※カカイル短編2※
□額当て
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『カカシさんの…額と銀毛が触れた額当て‥か。』
隣に置いてある自分のと何ら変わりない。 しかし
『…酔っていたって事で、間違って付けて帰りましたーって言い訳すれば…』
あとから聞かれたら
そう言い訳したら
気が付きませんで すみませんって笑って返せば
『 ……。 』
カカシがトイレから戻ると、イルカが額当てを締めて帰り支度をしていた。
「え?イルカ先生!?」
「すみません。明日までに遣らなきゃいけない仕事を思い出して…。今日は御馳走様でした!」
「あ‥うん。なら 仕方ないね。大丈夫?送るよ。」
残念そうに言ってくれるカカシだったが
「いえ!急ぎますんで!!すみません中座して。」
ぺこりと深く頭を下げ、イルカは居酒屋を後にした。
『やった!やってしまった!』
逃げるように居酒屋から遠ざかってきたイルカは
家の近くまで来ると、安心したかのように ゆっくり歩き出した。
そうして そっと自分の額に有る額当てに手をやる
『 …カカシさんの…カカシさんの額当て… 』
嬉しくて嬉しくて
彼が まだ傍に居るように嬉しくて。だけど
『 馬鹿だ…俺。 』
立ち止まり、急に自分が情け無くなり 胸も苦しくなってきた。
仮にも教師である自分が
これでは盗人と変わらないではないか
若くて可愛い女の子ならまだしも
あの人に見合う美しい女性ならまだしも
するりと額当てを外し、手にした木の葉マークをジッと見る
『 でも… 』
これは酔ったうえでの事
何か聞かれたら返しゃいい。
『 だよな。 いいよな。 俺が鈍臭いのはカカシさんも百も承知だよな。』
何かと理由を付けて自分を正当化し
再び我が家へと急いだ。
それから二日後に、受付でカカシに会った。
カカシの額には
『 !俺のだ。 』
よく見ないと分からないが、木の葉マークの右端に小さな小さな傷が付いている
『 カカシさん…気が付かないでしているんだ。 』
なんとも言えない罪悪感が胸に押し寄せる
「 ?先生、何か不備でも有りました?」
「 ! あ、いえっ。あははっ‥すみませんボーっとしちゃって。」
「疲れてるんじゃないの?大丈夫? 先生、頑張りすぎるからさ‥。」
カカシは本気で心配してくれているようだった。
それはイルカにとって、有り難くも申し訳ないくらいの事だ。
「今日も忙しいの? あ、でもしばらくお誘いするのも遠慮したほうがいいかな。」
どうやら今夜も誘うつもりだったらしい。
いつもなら、尻尾を振って付いて行くイルカであったが
さすがに 額当ての後ろめたさが消えぬうちの飲み会は気まずい。
「すみません。近頃忙しくなってきたものですから…。お気遣いありがとうございます。」
「うん。いいよ。寂しいけど。」
カカシは うふふと笑い
「でも忙しいのも過ぎて時間取れるようになったら是非。先生から声かけてね。」
待ってるから と、片手をバイバイと振りながら受付を去って行った。
『 さようならカカシさん。さようなら俺の額当て…。』
永久の別れでも無いだろうが、しばらく会えないと思うと そう頭に浮かんだ。
カカシはイルカの額の額当てに気が付かなかったようだ
本当は自分の物なのに。
それとも、大してイルカの事は見ていないって事か
『 それは大いに有り得るな。 』
自虐的な思考に至ると、クスッと笑い カカシの報告書を片付け
「次の方!」と、仕事を進めた。
そんなこんなで、カカシと飲みに行かなくなって 優に ひと月半は経った頃
「先生、まだ忙しい!?」
報告書を出す前に、業を煮やしたらしいカカシが声をかけてきた。
「カカシさん 先に報告書くださいよ。」
困った顔で言うと
「俺への答えが先。」
と、我がままな返事を返してきた。