∞シリーズもの3∞

□小鳥の恋2
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  【9】


外気が部屋の中へ流れてくるのがわかった。ベランダのレースカーテンがフワリと揺れ月明かりの逆光を受けて黒い人影が浮かび上がる。
「ピ⋯(誰か来たわ)」
「ピィ⋯ヨ(あれ⋯は)」
薄暗い部屋の中へ足音も立てずに入ってくるのは間違いなく忍、そして時折キラリと輝きを放つ頭髪は間違いなく⋯
「ピィヨッ!!(カカシさん)」
思わず叫んでしまいウッと嘴を固く閉じる。イルカの声に反応して他の鳥達も騒ぎ出したらまずいと思ったのだ。だがしかしどの鳥も騒ぎもせずにいてくれたのでホッと胸を撫で下ろす。
「イルカ先生?」
自分の名を呼ぶその穏やかな声に酷く安堵した。そして安堵した途端に小鳥の姿になっている自分の言い訳をせずにはいられなかった。
「ピ!ピィピヨピィピ!ピピピピ⋯」
なるべく小さく鳴いてみる。
「しーっ、先生。言い訳なら帰ってから聞きます。⋯多分言い訳を言ってるんでしょ?」
「 ビッ⋯! (ギクッ!)」
カカシは何もかもお見通しだ。必死になって言い訳を捲し立てるイルカの姿が目に浮かぶのだろう。何やら少し気が重くなったイルカは肩を落として黙り込んだ。
「ピィヨ⋯ピピィピピィピ、ピピピピ⋯(ねえ権兵衛さん、さっきあの人の事カカシって呼んでいたわよね?)」
「ピ⋯ピヨ⋯(う⋯あの⋯)」
その時 籠の扉の辺りでカチャン⋯と音がして二匹は驚きそちらに目を向ける。『カカシさん?』よく見るとカカシが指で何かを触って⋯
『ぎゃーー!!結婚おめでとうのカードだあ!!』
「ピ!ピィヨピヨピヨ!!」
「⋯仲良くおしゃべりしていると思ったら、あんた結婚したんですか"権兵衛”さん。」
『あんた!?あんた呼ばわりされた!怒ってる!?ひぃ!でもなんかちょっと嬉しいっ!』
だがそれは誤解だし子供の遊びだし本当に結婚した訳でもないしこんな姿で嫁もらっても少しも嬉しくないし、て言うか俺はカカシさん以外の人と一緒になんて⋯!!
イルカは凄く凄く沢山の事をカカシに伝えたかった。しかしそれが出来ないのが悔しくてならない。
『わかるでしょうよカカシさん!こんな姿で望んで結婚した訳じゃない事くらい!て、⋯え?』
カカシが額当てを上げて左眼でモモを見ていた。そして次にゆっくりとイルカの方を。
「⋯⋯ふぅん。」
『なっ!なんですか!その変に納得したような「ふぅん」はっ!!』
そこでイルカはハッと気が付いた。確か写輪眼で見ると薄らと人の姿の胸から上辺りは見えるのだとカカシが言っていた事を。
『え!じゃあモモちゃんの顔もわかるんだ!?』
自分には見えないが思わず隣に顔を向けた。するとモモの方もこちらを見ていたので少しビックリする。
「ピッ!(わっ!)」
「ピィ、ピヨピピィ?(ねえ、あれって写輪眼じゃないの?)」
「ねえ先生、知ってるの?この雌も忍じゃないですか。」
ほぼ同時くらいに隣から前から声をかけられ、イルカは返事に戸惑った。
「ピッピィヨゥピピ⋯(えと、あのですね、えーと)」
その時だった。カカシがハッとした顔を見せ、不意に姿を消したのは。
「ピィ?(カカシさん?)」
「ピィヨ(あら、消えちゃった)」
すると数秒後に扉が開く音がし、綿雪の声がした。
「電気消えてる!私が寝るまで点けておいてって言ったじゃない!」
「申し訳ありません。」
侍女が節電がどうのと説明していたが綿雪は聞きもしないで新婚さんの鳥籠に近付いて来た。
「もう赤ちゃん出来た?」
ワクワクとした輝く眼で見られてイルカは苦笑いをした。鳥の表情では解らないだろうが。
『結婚してすぐには出来ないんだよ〜ハハハ⋯ て、あれ?』
僅かだが空気が重くなったのが分かった。綿雪の侍女達は顔を見合わせ両者共片手を後ろに回し、そっと目の前の守るべき少女に寄り添う。
『ただの侍女じゃないな?後ろ手にはクナイでも握っているのだろう。』
そう言えばとフランス窓へ目をやる。ガラスの格子扉は閉じたままだったのでカカシが外へ出て行ったか閉じてまだ室内に居るかだと思われるが
『赤ちゃん出来た?で殺気漏らしてるくらいだからまだ室内かも⋯。』
くノ一と思われる侍女二人も眼球だけ左右に動かし辺りを伺っているようだ。
「お嬢様、明日は登校時間もお早いですし、小鳥達も早く寝かせて差し上げましょう。」
「赤ちゃんいつ産まれるかなー。」
「まだまだですよ。しばらくそっとしておいた方が早く生まれるかもですよ?」
「ほんと!?じゃあ少し我慢して此処に来ない方がいい?」
「ですね。わたくし共が邪魔にならない程度にお世話しておきますよ?」
「お願いね!」
綿雪は雛鳥を見られる日が来る事を楽しみにしながら一人の侍女と部屋を出ていった。そう、部屋にはもう一人の侍女が鋭い目付きで残ったのだ。
『カカシさん⋯まったく気配を感じさせていないけど⋯。』
しばらく扉から離れずに黙って部屋の様子を見渡し、何者かの気配を感じ取ろうとしていた侍女だが。
「⋯⋯。」
諦めたのか明かりを消すと静かに部屋を出ていった。
「ピィピヨピピ⋯(ねえ、さっきの助けに来てくれた人って)」
モモが小さな声で話しかけてきた。
「ピピィピィヨ(はたけカカシなんでしょう)?」
別に隠すつもりはなかったが直ぐに「そうです」と返事が出来ず言葉に詰まっていると「先生帰ろう。」と声がした。
いつの間にか籠の前にカカシが居たのだ。
「いつまでもこんな所にいて本当に子作りでもされたら困るしね。」
「ピッ!?ピピィ!ピィッ!(そっ!そんな事しませんよっ!)」
「ピーヨゥピピィ(ねえってば、この人がはたけカカシなんでしょう?)」
「ピ⋯ ピィヨ⋯(そ、そうですよ)」
「仲良いですね先生⋯。今すぐ出すけど。」
カカシには言葉は分からないようなのでモモと少し話しただけで嫉妬する彼にイルカも困ってしまう。
カカシが何やら道具を使い容易く南京錠を開け籠の扉に手をかけるが
「!!」
「ピッ(カカシさん)!?」
またまた突然彼の姿がフッと消えた。
「どうだ?気配はしないか?」扉が開き先程の侍女二人が入ってきたのがわかった。





 
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