※カカイル短編3※

□好きという気持ちA
2ページ/2ページ



アカデミーから下忍となった子達が卒業して上忍師の元へと旅立って行った。学校を去る後ろ姿は校内で見かけていた時よりも逞しく大きく見えた。
「イルカ、聞いたか?はたけ上忍の受け持ちとなるはずだった生徒達、全員不合格だってよ。」
「そう…か。」
生徒達の技量が伴わなかったのか彼が厳し過ぎたのか。こればかりは俺達教師も理由を聞く事など出来ない。
受け持つ弟子も持たなかったカカシさんは、また単独任務等で受付へ顔を出すようになった。俺も週に数回は受付に座るようになったから幾度となく顔を見る事が出来た。
『相変わらずかっこいいんだよな。』
ちょっと猫背気味だけどスラリとして見た目もカッコ良いし耳に入る声も心地良い。この人の戦う姿をぜひ見てみたいと思うようにもなった。
「お願いします。」
ひらりと報告書を俺の前に出すカカシさん。お疲れ様でしたとお決まりの労いをかける俺。こうしてたまにだけど俺の所にも報告書を出してくれる。
『んーと…不備無し…と。』
「はい、確かに受理しました。本当にお疲れ様でした。」
「ん。」
簡単な返事を残して去って行くカカシさん。これからどうするのかな。帰って飯でも食うのかな。いや、何処かで酒でも飲んで…いやいや、もしかしたら彼女がいるかもしれない。二人で美味しい飯でも食うのかな。
そんな事を考えていたら俺の心の中で「いいなぁ」と誰かが小さく呟いた。誰かって言ってもそれも俺自身なんだけどね。
『いいよなぁ。俺もカカシさんと飯でも…』
食いたいなぁ。一緒に酒飲みたい。あの目で見つめられながら楽しく会話してみたい。緊張するかな。勝手な想像でひとりニヤける。
「なんかいい事でも有ったのか?ほい、これ頼む。」
「あ、アスマさんお疲れ様です!」
「随分と顔がニヤケてたぞ。春でも来たか?」
「なんですかそれ。」
ハハハと笑って報告書を受け取った。春でも来たかって…。なんかそんな風に前にも言われた事あるな。ああ、三代目だ。俺に初めて彼女が出来た頃に言われたんだ。
『似たような事を言うもんだ。さすが親子だな。ふふ』
でもあの時の彼女との付き合いが「春」と呼べるものなのか俺の中ではピンとこないままだ。

世間の夕飯時が済んだ頃に漸く交代で受付を離れる事が出来た。帰りにラーメンでも食って帰る事にする。今日の気分は味噌チャーシューだなぁ。今は食う事しか楽しみが無いような俺だけどいつかまた彼女なんて出来たら今度はちゃんとデートの時間とか取ってあげるんだ。大切にするんだ。ラーメンだって二人で食べ…。
「あ。」
暖簾をくぐるとラーメンを待つ客が一人。カカシさんがカウンターに座っていて驚いた。
「らっしゃい先生!今日は何にする?」
「え?あ、えーと味噌。あ、味噌チャーシューで。」
こちらを見もしない上忍様に軽く会釈をしながら席ふたつ空けて腰を下ろした。
『マジ!?なんで!?ひぃー!』
まさか会えるとは思わなんだ!あれ?夕方近くに報告書出して今まで何やってたのかな。夕飯にしては遅いよな。ん?女の人としっぽり…て、何考えてんだ俺っ!
「はっ!」
気がつくとカカシさんがこちらを見ている。
「…あの…?」
何?俺なんか変だった?ちょっと焦る。
「あんたさ…。」
「はっはいっ!」
「前に慰霊碑でって言ってたよね。」
「あ… はい。」
今日受付で声掛けたのはさすがに覚えていたようだ。
「なんとなく思い出したよ。暗くなる前にと思って慰霊碑に行った日の事を。」
「…はい…」
そう!あの日は夕焼けが綺麗だった!貴方の髪もキラキラして綺麗だったんです!
「あの時の先客だ。俺にお辞儀して交代してくれた人。」
思い出してくれた!思い出してくれた!
「そうです!いつまでも独り占めしていてすみませんでした!気が付かなくて…。」
「いや、そんな事全然気にしてないから。ただそんな事が有ったなぁって思い出しただけ。」
「はあ…。」
会話はそこまで。彼の前にラーメンも来たし。て、え…
「顔っ!!」
「?なに。」
「く、口布下げていいんですかっ!」
「当たり前でしょう?布越しにどうやってラーメン食うの?」
ふっと鼻で笑ってラーメンを食べだす。
『顔…同じ人間とは思えないくらい綺麗だっ!』
その人間様がラーメンを啜っている。霞食って生きていそうなのにラーメン食べてる。
「あの…夕飯にしては遅いですよね俺達。へへっ。」
「…。」
もぐもぐ咀嚼しながら彼がこちらを見た。食事中に声掛けて失礼だった。でも少し話をしたかったんだ俺。叱られたら素直に謝る。
「家に帰ってベッドに倒れ込んだらこんな時間まで寝ていて、腹が減ってたから食いに来た。貴方は?仕事帰り?」
「あ、はいっ。俺も腹減って…」
「はいよイルカ先生!味噌チャーシューお待ちっ!」
コトンと目の前にラーメンが置かれた。



続く


 


前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ