※カカイル短編3※

□好きという気持ちC
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「でもさ、イルカ先生て言ったっけ?あんたいつも俺が受付に行くと凄い熱視線送ってきてたよね?あれはそういう事なんじゃないの?俺の事を視姦でもしてたんじゃないの?」
「視姦!?し、し、視姦!?」
何言ってんだ!?この人!!
「お生憎様。俺はあんたみたいの趣味じゃな…」
「馬鹿にするなーーーっ!!」
俺の声はデカい。自他ともに認めるくらいデカい。怒りに任せて吠えると更にデカくなる。分かってる。うん。ほら、目の前のエリート上忍でさえ両手で耳を抑えてる。て言うか…またやっちまったか。俺の命もこれまでか。俺は息を整えて少し冷静さを取り戻した
「…とにかく貴方の勘違いです。俺は…純粋に貴方に憧れていただけです。パンをあげた犬だって貴方の忍犬だとは本当に知りませんでした。それは…その…勝手に餌など与えて申し訳なかったですが。」
呆気に取られている上忍に大きくぺこりとお辞儀をして俺はまた受付へと急いで戻って行った。

*****

「ちょっとちょっと何事?」
ボーゼンと立ち尽くしているカカシの側に報告書を手に持った紅が近づいてきた。
「今走ってっ行ったの受付のイルカ先生でしょ?何かあったの?」
「凄い大声でさ。…俺に怒鳴りつけた。バカヤローって。」
「ぶっ… キャーハッハッハ!!て、ちょっと待ちなさいよカカシ!」
立ち去ろうとするカカシの肩に紅の爪が食い込む。
「何怒らせたのよ教えなさいよ。」
「なんでもないよ、お前には関係ない。」
「あの先生怒らせるなんてよっぽどの事じゃない。謝りなさいよ?彼、良い奴なんだから。」
良い奴でもなんでも上忍に怒鳴りつける中忍なんて初めて見た。皆この「はたけカカシ」を腫れ物のように扱うのに。
「アスマにも教えちゃうかな〜♪」
一部例外も居るが。
「分かったよ謝っておくよ。俺の勘違いで怒らせたようだから。」
「勘違い?勘違いって何を?」
「うるさい。」
ぷいっと紅から顔を逸らし歩き出した背後から「今度お酒奢りなさいよ!」と彼女の声がしたが溜息をつくだけでカカシは建物から出て行った。

*****

その日のイルカは受付業務が終わるまで苛立ちを押し殺して仕事をこなさなければならなかった。いつも笑顔で迎えてあげるよう気をつけていたのに多分その笑顔も多少強ばっていたかもしれない。
『それもこれもあの「はたけカカシ」のせいだ。』
憧れていたのに。クールでカッコイイなと思っていたのに。
『あのクールさは性格の悪さが外に出ていただけなんだ。』
そうとは知らずにいつも胸をときめかせていた自分が情けない。
仕事帰りに一楽へと足を向けながらイルカは口を尖らせ歩いていた。今日の夕飯は味噌チャーシューに餃子もつける。明日は休みだからビールも頼む。もちろんジョッキで。
「でも…。残念だな。」
本当に憧れていた。心から尊敬していた。立ち姿も座っている時に投げ出された足の長さも報告書を出してくるあの綺麗な指の細さも。何もかにもに憧れていた。彼の姿をみかける度に胸が高鳴った。
『あれ?…俺って…この気持ちって…』
本当に「憧れ」だけなのだろうかと考えた。彼に言われた「お前俺の事好きなの?」と言う言葉が頭によみがえる。
『好き?そりゃあ憧れるくらいだから好きに決まってる。』
視姦?視姦は無いだろう!無い無い!スタイル良いなぁとか足長いなぁとかは思って見た事は有るけれど。
『あれ?これも視姦のうち?』
考えていると余計に何が何だか自分でも分からなくなってきた。
「ちょっと。」
「!!!」
考え事をしている時に急に声をかけられ思わずビクッと振り向いてしまった。はたけカカシだ。
「プ…くくく…なんなのあんた。本当に忍者?」
「すっすみませんね!油断していたもので!なんですか!今度はなんなんですか!」
「里内でもさぁビクッとするくらい気を抜いてるなんてダメでしょう。」
その通りなだけに何も言い返せないのが悔しい。
「な、何か用ですかっ!俺はこれから用事があるんで失礼!怒鳴った事なら謝ります!」
ぺこりとお辞儀をすると急ぎ足でその場から離れようとした。しかしその腕をカカシに掴まれ動けなくなる。
「待ちなさいよ。あんたこの先のあのラーメン屋でまた夕飯食べるんでしょ?」
「へ?」
「奢るよ。俺も悪かった。」
「は?」
「行くよ。」
ポカンとしていると「さっさと来る。」と振り向きもせずにカカシが言うので慌てて後を追い始めた。
『俺も悪かったって…言った?』
彼の後頭部を見ながらまた胸がときめくのを感じていた。
『そっか。この気持ち…』
イルカは漸く自分の気持ちに名前がつくのを認めた。でも多分それは報われない気持ち。
「あの…」
「ん?」
「ビールも頼んでいいですか。」
「ハハッ。いいねあんた。気に入ったよ。」
イルカの頬が緩んだ。








 


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