∞シリーズもの3∞

□小鳥の恋2
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【7】



「ねえ、あなた忍者?」
そう話しかけてきたのは隣の籠のモモちゃんだった。驚くイルカは唖然としてモモを見つめた。どこから見てもただの鳥。薄桃色の綺麗な羽の小鳥にしか見えない。
『いや待てよ。俺も今はただの鳥の姿だよな。て事は?』
「えーと⋯つかぬ事を伺いますが、言葉がわかる貴女も⋯もしかしてもしかしなくても忍者⋯ですか?」
小首を傾げてモモに聞いてみた。
「ピンポーン、当たり。半月くらい前にここの庭で捕獲されちゃいましたー!アハハ!」
「半⋯ 月!?」
「えへっ。」
えへって⋯ 鳥の姿のまま半月も⋯ イルカの心の中には不安が広がるばかりだった。
「貴女はどちらの里の忍でしょうか?まさか木ノ葉の⋯」
「ごめんなさい、違います。今はまだ内緒。貴方は木ノ葉の?」
「私は木ノ葉の⋯ まあ今は権兵衛と名乗っておきましょう。ちょっとした手違いで此処へこの姿で連れてこられてしまったのです。」
と、そこへ再び世話係の侍女ふたりが入ってきた。今度はまた違う殻付きの餌を分け与えだした。そして綿雪も一緒だった。
「権兵衛!元気ー?どう?ここが気に入った?お友達も沢山でしょう?」
世話は人任せで自分は愛でるだけか⋯ とイルカは綿雪を見て思った。本当ならば自分で世話をして生命の大切さや儚さなどを知ってもらいところだった。
『まだ十歳なら仕方も無いか⋯。』
まあこの暮らしならば一生変わらずかと思うが。溜息を吐きつつ相変わらず素早い餌の入れ替えを見ていた。
「餌ばっかり食べさせないで運動させてよっ!籠から出して飛ばす事くらい出来るでしょっ!」
ギョッとした。声の主は隣のモモだった。昨日までは大人しい小鳥だったのに。
「きっ、君っ!そんなこと言って⋯」
「あら、小鳥の可愛らしい鳴き声にしか聞こえてないわよ?ふふん。」
「⋯それもそうか。」
案の定、綿雪には綺麗な声で鳴き合う仲の良い小鳥達にしか見えないし聞こえなかった。
「わあ!モモと権兵衛が仲良さそう!同じ籠に入れてあげようか?」
「ピ?(へ?)」
「ねえ!権兵衛の籠にモモを入れてあげて!」
え?いや、そんな!女性と同じ部屋だなんて、あの、その、とイルカは一人でアワアワしていたが体を人の手で包まれるように運ばれてきたモモはイルカの⋯いや、権兵衛の籠に放たれた。
「よろしく権兵衛さん。」
「えっと、あの、よよよよろしくですっ!」
鳥の姿と言えど相手が女性と分かっているだけに少しドキドキする。
「見て見てぇ!権兵衛とモモちゃん仲良し!今度結婚式しましょうね!」
「綿雪様女学校へ行くお時間です。」
「じゃあ今日帰ってきたら結婚式するね!ねえ、綺麗なお花とレースを用意しておいてね!」
「かしこまりました。」
『ぎゃーー!!結婚式って!そんな!』
鳥の部屋から人が居なくなり、イルカは一人唖然と部屋の扉を見つめていた。
「ねえ権兵衛さん?」
「ハッ!あ、モモ⋯さん。」
「何を焦っているのか知らないけれど、結婚式って言ったって只の子供の遊びよ?それとも何?相手が私で不服か、里に妻子でも居るの?」
里に妻子⋯ 浮かぶのはカカシとアカデミーの教え子達⋯
「残念ながら俺は独身で、モモさんが嫌とかそんなんじゃ無くて⋯」
そうだよな、子供の遊びだよなと理解する。
「モモさんは此処から脱出しようとは試みなかったんですか?」
「全然ダメなのよ。一週間に一度くらい空気の入れ替えはしている様で、あそこのベランダのガラス戸が開かれるようなんだけど。」
「え!そんな日が!?」
「私が来てから二度有ったんだけど、開けてくれたところで籠の戸が開かなきゃ意味ないのよ。分かるでしょ?」
「う⋯」
「嘴で戸を上げ下げ出来ないように南京錠は付けられているし餌の出し入れは素早いし、ましてやこの体では体力も無いどころか術も使えない⋯ あ、貴方は?」
「同じくです。術は使えません。でも敵をやっつけた事くらいあるんですよ?」
イルカはついつい自慢してしまった。
「え!こんな小鳥の姿で!?どうやって!?」
「それはフ⋯」
糞(ふん)を敵の目元に落としての目くらまし、名付けて秘技(?)糞爆弾!!
「ふ?」
「ふ⋯ ふ、ふははははっ!!そう簡単には教えられませんよっ!!秘技ですからねっ!!」
「まあ!でもその術では此処を脱出出来ないの?」
「⋯そんな事には使えない術なので⋯」
糞を使ってどうやって脱出せよと言うのか⋯。
「まあいいわ。あ、餌お先に頂きますね!これも美味しそう!」
脳天気なのか大物なのか⋯。ガツガツと餌を啄むモモの背をボーッと見ているしかないイルカだった。


   ※※※


「遅くなりました!申し訳ありません!」
部屋の扉を開けてアオバが慌てて五代目の前へ姿を見せた。
「よし、これで昨日のメンツは揃ったな?」
何も知らされずに火影室へ召集された者達はお互いの顔を見合わせ、このメンバーは昨日貴賓室で綿雪御一行と一緒だった者だと気付いた。
しかし何故か昨日居なかったはずの、はたけカカシまでが窓辺に佇んでこちらを見ている。
「あら?火影様。」
「なんだスズメ。」
「昨日貴賓室に居たメンバーでしたらイルカ先生も居ましたのよ?」
「⋯それだ、イルカの事で聞きたい事があって皆を呼んだんだ。」
え?と顔を見合わせるスズメとライドウとアオバの三人。
「イルカが何かやらかしたんですか?」
そう言ったあとにアオバがビクッと窓辺に視線をやった。
『え!?何?こ、怖いんですけど!』
年下と言えどエリート上忍のカカシの鋭い視線には殺気さえ含まれている様に感じた。と、その時、五代目が何かを察して、やれやれと言った風な溜め息を吐きながら顔を向けずに「カカシ。」と彼を制した。
「イルカが行方不明なんだよ。誰かアイツの足取りを知らないか?」
「イルカが行方不明?」
ライドウとアオバが顔を見合わせた。
「あの、火影様?わたくし今日はイルカ先生はお休みだとお聞きましたが⋯。」
「それは私がそうしておけと言った事だ。実は昨夜も自宅へ戻っていないようだ。」
「まあ⋯そんな。彼に限って里抜けなんて考えられませんわね?」
「ああ。私もそう思う。だから昨日一緒だったお前達にイルカの様子を聞きたくて集まって貰った。何か変わった事は無かったか?」
皆一様に何かを思い出そうと唸った。
「イルカは途中で場を抜けて書庫に行ったので、その先の事は我々も分かりかねます。」
ライドウが残念ながらと綱手と、そしてカカシを見て言った。
「うーん⋯イルカには中忍試験用の問題を作るにあたり、参考になる資料を見たいとの事だったから書庫の鍵は預けておいたんだが⋯。書庫で何かあったのだろうか?」綱手も顎に手をやり考えた。
「何か開いてはいけない巻物でも開いたとか?それとも⋯」
「あっ!!!」
突然大きな声を発したシズネは室内にいる皆の視線を一斉に浴びた。
「なんだいビックリするじゃないか。」
「いえ⋯あの、私廊下でイルカ先生とぶつかっちゃって⋯」
「それで?」
「いえ、それだけなんですけど。」
シュンとするシズネにカカシが口を開いた。
「イルカ先生に何か変わったところ⋯いつもと違うと感じたところは有りませんでしたか?」
「いいえ別に。⋯ぶつかった時に飴玉みたいなものを落としてましたけど。」
「あ、それはチョコかと思われます。綿雪様がイルカにチョコ玉を数粒渡してました。」
ライドウが答えると、カカシは彼に視線を送り聞いた「チョコ玉?」
「ええ、なんて言うかイルカは職業柄子供に好かれるのか少し会話を交わしただけでお菓子を分けて貰ってましたよ。」
「高級そうなチョコでしたねぇ。色が駄菓子屋で売ってるようなカラフルな物じゃなかったですよ。」
アオバも思い出しながら付け加えた。
「まあ!ご存知ないの!?」
そこへスズメも加わった。
「あのチョコはですねぇ、火の国一のパティシエが大人も楽しめるチョコ玉として売り出したもので⋯」
「あ〜!知ってますぅ!」
シズネも話にのってきた。
「色が大人向けっていうか上品な色で浅葱色や鴇(トキ)色、杏色に青磁⋯」
そこでシズネの口が止まった。止まったというか真一文字に閉まった。
「?今度はどうしたんだいシズネ。」
「ま⋯ まさか。」
シズネの顔色がみるみる青ざめていくのがわかった。





 
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