∞シリーズもの3∞

□小鳥の恋2
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【8】


シズネの顔が見る見る青くなってゆく。そうしてチラと綱手とカカシの顔を見た。
「何かあったのか?」
「あの⋯私その時に丸薬を入れた巾着を胸に入れて歩いていて⋯」
「?何の薬だい。」
「鳥変化の⋯青磁色の⋯。」
「ブィ〜!」
胸に抱きしめていたトントンが萎縮していくシズネの腕の力に悲鳴をあげた。
「え⋯ まさか落としたチョコ玉に混じったとか?」
呆気に取られるカカシの声に「そうかもです⋯。」とシズネは消え入るような声で答えた。
「研究室に着いた時に巾着の口が開いていたので。すみませんっ!」
「鳥?鳥ってどんな鳥になるんですか?まさか青い小鳥とかって言わないですよね?」
何故か冷や汗をかきながらアオバがシズネに聞いてみる。「違います」という返事を期待しながら。
「イルカ先生の場合、その可能性は大です⋯。」
「「!!あれだっ!!」」
アオバとライドウが顔を見合わせお互いを指さしながら声を上げた。
「青い小鳥、見たの?」
静かに聞いてきたカカシにアオバはハッと顔を向け「き⋯貴賓室の窓から入って来て⋯。」と言うやゴクリと唾を飲み込んだ。
「入ってきてどうしたの?」
「綿雪様が気に入って連れて帰る⋯と。」
アオバは思い出していた。何か言いたそうに自分を見て鳴いていた小鳥を。そしてそれを知らずとは言え黙らせる為に軽い催眠術で眠らせて綿雪に渡してしまった事を⋯。
『術で眠らせた事はバレるまで黙っていよう。』
「そんな簡単に捕まったの?イルカ先生は。」
「わりとすんなり捕まったもので⋯。」
へへへとアオバは笑ってみせるとライドウの方を見て「なあ?」と同意を求めた。
「そうですねぇ、そんなに抵抗もしなかったので⋯。」
二人が話すイルカの様子にカカシは大きく溜息をつくと寄りかかっていた窓辺から離れ綱手の側まで来ると「行かせてください。」と一言聞いた。
「行ってどうする?正直にその鳥は変化をした忍者だと告げるのか?」
「仕方が無いでしょう。人間を飼うわけには行きませんよ?」
「お前も上忍なら、そっと忍んで連れて来い。居なくなっていれば諦めもつくだろう。」
「⋯火影様がそう仰るのなら仕方ありませんね。そうさせて頂きます。」
「ふん。そうと分かったらサッサと行きな。ただし連れて帰るのは綿雪が寝静まった頃が良いな。鳥を狙った賊が入ったようにでもしておけ。」
「賊ですか。」
苦笑いをした後に「では行ってきます。」と先を急ぐようにカカシは瞬身で消えた。
「つ⋯綱手様、カカシさん怒っているでしょうか⋯。」
「大丈夫だろ?お前の失敗よりも簡単に捕まってしまうイルカに呆れていると思うぞ。あ、お前らはもう下がってよし。」
呼ばれた三人は執務室を出たあと、頭上にクエスチョンマークを浮かべていた。
「なあライドウ、なんでカカシが怒るんだ?」
「さあな、あれだろ、あの二人仲が良いみたいだし何かあれば心配もするんじゃないのか?」
「まあなぁ⋯気持ちは分かる。にしても、イルカの奴すげえな。里の誉れを動かすなんて。」
「教師ですしね!人徳じゃあごぜいませんこと?ホホホホ!」
二人の背後で高笑いをしたスズメは「ごめんあそばせ。」と二人を追い越し先を急いで行った。
「教師だからって⋯」
「まあいいだろ。イルカなら確かに人徳有りそーじゃないか。」
「ライドウ、俺があの小鳥を率先して渡したの取り敢えず言わずにいてくれ。」
「⋯ビール、ジョッキ二杯だなぁ。」
「チッ、分かったよ。」

カカシは大門を出ると西へと向かった。もう少しで日が暮れる。カカシの足では綿雪の屋敷に着く頃には夕餉も終わる時間帯だろう。
『イルカ先生、今迎えに行きますからね。』
今回の鳥変化については責めずにおこうと思った。とにかく里に連れ戻さねばと足早に先を急いだ。


※※※


イルカ⋯もとい、権兵衛とモモの白い籠の新居には白いレースとピンクのリボンが飾り付けられていた。
学校から帰ってきた綿雪が侍女達に用意させておいた物で楽しげに飾ったものだった。扉には綿雪の字で「ごんべえとモモの家」と書かれた紙の表札がペタリと貼られている。「結婚おめでとう」と書かれたピンクのグリーティングカードも。
「私達、新婚ねぇ。」
モモの言葉にイルカはギョッとした。
「こっ!これは子供の遊びですよ!本当に結婚した訳ではっ!」
慌てるイルカにモモはピピピと笑った。
「やだぁ!そんなに慌てなくても!ちょっと冗談で言っただけよ!あはは!」
「は⋯はあ⋯。」
「なぁに?そんなに迷惑?失礼しちゃうわ。」
「いえ、すみません!そんなつもりじゃあ⋯。」
一段上の止まり木の斜め右にモモは停まっている。鳥の部屋は既に消灯されていた。
「あの⋯」
「なに?」
「モモさんは他所の国の忍ですよね?何故この屋敷の庭に⋯」
そこまで聞いておきながら忍がその理由を言えるわけないと気づいて口ごもった。
「潜入捜査。」
「 えっ! 」
「木ノ葉に潜入捜査してきますって里を出てきたの。」
「そ、そんな事言っちゃっていいんですか、木ノ葉のこの俺に。」
するとモモは再びピピピと高らかに笑った。
「いろいろとね、情報収集を目的に行ってきますと言ったんだけど実は私には別の目的が有ったのよ?」
「別の?」
「話せば長いんだな〜これが。」
「?俺は構いませんよ。良ければお聞かせください。」
「私には兄がいたの。両親も忍で⋯まあ両親とも早くに亡くなったけれど。」
イルカの胸がツキンと小さく傷んだ。自分と同じ境遇⋯。
「兄は先月亡くなったばかり。」
「そう⋯ですか。」
「それが木ノ葉の忍者達との戦いで負傷して、それが元で亡くなったのよ。」
「!!⋯⋯。」
「あ、別に木ノ葉の忍が憎いとか思ってないわ。これは忍として生まれてきたからには仕方の無い事だと思ってる。」
モモはピョンとイルカと同じ下段の木に停まった。
「それにねここだけの話、兄の憧れの忍者は木ノ葉の忍だったのよ?」
「え?」
「はたけカカシって会ったことある?」
「!!!」
プリッとイルカが脱糞した。カカシさんに会いたい⋯と言う今朝の呟きは、ちゃんと聞こえていなかったようだ。
「木ノ葉で一番強い忍者なんでしょ?」
「そうですね、はい。そうです。」
「兄さんは彼とは直接戦わなかったんだけど待機していた所から見ていたらしいの。戦う姿がとても綺麗で⋯無駄な動きも何ひとつ無く血飛沫も飛ばさず付けずで素晴らしかったって。」
「そう⋯ ですか。」
カカシらしいとイルカは思った。相手を苦しめず一撃で無駄な血も流さず綺麗に殺していくのだ。
「兄は生前にずっと、もう一度彼の姿が見たいと言っていたの。だから私が代わりに里まで見に行こうかなって。」
「鳥に変化してですか?」
「うん。その方が早いし里に入っても怪しまれないだろうしと思っていたんだけど、途中この庭の木で休んでいたら捕まっちゃった!」
「そんな簡単に捕まるなんて⋯」
「あら!貴方は何故捕まったの?」
ぎゃーーーーー!!
「そっ!それはですねぇっ!」
その時、ふわりと風が小鳥達の体を撫でて行った。
「窓が⋯」
モモがフランス窓の方を見てハッと体をイルカに寄せた。
こんな夜に誰が硝子戸を⋯。イルカもすかさずベランダ側を見た。
「誰か⋯居るわ。」
モモが更にイルカに密着してきた。誰だ?家の者ではない誰か?
風に揺れるレースのカーテン越し、月明かりに照らされて何者かが立っているのが見えた。




 
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