∞シリーズもの3∞

□小鳥の恋2
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【2】



木ノ葉の里の温泉街に大名の御親戚が来ているからと何故かスズメ先生がバタバタと忙しそうに走り回っていた。
「イルカ先生!?貴方の教え子に花屋の子がおりますよね?」
「ええ、はい。スズメ先生随分とお忙しそうですねぇ。花屋が何か?」
「花です花!!ピンク系の花を沢山用意して頂けるよう注文しておいて下さらない!?」
「え?俺がですか?」
「ええ、わたくし他にもやらなければならない事が有りすぎて⋯ああ、お茶菓子はどうしましょう!何処の老舗が良いかしら!」
「どなたかいらっしゃるのですか?」
「ご存知ないの!!?大名様の甥にあたる方のお子様が木ノ葉にいらしてるのですよ!!」
でも確かそれは離れた温泉地の事では?とイルカものんびり構えていた。
「温泉街に来たのでしょう?こちらまでは足を伸ば⋯」
「聞いてらっしゃらないの!?里を見てみたいと急遽来る事になったんです!」
「え?本当ですか。」
どうりであちらこちらで清掃員が里の中を綺麗にしていたはずだ。街路樹も手入れされていて、只の里の一斉清掃の日なんだと思っていた。
「やまなか花店には連絡しておきますよ。どちらへ届ければ良いのですか?」
「そうね、火影屋敷の方へ。あそこの貴賓室をお借りしてお嬢様の休憩所とさせて頂きますわ。」
「お嬢様⋯ですか。おひとりで?」
「そうらしいですわよ。まだお歳も十歳だとかで⋯御両親はお忙しくお付の者といらしたそうです。」
「十歳?え?十歳!?」
「お小さいけれどハキハキしていて我儘放題のお嬢様らしいですよ?ホホホッ!」
我儘放題の十歳女児。 アカデミーにも似たような子が居たりするものだ⋯と、イルカはハハハ⋯と軽く笑った。
「ピンク色がお好きな様なのでお部屋に飾る花もそうしようかと。」
「ご機嫌取りですね。ははは。」
「とにかく早めに用意して届けてくださる様頼んでくださいね。」
「分かりました。」
丁度火影屋敷にも用事があるので自分が届けてやろうと早速やまなか花店へと向かった。

「え?ピンクの花ですか?全部?」
「う⋯うん。全部。」
スズメ先生はピンクの花と言った。
「いや、違うなピンク"系”⋯だな。ピンク系!」
「なぁにぃ?先生。カカシ先生がいない間に浮気ぃ?誰にプレゼントですかぁ?」
「お前なぁ、これはあれだ、大名の甥にあたる方の娘さんの為だ。今日これから里を見学に来るらしい。」
「大名の⋯って、確か温泉に来てるっていう?」
「ああそうだ。とにかくピンク系で何かこう華やかに。」急いでくれと急かすと、いのは「はーい。ピンク系ね。」とエプロンの紐を閉め直しながら色とりどりの切り花が入った大きなケースのガラス戸を開いた。
「お幾つくらいの方ですかぁ?」
「十歳だそうだ。」
「十歳!まだ子供じゃないですか。じゃあ⋯濃いめのピンクのチューリップと⋯薄ピンクのスィートピーと⋯」
部屋に華やかに飾るのなら大きな花器も用意しましょうか?と、いのが聞いてきた。
「かき?」
「花を飾る器ですよ、花瓶!有るんですか?」
「さあ?」
「もー!先生ちゃんと聞いてきてくれなきゃ!お迎えするのにお部屋を華やかに飾るのなら大きな花瓶をお貸ししますね。そして有りったけのピンク系、たまに赤、そして白い花を混ぜて⋯」
「え?だってピンク系って言われた。」
「ピンクだけじゃパッとしませんよ。差し色にちょっとね。」
「う⋯うん。任せた。」
それにしてもどさくさに紛れて「有りったけ」とは大した商売上手だ。
「先生も運ぶの手伝って貰えます?これ、はいっ!」
「うわっ!」
これぞ両手に花!という程に前が見えなくなるくらいの花の数を持たされた。いのの腕の中には大きな壷型の花瓶。
「これ結構重いんですよ?大事な時にしかお貸ししてない物なんですよー?」
「わかった。とにかく急ごう。」
目の前の花束のせいで、まるで花畑の中を走っている気分だ。
そうして間もなく火影屋敷に着き、いのと二人で屋敷内へ通して貰い貴賓室へと案内される。スズメ先生はまだ来ていない。
「花瓶はここがいいわね。先生花を持ってきてください!」
「いのが生けるのか?」
「あったりまえでしょー?」
生け花なんてさっぱり分からないどころか縁もない事なので教え子のやる事を黙って見ているしかなく⋯。
大きな花瓶の広めの口に次から次へと花は生けられてゆき、気げつけばなんとも華やかに広がる作品となって仕上がっていた。
「凄いなぁ!お前にこんな特技があったとは!さすが花屋の看板娘なだけあるなぁ!」
「やあだぁ!先生ったら!看板娘だなんてっ!」
バチーンッ!と腕を叩かれ痛いのを堪えていると「あらっ!」と漸くスズメ先生が姿はを現した。
「まあぁぁ!なんて素敵!!え?まさかイルカ先生がっ!?」
「まさかっ!この子ですよ!やまなか花店のお嬢さん、いのです。」
「どおりで!素晴らしいですわ!あとで請求書を見るのが怖いですけど。ほほほ⋯。」
笑いながらこちらを見る目が「あなたに頼むんじゃなかったわ」と言っているようでイルカはバツが悪そうに「アハハ⋯」と弱々しく笑ってみせた。
「それよりも!もう御一行は里にお入りになってこちらへ向かっているそうです。花が間に合って何よりです。」
「イルカ先生、スズメ先生、それでは私はこれで!あとで請求書送りますね!」
いのが部屋から出て行くのを見送ってからイルカも退室しようと口を開きかけた
「では俺もこれで⋯」
「あら、先生今日はこの後何か御用でも?」
「いえ、特別何も⋯。」
「でしたらお嬢様御一行の接待、少し手伝ってくださらない?他の先生達は何かと忙しくて捕まらないのよ。」
「どなたか女性に頼まれた方が⋯」
「一応子供相手ですからね、今回の接待はアカデミー教師でと上から言われてますのよ。子供の扱いには慣れているだろうからと。」
「はあ⋯。まあいいですけど⋯。」
いつもカカシに「先生は人が良すぎるから⋯」と窘められるのを思い出す。仕事を任せられるのもいい加減にしなさいと。
忙しいのは良い事だけど、先生の場合は周りが「イルカなら断らないだろう」と承知の上で用事を押し付けている輩もいるのだと、そこを見極めて受けなさいとカカシは苦言を呈するのだ。
『でもこれは仕方ないよな。大名の御親戚だぞ?スズメ先生ひとりで接待なんて大変そうだし。』
自分が居ても何の役にも立たないだろうが、まあ居ないよりは居た方が良いだろうからと納得した。
「イルカ先生、御一行がこの部屋にいらしたら、まずは挨拶をしましょう。その後すぐに私は隣の部屋でお茶とお菓子の用意をしてまいりますのでよろしくお願いします。」
「はあ。」
何をしていろと言うのか。天気の話か?それとも都の話でも聞いてみようかと、イルカはワガママ姫のお着きを心待ちにしていた。





 
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