∞シリーズもの3∞

□小鳥の恋2
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 【1】


「先生」
「⋯う⋯ん。ムニャ⋯大ト⋯ロ。」
「大トロ?先生起きて、今日は早いんでしょう?ほら。」

カカシさん?俺は⋯今日こそ大トロを⋯。来た!回って来た!あれだ!あの黄金色に輝く皿!!

「カーテン開けますね。」
「ムニャ⋯来た。」
「なんの夢を見ているのやら⋯ふふっ。」

うぉぉぉぉ眩しい!!皿が眩しい!!俺の大トロちゃん!!

「?片手上げてる⋯。何か掴もうとしてるのかねえ?」

大トロ!俺の⋯大トロ!あれ?あれ?掴めない。皿が遠い!

「唸ってる⋯。 先生起きなさいよ、ほら起きて?」
「う、う〜ん⋯。」

カカシさん?え?もう帰るって?待ってまだ大トロ食ってない!だって皿が掴めないんです。手が届かない!
手が⋯ 俺の手⋯ 手?

「先生遅刻するよ?起きなさ⋯」
「うわああああ!!」
「 !!! 」
ガバッと上半身を起き上がらせ、息も荒くイルカが目覚めた。驚きすぎて声も出せずに目を丸くしていたカカシが我に返り声をかけた。
「どうしたの?何か悪い夢でも見た?」
「⋯あ⋯カカシさん⋯。夢⋯か。」
「ほら、もう大丈夫だから。」
カカシがベッドに腰掛け、イルカをそっと抱き寄せる。
「俺⋯何か言ってました?」
「うん。大トロとか言ってた。」
笑いをこらえるようにイルカの首元に顔を埋めたカカシだったが、堪えた笑いが肩を震わせイルカにその振動が伝わって丸わかりとなっている。
「笑わなくたっていいじゃないですかぁ!///」
「だって⋯ククク⋯」
「どーせ俺は食いしん坊ですよ。よく食う奴ですよ。あの大トロ食いたかった。」
「大トロくらいいつだって食べさせてあげるよ?ふふっ、さあ起きて。今日は早めに出るって言ってたじゃない。」
「はっ!そうでした!」
「朝ご飯出来てるよ。今コーヒーいれてくるから。」
スッと立ち上がり、居間の方へ戻って行くカカシの背中を見ながらイルカはボーッと今見た夢を思い出していた。
何故か回転寿司の夢。大トロを食べたがっていた自分。そして⋯
『⋯皿を取れなかった俺の⋯俺の手⋯。』
今目の前にある己の右手を顔の前まで上げてジッと見つめた。
『皿を取れなかった俺の手⋯ 青い羽の小鳥の翼だった⋯。』
カカシがカーテンを開けていたので窓の向こうに見える青空を振り返って見上げた。
『俺は⋯』
知っている。あの空を飛ぶ快感を。軽く身をこなせる小さな体を、青い羽を。もちろん変化はもうゴメンだが。
「せんせっ、起きなさいよ!」
「はいぃぃっ!」
ベッドから起き上がると、ひとつ伸びをしながら居間へと向かった。



「くあ⋯〜。」
「おいおいイルカァすげぇ大あくびしやがって、寝不足か?寝かせて貰えなかったのか?」
「んー?なんか目覚めが悪くてさ。変な夢見たし⋯。」
早朝出勤で同僚達とグランド整備をしていたイルカは草むしりの手を休めて伸びをした。
「はたけ上忍の恋人ってだけで誰かに呪われてんじゃねーの?」
「まさかー!ハハハ!」
「まあ冗談はさておき、近々大名家の誰かが来るみたいだぜ?」
「知ってる。でも木ノ葉温泉に来てすぐ帰るみたいだぞ、その日は五代目も居ないしな。」
手裏剣術の稽古用に立てられている太い木の杭の辺りが長雨だったせいか雑草が伸び放題だった。
「おいおい、手裏剣見っけ。これで三個目。数かぞえて片付けさせてない奴がいるなぁ?」
五代目は明日から所用で里を離れる。いつも一緒のシズネは、やり掛けの研究の為に里に残るのでカカシがお伴をする事になっていた。
『大名の親族と言っても温泉街に風呂入りに来るだけの様だし特別に優遇する必要は無いとのお達しだ。』
それにお付きの者も居るだろうし木ノ葉からも特別上忍が二人ほど付くようだった。
「イルカァ、もう綺麗になったんじゃないか?もうやめようぜ。」
「そうだな。」
立ち上がり腰を二度三度ポンポンと叩いて集めた雑草を一輪車に乗せて校舎裏へと歩き出した。

その夜はカカシが外食に連れていってくれた。
イルカが大トロ食べたかったと言っていたので寿司屋を予約しておいてくれたようだ。
「カカシさん、何もこんな高級な寿司屋じゃなくても俺は回る寿司屋で良かったんですよ?」
店の前でイルカがビクつきながらカカシに訴えた。
「え?でも俺は先生に美味しい大トロを食べてもらいたいからね。ダメ?」
「あ、いえ⋯ダメ⋯じゃないですけど⋯。すみません。ご馳走になります。」
こんなお高い寿司屋で食べてしまったら後々安い寿司では満足できなくなる様な気がして正直気が引けた。
『いや、でも俺なら大丈夫か!』
何を食べても一楽のラーメンが何より美味いと思っている自分なのだから。
寿司屋はひとつしかない個室を抑えておいてくれていた。二人は指し向いに座ると先に運ばれた突き出しと酒で会話を弾ませる。
「カカシさん五代目のお伴、大丈夫ですか?」
「え?なんで?」
「結構あの方、奔放な所あるようだからシズネさんも苦労しているようですよ?」
「シズネさんから言われているよ。とにかく道中の寄り道禁止、夕食という名の晩酌では飲み過ぎ注意って。写輪眼使ってもいいから、なんて冗談なのか本気なのかって感じでね。」
ニコニコしながら話すカカシにイルカも苦笑いする。
「五代目に写輪眼はダメでしょう。ハハハ。」
「⋯先生と三日も会えないなんて寂しいな。」
「!!な、何言ってんですかっ!子供じゃあるまいし!」
余裕有る顔で微笑まれてイルカは顔を真っ赤にしながら猪口の酒を勢いよく口へ入れてしまう。
「あまり飲みすぎないでよ?今夜は眠らせるつもりないんだから。」
「ブッ!!!」
「うわぁっ!!先生っ!!」
イルカの口から酒が吹き出され、まだ料理が運ばれていなかった事を良しとして二人は慌てておしぼりで卓上を吹いた。
「カッカカシさんが変な事言うからっ!」
「変な事?どうして?三日も会えないんだから沢山先生を愛しても良いよね?」
「うっ⋯/////」
どうにもカカシとの色気のある話に慣れないイルカは顔を赤くするばりだったが、カカシはそんなイルカが愛しくて実は意地悪に言っているところもあるのである。
『ほんとにいつまで経っても可愛いんだからこの人。』
「あ、ほら料理来ましたよ。」
カカシの言う通り間もなくテーブルの上に刺身やら茶碗蒸しやらイルカの好きな物が運ばれた。
「美味そ〜〜。」
「本当だね。さ、お腹すいたし食べようか。」
「頂きます!!」


翌朝カカシは玄関から外へ出る前に「ね、いい?」と言って行ってきますのキスを強請った。
「⋯カカシさん五代目を宜しくです。」
「うん。お土産買ってくるから。」
「ふふっ楽しみだなぁ。」
「じゃあね行ってきます。」
「はい!行ってらしゃい!」
五代目の手前、大門までの見送りは我慢した。彼の姿が見えなくなるまでアパートの廊下の手すりから見送っていたが曲がり角で姿が見えなくなる前にカカシが振り返り手を振ったのでイルカも大きく手を振り返した。
帰ってきたら夕飯にはカカシの好きな物を沢山作ってやろうと、これから降りかかる災難を予想もしていないイルカなのだった⋯。




  
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