やめてよ〜。」と嫌がる。それが可愛くてワザとに言ってみる時もある。ふふっ。
そんな良い人がいるのに誕生日に何故寂しい思いをしてるのかって?
今年の里は何故か行事が目白押し。特別忙しいんだよな。
大名が来て数日滞在なさったりとか、逆にカカ… 火影様が都に招待されたりとか
先日行われた中忍試験の一次会場は木の葉隠れだったが二次会場は砂隠れの里だからナルトやシカマルを始めとする数名の優秀な忍が試験官等で砂へ出向いてしまっていたりする。
それに今日も朝から里は賑やかだった。各国を旅して回っているサーカス団がやって来ているのだ。
そのサーカス団はナルト達がまだ下忍の頃に、とある護衛任務で知り合った方々らしく、今夜は火影屋敷にて招宴が催されるそうだ。
そんなこんなでカカシさんも本当に忙しく、ここ数日は顔も見ていないし連絡もない。
まあ、子供じゃないんだし忙しい時は会わなくても大丈夫、便りが無いのは元気な証拠、連絡なんてする暇があるなら ひとつでも書類に目を通して職務全うしてくださいと彼に言い聞かせてはあるのだが。
しかし気が付けば俺の誕生日…。
何かちょっとでも連絡あるかな?何か言葉のひとつでも式が送られてくるのかも…と期待していたのだが。今のところなんの音沙汰もなしだ。

「はぁ…。」

自業自得とはいえ情けなくも溜息が出る。寂しくないと言えば嘘になるからだ。
親を亡くしてからは誕生日なんて一人で過ごしてきた。たまに悪友達が祝ってくれた年もあったが。
そしてそのうちナルトと出会い、彼が祝ってくれるようになり、俺の誕生日なのに毎年俺がナルトの為にケーキと御馳走を用意したものだ。
いや……ナルトの為でも有ったが… 俺自身の為でもあったのかもしれない。
誰かと一緒に誕生日を過ごすのが嬉しかったのだ。

「ふぅ…。」

などなど、いろいろと考え事をしながら歩いているとアッという間に住み慣れた我が家だ。
カチャリとドアを開け、誰もいない部屋へヒタヒタと足音をさせて入る。
そして卓袱台の上にケーキの箱とチキンとワインのボトルを置き、何か他に摘むものでも有ったかなと台所へ向かって冷蔵庫の中を覗く。

「うーん…。惣菜でも買ってくりゃ良かったな。豆腐と納豆と卵、漬物に… お!竹輪が残ってたなぁ!」

カカシさんが毎日居た頃は、ある程度の食材も揃えて買っておいたのだが、今では月に三度か…週に一度でも泊まりに来るのがいいとこだ。
もう少しで忙しいのも落ち着くと思うからと言ってはいたが、別に構わないさ。遠く離れて暮らしてるわけではないから。

「これでいいか。」

斜切りにした竹輪はワサビと醤油で頂く事にして、カカシさんが買ってくれた洒落た藍色の四角い小皿に盛り付けてみると安売りの竹輪に高級感が出た。 ハハハ。
あとはワイングラスとケーキ皿とケーキ用のフォーク…

「え?」

今、鳴った呼び鈴は俺の部屋の?

 ピンポーン

誰だ?ナルト… は、今頃は砂に居るはず
え?カカシさん?… は、そろそろ宴の始まる頃だ。 誰?
「はいっ!」ドアを開ける前に外のに居る人物に声をかける。すると…

「先生 俺です。」

ビックリだ。だって彼は今夜… と、考えていても仕方ない。俺は慌ててドアを開ける。

「こんばんは先生。入っていい?」
「カカシさん!今日はサーカス団の方々をお迎えしているのでは?」

「大丈夫。あちらにも俺が居るから。」と、カカシさんがウィンクをひとつ俺に寄越した。
あちらにも俺? ……ああ……そうか、そう言うことか。影分身を寄越したんだ。わざわざいいのに。
でも… ま、それでも嬉しいか。

「カカシさんが来るなんて思いもしなかったから何も用意してないですよ?ケーキとワインが有るだけです。あ、チキンも!」
「上等じゃない。え?先生独りで自分を祝うつもりだったの?」
「あ… ええまあ… ハハッ。」

カカシさんに座るよう促し、ワイングラスと皿を二組用意した。
「本当に買い物しなきゃ何も無くて。」と申し訳なく言えば「何も要らないよ。いいから早く先生も座ってよ。」とカカシさんが言ってくれる。
何も無いと分かってはいても、嬉しさでニヤけてしまう顔を見せたくなくて再び冷蔵庫を開けて中を覗くふりをして背中を見せる。
影分身でも嬉しい。覚えていてくれて嬉しい。俺はこれで充分です。
結局 庫内の片隅に残っていた六ピースチーズのひとつを手に取り「二人で食べましょう。」と卓袱台へ戻った。

「先生、プレゼントは後日用意しますね。」
「要りませんよ。こうして来てくれただけでも嬉しいです。」
「ねえ、こっち来て?」
「 ? 」

隣りに座るようにと手招きされて素直に従うと、途端に彼の手が伸びてきてそっと抱きしめられた。

「んーーーv久しぶり!イルカ先生の匂い。はあ〜… やっぱり落ち着くね。」
「俺はあんたの匂い袋か。」
「今日は泊まって行っていいでしょ?」
「え?」

カカシさんの顔が近付いてきたのだが、俺は慌てて顔を後方へ離した。

「…え?何それ先生。傷つくなぁ。」
「あのですね、カカシさんには違いないでしょうが俺としては…その…影分身とはそういう事したくないです。」

くだらないと思われるかもだが、俺は本体のカカシさんとしか触れ合いたくない。

「……本体に操を立ててるってわけ?」
「…そ…そうです///」

笑うなら笑え

「先生、そんな可愛い事言っちゃうんだ?」
「可愛くはないです。何言っ…」

カカシさんの顔がズイッと目の前に近づく

「そんな嬉しい事言ってさ…。今夜は寝かせられないじゃない。」
「だっだからっ!申し訳ありませんが影分身とは…っ」
「ねえ、よく俺を見て?感じて?影分身だと思う?」
「………。」

カカシさんの… この感じ… チャクラ…  え?

「本体!?」
「当たり前でーす。なぜ先生の方に影を送らなきゃいけないんですかっ。先生には本体でしょっ。」
「で!でも!サーカス団の…」
「昼にも会食してるしね。明日の興行初日の挨拶にも行かなきゃだしね、団長達と顔合わせる機会は沢山あるのよ。大丈夫。」
「…あなたって人は…」
「ふふっ。駄目?」
「いーですよ。今日は俺の誕生日ですし大目に見ましょう。」
「うん!ありがと先生。」


そうして彼は至近距離に顔を寄せ、口付けする前に甘い声で囁いた


ハッピーバースデー… イルカ













 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ