捧げもの
□相愛
2ページ/2ページ
彼は母一人子一人で暮らしている
「 …で、でも俺 今日… 」
「うん。だよな… 確かはたけ上忍と…。でも何とか連絡取れないか?俺の方も交代してくれる奴がいないんだ。」
どうしよう。 と イルカは思った。
だけど彼の母親の心細さを考えたら…
「わかったよ。お袋さんのとこに帰ってやれよ。」
「いいのかイルカ!!」
「カカシさんには式を送るよ。行けなくなったって。」
彼とは またいつでも飲める
いや、もしかしたら もう誘ってくれる事も無くなるかもだ。
『いいさ… 俺には過ぎた話だったんだ。声を掛けて頂いただけでも良い思い出になった。』
そしてフッと肩の力が抜けた時
「ねえ、今 通りがかりに話が聞こえたんだけど。」
開け放している部屋の出入口から、先日受付で見たくノ一が一人入って来た。
「貴方 この前カカシと約束していたわよねぇ?それ、私が行っていいかしら?」
「 え? 」
「貴方が来れなくなったと伝えておいてあげるわ。」
「 あ… でも… 」
イルカが戸惑うと 「いいじゃないか!!お願いしろよ!!良かったなぁ!!」と同僚も勧めてくる。
「 じゃあ… お願いして良いですか?」
「もちろんよ。私だってカカシに会えて嬉しいし。」
嬉々とする女と対照的に、イルカの表情は沈んでゆく
「じゃあ宜しくなイルカ!!お袋も喜ぶよ。今度何かで埋め合わせするから!!」
同僚は急いで部屋を後にした。
彼の母親の具合が良くなればいいなと心から思い見送るイルカに
女がスッと白く美しい手を差し出す
「カカシから何か貰っているんでしょう?店の場所とか。」
それは大事に胸ポケットに入れてある。 だが
「読んで確認して捨てました。待ち合わせの店は小料理屋“木乃葉”です。」
「あ〜あ… 雰囲気良い店よね。ふふっ、分かったわ。ありがと。」
パチンとウィンクを残して女はイルカに背を向け出て行った。
『先生は何を食べるかな。…肉って感じだよね、好きなのは。』
個室でカカシは 独りお品書きに目を走らせる
『ガッツリ食べちゃうと、あとで酒飲む時の肴が食べられなくなるよね…。 』
その時 襖の外から仲居の声がした。
「はたけ様、お連れ様が いらっしゃいました。」
「 ! どうぞ。 」
カカシの声に襖が静かに開く。
「 イル… !? 」
カカシの喜びの顔が一瞬で曇ったのは、そこに愛しい人の姿が無かったから
「ごめんねカカシ、これには訳があるの。あの先生ったら来れなくなっちゃって… 」
「 ・・・先生は? 」
「え?…って、ちょっと待ってよ。そんな怖い顔しなくても…。」
そんな二人の雰囲気などお構いなしに仲居が訊ねてくる
「お飲み物は何をお持ちいたしましょうか?」
***
「はぁ・・・ 」
イルカは独り受付で、大きな溜め息を吐いていた。
チラリと壁の時計を見る。
今頃カカシは あの美しいくノ一と楽しく食事を始めているに違いない。
イルカはと言えば、急な受付業務の為 夜食も用意していなかったので
手持ちの兵糧丸が夕食となりそうだ。
『あいつのお袋さん、息子の顔見て元気出たかな…。』
と、その時
ドサッと入り口から何かが部屋に放り込まれた
「 ! お前!どうしたんだ!? 」
母親が急病で帰宅したはずの同僚だ。
誰が投げ入れたのか入り口を見ると…
「イルカ先生、帰りますよ。」
「カカシさん!?これは…これはどういう事ですか!?」
慌てて床に転がっている同僚に駆け寄ると、彼が口を開いた。
「イルカ…すまなかった。俺、嘘ついてた…。」
「 え? 」
「イルカ先生、こいつは あの女に誘惑されて一芝居打ったんですよ。」
「すまないイルカ…。」
イルカは唖然として同僚を見た。
「さ、行きますよ。あとは任せましょう、どうせ暇そうだし。」
「 ・・・・・ 」
カカシがイルカの腕に手を添え連れて行こうとした時に
イルカは同僚の男に一言聞いた。
「お前の… お袋さんは元気なんだな?病気じゃあないんだな?」
「あ‥ ああ。」
「そうか、良かった。」
安心しきってイルカがパアッと笑顔を見せる。
そしてそんなイルカに益々心が熱くなるカカシだった。
「じゃあ遠慮なく代わって貰うよ。今日は早く上がれそうだから、お袋さんに何か買って帰れよ?」
べそをかき出した同僚を部屋に残し
イルカはカカシの後を追うように部屋を出て行った。
外は すっかり星空で
騙されたと知ったイルカの暗い表情を隠すには丁度良かった。
「イルカ先生、大丈夫?」
「はい。騙されたのは残念だけど、あいつのお袋さんが病気じゃなくて良かったです。」
「 … 優しいね、イルカ先生。」
「カカシさん、あの女性は?」
「小料理屋に置いてきたよ。一人で飯食えって。」
「 ・・・ 」
二人同時にプッと吹き出して暫く笑いあう
「カカシさんも酷いなぁ!ハハハ… でも、良かったんですか?とても綺麗な方でしたよ?」
「そうかな。俺は先生の方が比べ物にならないくらい綺麗だと思うよ?」
「 ? なんですか それ。 」
カカシが何を言っているのか理解出来ずにいると
「 ・・・ま、そういう事です。」
と、何やら照れ臭そうに人差し指で自分の頬をポリポリ掻いた。
「 そういう事?そういう事って、どういう事ですか!?」
「うわー… 先生って鈍いんだ?いいですよ、もう。」
行きますよ、と背を向けるカカシを見て
『 ! え!?まさか… 』
ようやく何かを感じたイルカは、顔を真っ赤に熟れさせながら
「 おっ俺だって!俺だってカカシさんがっ…えと、その、あのっ。」
言いだしてから、何をどう言えば良いのか分からず
「ま、そういう事ですっ。」と、カカシの真似をして終わらせた。
だが その後が大変だった。
カカシが「もう一度言ってみて!?どういう事?」と言って、前に進もうとしなかったのだ。
「カカシさんから お先にどうぞ!!」
「イルカ先生から言ってください!!」
星空の下 暫く続いた言い合いは
いつしか囁き声に変わり
肩を寄せて歩く二人の影が、ゆっくりと街の灯りの中へと消えてゆくのだった。
終
***
Atsuさんから頂いたお題の「両片思いからの両思い…」上手く書けたかしら?(^_^;)
これでお許しを〜(汗
Atsuさんからの素敵なカカシのイラストは「お宝部屋」にて御覧になれます♪
そちらの方も是非是非〜(^-^)/♪