捧げもの

□相愛
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彼は母一人子一人で暮らしている

「 …で、でも俺 今日… 」
「うん。だよな… 確かはたけ上忍と…。でも何とか連絡取れないか?俺の方も交代してくれる奴がいないんだ。」

どうしよう。 と イルカは思った。
だけど彼の母親の心細さを考えたら…

「わかったよ。お袋さんのとこに帰ってやれよ。」
「いいのかイルカ!!」
「カカシさんには式を送るよ。行けなくなったって。」

彼とは またいつでも飲める

いや、もしかしたら もう誘ってくれる事も無くなるかもだ。

『いいさ… 俺には過ぎた話だったんだ。声を掛けて頂いただけでも良い思い出になった。』

そしてフッと肩の力が抜けた時

「ねえ、今 通りがかりに話が聞こえたんだけど。」

開け放している部屋の出入口から、先日受付で見たくノ一が一人入って来た。

「貴方 この前カカシと約束していたわよねぇ?それ、私が行っていいかしら?」
「 え? 」
「貴方が来れなくなったと伝えておいてあげるわ。」
「 あ… でも… 」

イルカが戸惑うと 「いいじゃないか!!お願いしろよ!!良かったなぁ!!」と同僚も勧めてくる。

「 じゃあ… お願いして良いですか?」
「もちろんよ。私だってカカシに会えて嬉しいし。」

嬉々とする女と対照的に、イルカの表情は沈んでゆく

「じゃあ宜しくなイルカ!!お袋も喜ぶよ。今度何かで埋め合わせするから!!」

同僚は急いで部屋を後にした。
彼の母親の具合が良くなればいいなと心から思い見送るイルカに
女がスッと白く美しい手を差し出す

「カカシから何か貰っているんでしょう?店の場所とか。」

それは大事に胸ポケットに入れてある。 だが

「読んで確認して捨てました。待ち合わせの店は小料理屋“木乃葉”です。」
「あ〜あ… 雰囲気良い店よね。ふふっ、分かったわ。ありがと。」

パチンとウィンクを残して女はイルカに背を向け出て行った。






『先生は何を食べるかな。…肉って感じだよね、好きなのは。』

個室でカカシは 独りお品書きに目を走らせる

『ガッツリ食べちゃうと、あとで酒飲む時の肴が食べられなくなるよね…。 』

その時 襖の外から仲居の声がした。

「はたけ様、お連れ様が いらっしゃいました。」
「 ! どうぞ。 」

カカシの声に襖が静かに開く。

「 イル… !? 」

カカシの喜びの顔が一瞬で曇ったのは、そこに愛しい人の姿が無かったから

「ごめんねカカシ、これには訳があるの。あの先生ったら来れなくなっちゃって… 」
「 ・・・先生は? 」
「え?…って、ちょっと待ってよ。そんな怖い顔しなくても…。」

そんな二人の雰囲気などお構いなしに仲居が訊ねてくる

「お飲み物は何をお持ちいたしましょうか?」




***



「はぁ・・・ 」

イルカは独り受付で、大きな溜め息を吐いていた。
チラリと壁の時計を見る。

今頃カカシは あの美しいくノ一と楽しく食事を始めているに違いない。
イルカはと言えば、急な受付業務の為 夜食も用意していなかったので
手持ちの兵糧丸が夕食となりそうだ。

『あいつのお袋さん、息子の顔見て元気出たかな…。』

と、その時

ドサッと入り口から何かが部屋に放り込まれた

「 ! お前!どうしたんだ!? 」

母親が急病で帰宅したはずの同僚だ。
誰が投げ入れたのか入り口を見ると…

「イルカ先生、帰りますよ。」
「カカシさん!?これは…これはどういう事ですか!?」

慌てて床に転がっている同僚に駆け寄ると、彼が口を開いた。

「イルカ…すまなかった。俺、嘘ついてた…。」
「 え? 」
「イルカ先生、こいつは あの女に誘惑されて一芝居打ったんですよ。」
「すまないイルカ…。」


イルカは唖然として同僚を見た。

「さ、行きますよ。あとは任せましょう、どうせ暇そうだし。」
「 ・・・・・ 」

カカシがイルカの腕に手を添え連れて行こうとした時に
イルカは同僚の男に一言聞いた。

「お前の… お袋さんは元気なんだな?病気じゃあないんだな?」
「あ‥ ああ。」
「そうか、良かった。」

安心しきってイルカがパアッと笑顔を見せる。
そしてそんなイルカに益々心が熱くなるカカシだった。

「じゃあ遠慮なく代わって貰うよ。今日は早く上がれそうだから、お袋さんに何か買って帰れよ?」

べそをかき出した同僚を部屋に残し
イルカはカカシの後を追うように部屋を出て行った。


外は すっかり星空で
騙されたと知ったイルカの暗い表情を隠すには丁度良かった。

「イルカ先生、大丈夫?」
「はい。騙されたのは残念だけど、あいつのお袋さんが病気じゃなくて良かったです。」
「 … 優しいね、イルカ先生。」
「カカシさん、あの女性は?」
「小料理屋に置いてきたよ。一人で飯食えって。」
「 ・・・ 」

二人同時にプッと吹き出して暫く笑いあう

「カカシさんも酷いなぁ!ハハハ… でも、良かったんですか?とても綺麗な方でしたよ?」
「そうかな。俺は先生の方が比べ物にならないくらい綺麗だと思うよ?」
「 ? なんですか それ。 」

カカシが何を言っているのか理解出来ずにいると

「 ・・・ま、そういう事です。」

と、何やら照れ臭そうに人差し指で自分の頬をポリポリ掻いた。

「 そういう事?そういう事って、どういう事ですか!?」
「うわー… 先生って鈍いんだ?いいですよ、もう。」

行きますよ、と背を向けるカカシを見て

『 ! え!?まさか… 』

ようやく何かを感じたイルカは、顔を真っ赤に熟れさせながら

「 おっ俺だって!俺だってカカシさんがっ…えと、その、あのっ。」

言いだしてから、何をどう言えば良いのか分からず
「ま、そういう事ですっ。」と、カカシの真似をして終わらせた。


だが その後が大変だった。

カカシが「もう一度言ってみて!?どういう事?」と言って、前に進もうとしなかったのだ。

「カカシさんから お先にどうぞ!!」
「イルカ先生から言ってください!!」



星空の下 暫く続いた言い合いは

いつしか囁き声に変わり


肩を寄せて歩く二人の影が、ゆっくりと街の灯りの中へと消えてゆくのだった。







  終




***
Atsuさんから頂いたお題の「両片思いからの両思い…」上手く書けたかしら?(^_^;)
これでお許しを〜(汗
Atsuさんからの素敵なカカシのイラストは「お宝部屋」にて御覧になれます♪
そちらの方も是非是非〜(^-^)/♪

 
 


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