※カカイル短編3※

□好きという気持ち
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禍々しい月が空に浮かんでいたあの夜、俺は両親を九尾の襲来で亡くしひとりきりになった。戦災孤児として火影屋敷に保護されるまでは、幸いにも難を逃れた自分の家でひとり膝を抱えて泣いていた。
おかしいもので悲しみにくれていても悔しい事に腹は減るものだから家に残されていた食料でなんとか腹を満たしていた。しかし悲しみのあまり思ったほど喉には通る訳もなく、ひとりの食事は寂しくて虚しくて切ってもいない沢庵一本を少し齧ってはまた冷蔵庫へ戻していた。
あの日孤児となった子供は思ったより多くはなかった。九尾が暴れた跡には瓦礫の下から両親と共に亡くなった子も居たし、父親だけが戦忍の子もいたからだ。
戦災孤児達はその後一時的に火影屋敷で暮らす事になる。時々三代目が直々に子供達の部屋へ様子を見に来ることもあったりして。俺は三代目の前で戦忍になる決意を表していた。
「俺も父ちゃんみたいな強い戦忍になる!」
「そうかそうか。イルカは活発で賢い子だから立派な忍者になるのう。」
三代目にそう認められアカデミーでも頑張るつもりだった。
しかし忍者を志す子供達には間もなく住む家が与えられ、これも試練と幼いながらもひとり暮らしを強いられる事となったのは子供としては予想外の事ではあった。
親を亡くして数日、自宅で一人で過ごした日々が蘇る。生活必需品は全て支給されるとは言え、夜になると余計に辛い。一人で布団に入り暗闇で涙する。
俺はそのうちアカデミーで馬鹿をやっては皆を笑わせ、そうする事で注目を浴び寂しさを紛らわすようになった。三代目が言うほど俺は成績なんて良くもなかったから余計に。
それでも頑張って俺は中忍になった!我武者羅に頑張って試験も通った。
その頃には一人暮らしも立派にこなす年頃になっていたし中忍になった安心感からか周りの仲間と青春を謳歌するようにもなっていた。もちろん任務に出る度に気持ちは切替える。死んでたまるか。父ちゃんと同じ立派な上忍になる日まで、強い戦忍になるその日までと時には敵忍を冷淡に殺めたりもしたのだ。
里にいる時は三代目に指名され小間使い的な仕事も与えられた。一緒にアカデミー視察へも付き添ったりもした。
「火影様だ!」
「火影様ぁ〜」
子供達がわらわらと三代目に駆け寄るのを見ていると可愛いなぁと思っていた。本当に子供って可愛い。未来を担う玉なのだと三代目から聞かされた事がある。
「お兄ちゃんこれあげる。」
「お?折紙手裏剣か!上手に出来てるな!」
子供達は時々三代目の横にいる俺にも話しかける。そんな時は屈んで子供の目線で話しかけてやるのだ。
「僕のも上手く出来たよ!父ちゃんにあげるの!」
「そうか!きっと喜ぶぞ!」
子供達の相手をしている時、三代目がニコニコとこちらを見ていたりするので少し照れくささもあったのだがそんな時は気持ちも癒されすごく楽しかったから構わず相手になって笑って過ごした。
当時は戦地へ赴く事もそう無く、気がつけば仲間は何かしら外勤で里を出る事も多かったのに俺は三代目の側で業務をこなしている事が多くなっていた。今思えば三代目の策略だったのかもしれない。彼は俺をアカデミーの教師にしたかったのだ。後に「お前、教員試験を受けてみんか?」と勧められることになる。
『アカデミー教師かぁ…。』
その頃の俺は上忍になるという拘りも薄れていたに違いない。アカデミーで未来の上忍を育てる事に興味も湧き、それもひとつの大事な仕事だと思い始めていた。
そんなある日 友人が戦地から無事に帰郷した事を祝う為の飲み会に参加した。男女十人程の宴会で、そのうち女の子が三人。
「うみの君、ここ空いてる?この子座らせていい?」
「ん?いいよ。でも煩かったらごめんな!ははは!」
運良く隣にむさ苦しい男ではなく可愛らしい女の子が座った。誰かの知り合いらしい。きっと楽しい飲み会になるはず…と思っていたのに。
帰り間際に酔いつぶれる寸前の帰郷した友人が俺を指さし「お前は今や内勤同様!火影様に目をかけられて里外任務さえ出されない!腑抜けた野郎に成り下がった!」と言い出した。
周りの皆も驚いて「何言ってんだよ」「お前酔いすぎ」と止めていたが俺は困った笑顔で奴を見返す事しか出来なかった。隣の女の子が「うみのさんはそんな人じゃありません!」て応戦してくれたのには少しびっくりだったが。
「いいんだよ、あいつも戦地で辛い思いをして来たんだ。俺はなんと言われようが我慢出来る。」
「うみのさん…。」
「おいっ!イルカ聞いてんのか!」
他の友人達が彼を止めにかかってはいたが口だけは止まらない。
「お前三代目とデキてるだろう!火影の情人(イロ)だろう!」
気がついたら俺は奴に殴りかかっていた。皆の止める手と女子の甲高い悲鳴で楽しいはずの飲み会も終わりを告げた。



 
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