∴季節物・誕生日∴

□2019年 カカ誕
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風がほんの少しだけ涼しげになり、空も高くなった仲秋の木ノ葉の里に一人の男の子が生まれた。その子が母の横で眠る病室には祝いの品が山積みになり廊下の壁際にも花が溢れ出ていて、まるで花屋の店先のようだと医者も笑った。
生まれた男の子は色白で父親似の白銀の髪を持ち、なかなかに整った顔立ちだと、他の病室の母親達も毎日来ては羨ましそうに顔を覗き込む。
父親の名は、はたけサクモ。木ノ葉の里で一番の凄腕忍者と言われ他国にも「白い牙」と言う二つ名で恐れられてる忍びである。
彼の息子が妻の体内から生まれでた日、彼自身は戦地に居た。明日には片もつくであろうと思われた夜、焚き火を前に妻の事、生まれてくる我が子の事に思いを馳せている時だった。一人の中忍が式を手に近づいてきて「はたけ隊長、里から式が届いております。」とサクモにそっと式を手渡したのだ。

十五日 元気な男の子誕生。

「やったぞ!男か!」
「サクモさん⋯生まれたのですか?」
「ああ!男の子だ!元気な男の子らしい。」
「おめでとうございます!」
「やりましたね!」
近くにいた者が次々と祝いの言葉をかけてくれ、サクモは「うんうん。」と目に涙を滲ませながら頷いていた。
『名前は⋯どうしよう。あいつは俺に任せると笑っていたが⋯。うーん。』
その夜は星空を見上げながら一晩中息子の名前を考えた。キラキラと光る小さな星々が息子の誕生を祝ってくれているようにも思えて、戦中とは言え心が和んだ。
『俺の名前は親父が畑の作物の様にスクスクと育つようにと名付けてくれたものらしい。⋯畑にちなんだ名前⋯うーん。』
まだ見ぬ息子を思い浮かべながら『お前はどんな名がいい?』と問いかけて目を瞑った。


木ノ葉病院の産婦人科棟にバタバタと走る足音が響き渡る。
「廊下は静かに!!」
「わ!は、は、はいっ!」
戦地から戻ったサクモは報告書を副隊長に任せて里の大門を潜って直ぐに木ノ葉病院へとやって来たのである。
目指した病室の廊下には溢れた贈り物や花の山。そっと室内へ身を乗り出し、中の様子を伺った。
「あなた⋯。廊下走って叱られていたでしょう。」
出産を終えた美しい妻が横たわったまま静かにクスクスと笑って出迎えてくれた。
「⋯ありがとう、お疲れ様。えーと、あの⋯プレゼントの山を持ち帰るよ。」
「男の子よ。」
「ああ、知ってる。」
妻の横の小さなベッドで眠る赤ん坊を見た。
「俺と同じ髪色だ。」
少し驚きながらも嬉しそうに笑った。
「顔は君に似てるのかなぁ?」
「嫌ね、まだ分からないわよ。ふふ。でも口元があなたそっくりね。」
聞こえたかのように赤ん坊の口元がむにゃむにゃと動く。
「可愛いなぁ。俺の⋯息子なんだなぁ⋯。」
「そうよ、あなたも父親になったのよ。」
「君も母親になったんじゃないか。」
サクモは寝ている妻の額に自分の額をコツンと当てて「ふふふ」と幸せそうに笑った。
「名前⋯ 考えてる?」
「うん。夕べずっと考えていた。どんな名前でも反対しない?」
「もちろんよ。」
その言葉を聞いたサクモは妻の向こう側に眠る息子の傍へと移動して、そっと小さな顔を覗き込んだ。
「⋯カカシ。お前の名はカカシだよ。」
「はたけ⋯カカシ。良い名ね。」
「里を守る立派な畑の案山子になるんだ。お前は俺の子、強い忍びになれ。」
息子を愛しげに見おろすサクモの横顔を妻も微笑んで見つめていた。きっと子煩悩な父親になるのだろう。
「あなたに似て強い忍者になるわ。この子が中忍になる頃には戦争なんて無くなっていれば良いのだけど。」
「そうだなぁ。そして可愛いお嫁さんを連れてきてくれたら嬉しいなぁ。」
「気が早い話ね。」
クスクスと楽しそうに笑う妻の声がサクモの耳をくすぐる。この幸せが長く続くといい。自分も上手く戦をこなして二人の傍にいる事が出来ていればいい。
「カカシ⋯。」
すやすやと静かに眠る愛しい我が子に心の中から語りかけた。
『もしも父さんが先に逝く事が有れば⋯母さんの事は頼んだぞ。その為にも立派な強い忍者になれ。火影とまでは言わないが、それに近いくらいの男になれ。』
カカシがむにゃむにゃと頭を少し動かした。何か伝わったのかもと思うとサクモの顔にも笑がこぼれる。
「父さんは⋯ いつでもお前を見ている。頑張れよカカシ。」


「さん⋯カカ⋯」
「ん⋯」
「シさん、カカシさん起きてください。」
「あ⋯」
まだぼんやりする意識のままでカカシはガバッと状態を起こした。
「大丈夫ですか?カカシさん?」
「んあ?あれ⋯」
何か夢を見ていた気がする。男に顔を覗き込まれて何やら話しかけられて⋯いた?
「今お茶入れますね。」
「⋯イルカ⋯先生?」
少しずつ覚醒してきて状況が掴めてきた。ここは火影の執務室で、どうやら自分は椅子に座ったまま机に突っ伏して寝ていたらしい。
「だから仮眠室へ行けと言ったんですよ。」
「 ? 」
横を見るとポットと湯呑みセットが置いてある台の前でイルカが背を向けて立ち、急須に茶葉を入れているところだった。
「大丈夫大丈夫、なんて手を動かしているかと思ったら次には机に突っ伏して寝てましたよ。可哀想だからそのままにしておきましたが。」
「⋯寝落ちってやつかな。」
「疲れているんですよ。」
スッとカカシの前に湯呑み茶碗を差し出して、困った人だと言いたげにイルカは片眉を下げた。
「今日は貴方も早く上がらせてもらう約束です。夕方には火影様も自宅待機ですよ。」
「そうだった?あれ?なんで?」
気が付かないカカシに呆れ顔で溜息をついたイルカは、両手を腰にあて「御自分の誕生日をお忘れですかカカシ様。」と、カカシが様付けで呼ばれるのを嫌がると知っていながらさらりと言ってやった。
「あ、誕生日か!誕生日ね、あーなるほど。」
「どこのお爺さんかって感じの反応ですね。ほらほらもう少し書類を片付けてしまいましょうよ。明日が少しでも楽になるように。」
「その為にも先生が来てくれたんだものね。誕生日は忘れていたけど。」
「ふふ。でも誕生日に良い夢を見れていたようで良かったですね。少し笑っていましたよ?クスッて。」
夢⋯ 覚えてはいないが、とても幸せな情景だった気がする。このまま時が止まれば良いのにと思う程に⋯それは⋯
「カカシさん、もう少し休憩しましょうか?」
「ん?ああ、大丈夫だよ。さて、やっちゃいますか!」

夢の中で誰かが「頑張れよ」と声をかけてくれた気がする。それはとてもとても心地良い⋯ 温かく懐かしい声で。









 



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