※カカイル短編3※

□好きという気持ち
2ページ/2ページ



波乱の飲み会の後、俺はあの時隣に座っていた女の子と付き合う事になった。実は俺の事が気になっていたから友達に頼んで飲み会に参加していたそうなのだ。告白は彼女から。俺もまあ…嫌いなタイプではなかったし、こんな事は初めてだったので「俺で良ければ」なんて格好付けて返事をしたのだ。
しかしどこで耳に入れたのか三代目に「イルカにも春がやって来たのかのぅ。」とニヤリとしながら聞かれることとなる。
「今は秋ですよ!」
ぷいっと顔を背けて頼まれた書類の束を胸に抱え直した。隠すつもりは無いが妙に照れくさかったのだ。
「良いのう若い奴らは。」
「三代目も恋をすれば良いじゃないですかっ。」
三代目の妻のビワコ様も九尾襲来の日に何者かによって殺害されている。今は一人でお暮らしになっているのだ。
「今さら面倒くさいわい。」
煙管の先に火をつけながら「ふんっ」と鼻を鳴らした三代目は背を向け執務室の窓から外を眺めた。
それから間もなく俺はアカデミー教師となるべく教員試験を受ける決意をし、その為に勉強勉強の日々を過ごし始めた。もちろん体を鍛えるべく鍛錬も惜しまない。そして三代目のお付きとしての日々、たまの受付業務。
気が付けばせっかく出来た彼女ともすれ違いばかりで「私との時間を少しも作ってくれない」と言う理由で別れる羽目になった。俺って恋愛不器用なのかもしれないとその時に自覚。たった数ヶ月の付き合いだった。そもそも自分から好きになって付き合い始めたわけじゃないから春の訪れと言えるようなものでも無かった気がする。
そうしてなんだかんだと努力の結果、俺はアカデミー教師となるのだが、その時は逸早く両親の墓へと報告に行った。花屋に入るのも恥ずかしかったが母ちゃんの好きそうな花を選んで買い、酒屋に寄って父ちゃんがよく飲んでいた酒の小瓶を買って行ったのだった。
俺は墓石の前で一人ニヤケつつ「父さん、母さん、俺アカデミーの先生になれたよ。」と報告した。
「良かったわね。」と微笑む母さん。「頑張ったな。」と俺の肩をポンと叩く父さん。そんな二人が傍にいる気がした。
「俺は強い忍を育てたい。肉体的にも精神的にも。」
そう墓前に宣言をしたものの「だけど人としての心を失うことの無い忍にもなって貰いたい。」とそっと付け加えた。こんな事を言うと「お前は甘いなあ!」と戦地で戦う奴等に言われかねないから本当にそっと…ぽそりと呟く程度に付け加えたのだった。
「そうだ。慰霊碑の方にも行こう。」
花を残し酒は備えた後に持ち帰る。家にある両親の写真の前に湯飲み茶碗にでも注いで供えるためだ。
俺は慰霊碑の前でも思いを馳せると何気に空を見上げた。今日は天気が良かった。墓参りには良い日でもあったな。最後に慰霊碑に刻まれた両親の名を指でなぞる。陽もだいぶ傾いてきた。空が茜色に染まりつつある。
「さて、行くとするか。」
報告も済み慰霊碑に背を向け歩き出そうとしたその時、近くの林の手前の木に木ノ葉の忍者ベストを来た男が寄りかかるように立っているのが目に入る。当然俺は驚き「わっ!」と驚愕の声を出した。気配なんて何一つしなかったから。
「終わった?」
「え?あ、え?」
何を聞かれたのか一瞬分からず俺は多分馬鹿みたいな困り顔をしていたと思うが要するに慰霊碑への用は済んだのかと聞かれたのだと気づき
「おっ終わりましたっ!すみませんっ!」
と頭を振り下ろし腰を九十度に曲げた。彼はと言うと俺の横を黙って通り過ぎて慰霊碑へと歩いて行く。俺は頭を下げたまま通り過ぎて行った彼の後ろ姿を黙って見続けた。
『…綺麗だ。』
夕陽が彼の白に近い銀髪をキラキラと光らせている。俺はゆっくりと腰を立て直して慰霊碑前に佇む彼の斜め後ろ姿を黙って見続けた。
『絶対モテる!この人絶対モテる!』
馬鹿みたいな感想を頭に浮べる俺とは違ってこの人はきっと頭が良いに違いない。佇まいでわかるが凄腕の上忍と言ったところではないか。少し猫背だがスタイルも良いし足も長い。片手に何やら本を持っている知的な人だ。「終わった?」て聞いてきた声も穏やかでしっとりとした良い声だった。
『かっこいいなこの人…。』
俺では到底こうはなれない。憧れてしまうな。こんな人が木ノ葉に居たなんて知らなかった。
「まだ何か用?」
今度は少し大きめな声で彼は振り向きもせずに聞いてきた。
「あ!いえ!すみませんでした!」
慌てて慰霊碑から離れ俺は走り出した。でも彼の姿が見えなくなる手前くらいでもう一度振り返ってその姿を目に焼き付ける。
『かっこいい。綺麗。』
名も知らぬ彼に俺は憧憬の念を抱いたのだと自分ですぐにわかった。この胸の高鳴りは間違いない。彼の虜になったのだ。





続く

 
 


前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ