∞シリーズもの3∞

□小鳥の恋2
11ページ/12ページ



【11】



屋敷から無事に抜け出せたイルカは暫くの間は救出してくれたカカシの両手の中で包まれたまま微動打にしなかった。
『カカシさん⋯怒っているよな。二度と小鳥にならないって約束してたのにこんな事になっちまって⋯。』
しかし今回は不可抗力。いつどこで摂取したのかも分からぬまま鳥になってしまった。
『どう考えてもあの時のチョコ玉だよな⋯。そしてシズネさんとぶつかった時に⋯。』
彼女が(何故か)持っていたであろう鳥変化の丸薬が、ぶつかった振動で床に落ち(しかもチョコ玉と見てくれが同じ?)「三秒ルール」と卑しくも拾ってしまった自分が書庫で確認もせず口に⋯
『ぬぬ⋯やっぱ悪いのは俺だよな?俺のバカ〜。』
「 ピ? 」
イルカを包むカカシの手のひらが開いた。見上げた先には小鳥を黙って見下ろすカカシと、その頭上に白く輝く月があった。
「今日はここで休んで明日の朝に里に戻りましょう。」
「ピィ⋯」
カカシは一本の巻物を取り出すとそれを地面に広げて手を当てた。するとボンッと言う音と共に寝袋が二つ飛び出した。
「ピィヨッ!(おおっ!)」
凄い凄いと寝袋の上をクルクル回っていると「こっち来て先生。次はあなたですよ。」と手招きをされた。
『え?おれ?』
素直に従いスイッとカカシの細い指に停る。
「これ、食べてください。小鳥の姿も可愛いけどね、俺は先生の顔が見たいんですよ。」
少しムッとした表情は、やはり怒っているからに違いないとイルカは元の姿に戻る事が少し怖くなった。
『だって人間に戻ったら話さなきゃならないじゃないかぁ!顔合わせるの怖い〜ヒィ〜。』
「あれあれ?どうしたの?食べないの?俺が怒っているから?」
意地悪そうにカカシが声をかける。しかし直ぐに微笑んで「お願いしますよ。本当にあなたの顔が見たいだけなんだから。」と言ってくれた。
「ピィ〜〜(カカシさんっ)」
その優しい言葉にイルカは目の前の解術用の摺り餌を食べ始めた。そうして全てを食べ終えると少し間を置いて直ぐにボムッと白い煙を纏いながら元の姿のイルカが現れた。
「カカシさん!お帰りなさい!助けに来てくれてあり⋯」
「で!?何故こんな事になったか説明してもらいましょうか?」
「え。」
両手を腰に当て、先程の優しい声とは打って変わってキツくハッキリとした口調で問うカカシがそこに居た。
「え?あれ?あの⋯えっと⋯。」
『怒っているじゃねえかーー!!』
騙された!さすが上忍!俺は騙された!あの優しい声と微笑みにっ!!
イルカは自分の不甲斐なさに呆れながらも言い返せないもどかしさも感じてもぞもぞとしながら困り顔で下を向いていた。すると⋯
「!!あ⋯。」
カカシの両腕がふわっとイルカを抱き寄せたかと思うと、力強くギュッと胸に抱き込まれたではないか。
「⋯カカシさん?」
「心配させないで。あなたにもしもの事が有ったら俺は⋯。」
そこでまたギュウッと抱きしめる腕に力が篭もる。正直イルカにはちょっと苦しいくらいだ。
「すみません、心配させて⋯。今回は本当に俺の不注意で⋯。」
そう、不注意だ。カカシはそっとイルカの体を離すと口布を下げて「無事で良かったです。顔が見れて良かった。」と泣きそうに小さく微笑むとイルカの顔に顔を寄せて唇を重ねてきた。
『⋯カカシさん⋯。』
相変わらず腰が砕けそうな口付けをする。いつもイルカは頭の芯がボーッとしてきてポワンとなるのだ。
『ん⋯』
名残惜しくも薄く柔らかな唇が離れてゆく。
「今日は早くに寝ましょう。長い時間鳥で居たし少し体休めて。人の食べ物も食べてください。」
「人の?」
「途中の村で農家のお婆さんにお握りを三つ作って貰ったんです。ただの塩むすびで良いからと。お金は要らないと言うから、よく効く傷薬をお譲りしてきましたよ。」
そう言って「ふふっ」と笑うカカシにキュンとしながらも腹をキュ〜と鳴らせてしまったイルカは、カカシからお握りの包みを手渡された。
「食べていいですよ。ゆっくりね、よく噛んで。」
久しぶりに人の姿に戻ったイルカを気遣って、カカシが心配しながら水の入った竹筒も差し出した。
「三つ有るからカカシさんもどうぞ!」
「いや俺は⋯」
「ダメです!じゃあひとつだけでも!俺はカカシさんと一緒に食べたいです!」
一瞬戸惑った顔を見せたカカシだったが、イルカの顔を見て「仕方の無い人だね⋯。」そう嬉しそうに微笑むと、伸ばした指先でイルカの頬を優しくスッと撫でて「一緒に食べよう。」と握り飯をひとつ手に取った。
「へへっ。」
「頂きます。」
「あっ!!!」
「?今度は何?」
「カカシさん、任務お疲れ様でした。あ、あの、これではなくて俺が見送った任務の事です。」
「ああ、ありがとう。帰ってみたらびっくりしたけどね。」
「う⋯」
墓穴を掘ってしまった。またまた話が振り出しに戻ったと内心慌てたものの、カカシはもう叱る事もなく「まずは食べましょ?」と食事を勧めて来ただけに留まった。
その夜は頭上に満天の星。幾つか流れ星も見つけた。
「ねえ、寝袋くっ付けていい?」
カカシが寂しそうに寝袋を引きずって近寄って来た。
「勿論ですよ。」
「あ〜⋯失敗した⋯」
「何がです?」
「小型の天幕にすりゃ良かった。そうしたら先生と密着して寝れたのに。」
「⋯え/////」
赤面するイルカに気がついたカカシはハッと目を見開き「ちっ!違うんです!」と両手のひらをヒラヒラさせながら自分も赤くなっていた。
「ただ一緒に寝たいってだけで、小鳥変化が解けたばかりの貴方をどうこうしようとか考えてませんからっ!」
真っ赤になる里の誉が、まるで自分の教え子の様な幼子に見えたイルカは、それが可愛いやら嬉しいやらで困った笑顔で笑い返した。
『本当にこの人は⋯強くて優しくて⋯可愛い人。』
二人は寝袋をくっつけてお互い空を見上げながら眠りについた。



 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ