※カカイル短編3※

□心覚(こころおぼえ)
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思うに、多分あの時なんだ。昼飯の「生姜焼き定食」を食べていたあの日。
本当は同僚と一緒に来るはずが「急いで片付けなきゃならん仕事が入った」と言われ、一人で足を向けたアカデミー近くの安くて美味くてボリューム満点の定食屋。
いつも中忍、下忍でいっぱいになる時間帯に運良く座れた俺は目の前のテーブルに置いた光り輝く(俺にはそう見えた)生姜焼き定食に両手を合わせ箸を進めていた。
そうして、ふたくちみくち口をつけた頃だろうか。一瞬だが周りがざわめいた事に気づいた俺は、箸を止め(しかし口はもぐもぐと咀嚼していたはず。笑)顔を上げると皆の視線の先をチラリと見た。
『あれは…。』
こんな店には珍しい、上忍の御二方。いや、上忍が珍しいのではなく、この二人がってところが珍しかったのだが。
皆の注目を浴び、メニューの券売機で食券を買い、皆と同じ様に列に並んだのは三代目火影の御子息である猿飛アスマと里の誉と謳われている写輪眼のカカシこと、はたけカカシの二人の姿だった。
列の前にいた中忍達はそれに気づくと焦ったように「お先にどうぞ!」と気を使って先へと促す。だがアスマさんは「お前らの方が先に来て並んでるんだ。気にすんな。」とぶっきらぼうに返して「ほれほれ」と手の甲を見せて振り、前に進むよう促していた。
当たり前の事だ。上忍だろうがなんだろうが、こんな所で媚びるのはおかしいぞ?と思うのは俺だけか?(アスマさんの対応もカッコイイ!さすが!)
しかしそう思うのは俺だけの様で、周りで飯食ってるヤツらは急に箸の動きのスピードを早めた。席を空けてやろうという思惑らしい。しかも二人並んで座れる様に。(その時は三席程がぽつぽつと空いている程度だった)
『なんだよ、飯くらい遠慮なくゆっくり食えってんだ。』
俺は当然食べ始めたばかりだったからいつも通りに箸を進めた。美味い!ここの生姜焼きはマジ美味い!ボリューム満点!言うことなし!ってね。
「ここいいか?」
ハッと気づいて顔を上げ、前を見るとアスマさんが定食が乗ったトレー片手に立っていた。もちろん横には写輪眼のカカシ。流石に少し驚きはしたが平静を装って「あ、どうぞ。」と相席を許した。
他の席をちらりと見渡すと二人で座れる席は他にも有った気はするが。それにしても前に座っていた奴ら、いつの間に席を外したのか。
俺の正面には、はたけカカシがスッと腰を下ろした。無駄のない動き。いや、飯食うだけだけども。
『あれ?』
そこでどうでもいい事に気づいたのは彼の定食が俺と同じ「生姜焼き定食」だった事。アスマさんのは煮魚定食だった。
『意外だな。逆のイメージが有るけど。』
そう思ってニヤつきそうになるのを我慢する。流石にそれは失礼だろ。
それはそれとして、目の前に座るエリート上忍の二人の事は気にもせずに再び食い始めた俺だったのだが、時々目に入る正面のカカシさんの定食が乗ったトレーと彼の指先が…それが何故か気になって仕方がなくなっていた。
彼は食事中でも手甲を外さないようで、そのせいか余計に指先が目に付いた。白くて男の割には細めの…でも決して華奢では無い綺麗な指。その指で触れられたら女性は皆うっとりするのだろうなと頭に浮かぶ。
「ねえ。」
急に声をかけられて前を見る。指を、手を見ていた事に気づかれたのかと一瞬気まずくなる。
「酢の物に手を付けてないようだけど嫌い?苦手?」
「え?あ… あ、あははっ。気づかれちゃいましたか!あはは!」
違った、と思った俺は誤魔化すように笑った。酢の物か。うん、確かに苦手。
「良かったら交換しない?肉三枚と。ここの肉の量、多くて…。」
「え!肉とですか?」
「もう食べられない?あんたなら食べられそうだとみたんだけど。」
あんたならってなんだよ。でもラッキー!確かに食べられるんだなぁこれが。
「はたけ上忍は酢の物お好きですか?」
「嫌いじゃないよ。さっぱりするし、体にはいいよ。」
ですよねぇ…はい。
「では手を付けていないのでどうぞ。お肉はしっかり頂きます。」
「うん。」
彼はスッと自分のトレーを俺に近付けた。取れという意味なのだろうが食べていた箸で取るわけにはいかない。なので俺は箸入れから手付かずの新しい箸を取り出そうとした。
「いいよ気にしなくて、持ってる箸で取りゃいーでしょうよ。あ、そういうの気にするほうかな?」
「え?いや、俺は気にしませんが、でも…。」
「気にしない?じゃあはい。」
カカシさんの方から彼の箸でひょいひょいと肉三切れを俺の皿に移してくれた。
「お気を使わせてすみません。」
「沢山食べて未来の忍び達をしっかり育ててね。」
「あ、はいっ。 え?」
俺のトレーから酢の物が入った小鉢を取ると、直ぐにアスマさんに話しかけて談話を進められたので、それ以上は聞けなくなったが俺の頭の中には小さなモヤモヤが残ったままになっていた。
俺が… 教師だと知っている?
彼とは受付で偶に顔を合わすだけ。どこかで耳に入った事があるのか、それともアカデミー近くで生徒達と戯れている姿でも見られているのか…。
カカシさんがくれた、すりおろした生姜が程よく乗った三枚の肉が、気のせいか俺の皿の肉より艶々と美味そうに見える(今考えると俺の方が炒めてから時間経ってるし)
その綺麗な肉を(綺麗な手指から与えられた肉を)まるで極上のステーキを食うがの如く一枚一枚大事に食べた。
それからだった。その日からなんだ。頭の中からカカシさんの事が離れなくなったのは。(肉をくれたから?いや、それだけじゃない)
「ねえ、何考えてるの?俺以外の奴の事だったら許さないからね。」
今、俺の横で枕に頭を乗せたまま美しい顔を見せるカカシさん。
「生徒達の事ですよ。本当にヤキモチ焼きなんだからカカシさんは。」
「そうだよ。俺は結構嫉妬深い。それは先生を好きになってから気付いた事だけどね。」
嬉しそうに笑いながら俺の体を抱きしめてくる。そうなんだ、あれから半年もしないうちに俺達はどんどん距離を縮めていって、カカシさんの告白から付き合うようになったんだ。
イルカ先生はいつから俺の事好きになってくれた?って聞かれる事があるけど、俺は「さあ… 気がついたら好きになってました。」って照れ隠しで答えてる。
でも多分、あの日の定食屋で俺はカカシさんに惹かれてしまっていたのだと思う。きっと俺はこの人の綺麗な手指の動きと三枚の肉で知らぬ間に恋の術にかかっていたのかもしれない。
多分…  きっとそう。








 



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