※カカイル短編3※

□Marriage Ring
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ある週末。カカシさんは朝から上忍待機所へ出向いていて、俺は家でアカデミーで使うプリントのチェックや次の体術の時間の生徒の組み合わせなどを考えたりして時間を過ごしていた。
夕方には夕飯の支度をしてカカシさんの帰る頃に合わせて秋刀魚を焼き始めた。
「ただいま帰りました。」
「おかえりなさい!」
台所から大きな声で返事をした。今ちょうど秋刀魚をひっくり返すところで手が離せず、玄関まで出迎えには行けなかったのだ。
「なに?魚焼いてるの?秋刀魚?」
台所に顔を出してニッコリ笑うカカシさん。
「もう少しで焼けます。」
「うん。風呂はご飯の後にする。」
「今お茶入れますね。」
「自分でやるから大丈夫だよ。それより先生はご飯の支度続けて。茶碗出しておくね。」
「わかりました!」
ハキハキとした俺の返事に「任務じゃないんだから…」とクスクス笑いながら行ってしまった。
ご飯の後にカカシさんは「映画借りてきたんだ。風呂から上がったら見よ?明日休みでしょ?」と誘ってきた。手渡された映画の題名を見ると俺たちの好きなアクション映画やサスペンス映画の内容ではなさそうな感じ。
「たまにさ、普通の恋愛映画も見てみようかなと思って。どんなものか。」
ニコッと笑みを残し風呂場へ向かったカカシさんの背中を見て「恋愛もの?」と俺は呟き、ポカンとしながら意味もなく片手でパッケージの裏表を見ると、そっと卓袱台に置いて映画を見る席作りを始めた。
「映画を見る席」とは、我が家にはソファーなんて洒落たものは無いので卓袱台をテレビの向かい側の壁に近づけ、壁を背もたれに座布団を敷いた「特別席」の事だ。
壁によりかかって座り、卓袱台の上に飲み物やお菓子やティシュなどを置いておくんだ。勿論部屋の明かりは消す。雰囲気作り大事!
「あれ、もう部屋を暗くしてるの?」
「わ、早いですね。」
「先生も早く入って来なさいよ。早く見よ?」
「了解!」
カカシさんに促され、俺もサッサとシャワーだけで終わらせると、急いで「特別席」へ戻った。卓袱台の上には既に茶菓子や飲み物が揃えてあった。
「俺コーヒー飲むけど先生は?」
「コーヒーはまた後で。先に炭酸飲料頂きます!」
「了解。」
壁によりかかりリモコン操作で映画をスタートさせる。この作品は若いふたりが困難を乗り越えて結婚までに至る物語のようだ。
『またなんだってこんな作品を…。』
教え子達の結婚が続いて感覚マヒしちゃってんのかな。どの子の結婚式も良かったもんなぁ。ナルトの…俺は特にナルトの結婚式には一番泣けた。
集合写真を撮る時には俺とカカシさんの関係を知っているアイツの計らいで両親のポジションに並んで立たせてくれた。
映画は離れ離れになった二人が、漸く再会できて結婚式を挙げるシーンとなった。大きな教会で神父様が二人に誓いの言葉を言う時にカカシさんが声をかけてきた。
「イルカ先生。」
「はい?」
その時、映画の中の神父の言葉が耳に入ってくる。

病める時も健やかなる時も…

「?カカ…」
「シッ。」
声をかけておきながら静かにするよう人差し指で唇を抑えられ、その指は映画の神父へと向けられた。
「???」

富める時も、貧しき時も、夫として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?

「誓います。先生は?誓ってくれる?」
「え?」
いきなりの事に戸惑う俺。
「ち… 誓います。」
半分キョトンとしたままカカシさんの遊び(?)に付き合う事にした。

それでは指輪の交換を…

映画の中の新婦は既に目に涙を浮かべ… え?カカシさんが俺の左手を新郎と同じように取った。
「先生、これからもよろしくね。」
「こ、これっ。え?カカシさん?」
「受け取って貰えますか。そのつもりで用意した。」
俺の手を取りながら、もう片方の手には指輪を持っていた。
「…だめ?」
「結婚…?」
「うん。俺と先生と。」
「……」
「ほらほら、泣かないで。」
「だって。…えぐっ。俺可愛い嫁さんじゃないのに。うえっ。結婚だなんてっ。うえっ。」
「それは悲しんでるの?喜んでくれているの?」
「嬉しいですぅー。うえぇっ。」
アハハと笑いながらティッシュで俺の顔を拭いてくれて「じゃあ指輪、はめてくれる?これ。」と顔を近づけて言ってくれた。勿論俺は頷くに決まってる。
そしていつ測ったのか指輪はすんなりと俺の左手薬指に収まり「俺にもこれお願い。」とカカシさんへの指輪を渡され、俺は少し震える指で彼の薬指に指輪をはめた。
「これで夫婦だね。」
こんな恋愛もの借りてくるなんて変だと思ったんだ。指輪まで用意してたなんて…。
俺達の密やかなる二人だけの結婚式は映画の中の神父によって進められたのでありました。結婚式ってやっぱりいいもんだね。俺幸せだ。
二人の指輪が同時に光った。






 


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