※カカイル短編3※

□好きという気持ちA
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はたしてあの綺麗な上忍様は本当に存在していたのか?俺は時々思い出してはあの日の事を頭に浮かべていた。あの日と言ってももう一年も前のことだ。それでも彼への憧憬の念は捨てられず忘れられないものとなっている。両親に教師になれた事を報告しに行ったあの夕暮れ時。慰霊碑の前で彼は誰に何を思って佇んでいたのか。
たまにしか受付には座らないからすれ違いかもしれないが、あの綺麗な人をあれからまだ一度も見かけていないのだ。服の袖をめくっていたので目に入った逞しい腕が戦忍のものだと思ったのに。もしかしたら解析班とか暗号部解読班とか割と地味な所にいる?
『はっ!』
俺は閃いた!もしかして暗殺戦術特殊部隊!暗部所属かも?だとしたらあまり深くはか関わらない方が…。いやいや関わるってなんだ!俺は何を求めている!
「おいイルカ。」
ふおおぉ!暗部だったらすげーカッコ良すぎね?あんな綺麗な暗部いる?
「おい、イルカ仕事しろよっ。」
「あ!すまん!」
いけないいけない。今は受付に座っているのだった。人が来ていないのが幸いだ。
「お前来週からこっちには暫く来れなくなるんだろ?その前にここの書類も片付けちゃってくれよ。」
「そうだった!すまんっ!」
本当は親父みたいな強い戦忍になりたい俺だった。でも未来の忍を育てるのも大事な事だと悟ったのは間違いではなかったと思う。来年には下忍を目指す子供達のクラスを任されるはずなんだ。頑張らねば!
『ん?』
いろいろと思いながら書類に目を通していると何処からか花のような良い香りが漂ってきた。
「?」
「里に常駐のくノ一がこっちに向かってるんじゃね?」
隣に座る同僚が部屋の入口を顎で示すと遠くからキャッキャと女性の楽しげな声が近づいてきた。
『常駐ならば里内任務の報告か?』
香りが迫りふわっと室内に流れてきた時、俺の目は大きく見開かれた。両腕に綺麗なくノ一をぶら下げて、あの綺麗な男が入ってきたのだ。
『きっ!!来たーーーー!!』
ガタンッと椅子を鳴らして立ち上がった俺に同僚は驚き、目の前にいる綺麗な三人組もちょっと驚いていたようだった。
「イルカッどうした?」
隣から焦った様な声がする。しかし無視。
「あ、あのっ!いつぞやは失礼致しました!」
正面から見ても、口布越しに造形の良い顔が伺い知れるその男はキョトンとした目を見せてから「…なんの事?あんた誰?」と胡散臭いやつを見るような目付きで俺を見た。
「あの…慰霊碑で…」
「慰霊碑で?よく分かんないけど気にしなくていいよ。これ、お願い。」
スッと報告書を差し出すと「早くしてね。」と俺を急かした。
「あ…はい。」
すとんと椅子に腰を落として少し気落ちした俺は報告書を手に取った。
なんだよ。覚えていたの俺だけだったのか。そうだよな綺麗なお姉ちゃんじゃあるまいし、こんなむっさい中忍ひとり、あんな一年も前の一瞬の出来事をいちいち覚えているわけないか。少し残念に思う。てか、なんか寂しかった。
「…不備無し、です。」
「そ、じゃよろしく。」
彼にまとわりついている女達も俺の顔をジロジロと嫌な目付きで見やがった。
「ねえカカシ、またあの料亭に行きたいなぁ。」
「あら、南側の地区に出来たレストランも素敵なのよ。私そこがいいわ。」
「どっちでもいいよ。君達の協力無しではこの情報は手に入らなかったしね。」
彼の声に楽しげな様子はひとつも感じ取れなかったが両手に花で食事に行くなんて羨ましいを通り越して腹立たしかった。
「すげーな、はたけ上忍。相変わらずモテモテだ。」
「あのさ、俺初めてあの人を受付で見たんだけど。いつもあんなん?」
「取り巻きは居たり居なかったり。でもよ天下の「はたけカカシ」だぜ?女が群がるのも仕方ないだろうがっ。俺たちと違うんだよ。」
「はたけ…カカシ。聞いた事あるな。」
同僚が凄く驚いた顔で俺を見た。目も口も大きく開いている。
「おまっ!お前なんで知らねーの!?写輪眼のカカシ!知らねーの?」
「あ。聞いた事ある。え?あの人が?」
俺はそんなに驚きはしなかった。だってすごく納得できたから。
『どうりで惹き付けられるわけだ…。』
オーラが違うのかな。写輪眼の…カカシ…さんか。再び書類に目を落とし、名前が知れただけでも嬉しいなと、その日の俺はそれだけで満足していた。

それからは不思議とカカシさんの顔を受付で見る機会が多くなる。この前は里内でその姿を見かけたくらいだ。
『今は暗部としての任務も減ってきているのかもしれない。』
国も里も今は至って平和で誰しもが平穏な日々を送っているのだ。噂ではカカシさんもいよいよ上忍師となるらしいぞ?
『いづれ俺のクラスの子がお世話になるかもだな。』
ふふっと浮かれた俺の足取りが少し軽くなった。


 
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