∞シリーズもの3∞

□小鳥の恋2
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【6】


ピピピピ⋯ ピィヨピィヨ チチチ⋯

小鳥達の鳴き声でイルカは目覚めた。
昨日は餌を食べたあとに一寝入りしてしまい、目覚めた時には部屋も暗く周りの鳥達も寝ているようだったが自分は止まり木の上で真夜中までまんじりともせず色々と考えていた。

このまま籠の中で一生を終えるとは思えない。もしかしたら元の姿に戻るかもしれない。しかし戻る丸薬無しでは小鳥のままって事も考えられる。
きっと里ではイルカがアカデミーに出勤してこない事に皆が気付き、アパートを訪ねても居ない事で「どうしたのか?どこへ行ったのか?」となるに違いない。
『俺の姿が里から消えたということで、すわ里抜けか!?ってなるかもだけど。』
しかしどう考えたってイルカが里抜けなんてするはずがないと誰もが思うはずだ。
『最後に俺の姿を見たのは綿雪ちゃん御一行をお迎えした火影屋敷となる。シズネさんとも顔を合わせている⋯。』
シズネさん!?と、イルカは何か引っかかった。あの時ぶつかってチョコ玉をバラ撒いてしまった。
直ぐに拾ったが数が合っていたのか覚えちゃいない。まさかシズネさんが鳥変化の丸薬を持っていて、それが同時に零れ落ちて混じったのか⋯。
『それにしては彼女は少しも慌ててはいなかった⋯。』

 イルカ先生⋯

『カカシさん。』
ふとカカシの声を思い出す。優しいカカシの声。
『そうだ、きっとカカシさんだって俺が里に不在なのを心配するはず!(多分)』
「ピィヨゥ⋯(帰りてぇ⋯)」
思わず声に出してしまった。男のくせに忍のくせに情けない。
「 !! 」
何かの視線を感じてハッと横を見るとモモちゃんとやらがジッとこちらを見ているではないか。
『ご、ごめんよ。睡眠の邪魔しちゃったな。ははは⋯ うん、俺も寝るか。』

そうして小鳥達の騒がしくも心地良い鳴き声で朝を迎えたのだった。
『⋯俺はいつかこの屋敷から脱出する。君達小鳥ともお別れする。』
すると部屋の扉が開き、昨日餌を持ってきた餌係の侍女二人がやってきた。
「はいはい皆さんお水と餌を取り替えましょうね。」
『これだ!水や餌を替える時に餌入れの所の扉が開く!隙を見て逃げ出せばいい!』
小さな南京錠は出入口の扉だけではなく餌と水入れの取り出し口の扉にも付いていたのだ。
「さあ新入りの貴方からね。えーと⋯」侍女のひとりがイルカの鳥籠の扉の下をチラと見た。
「はい権兵衛ちゃん。スペシャル殻つき餌と栄養たっぷりな練り餌ですよ。」
どうやら扉の下にそれぞれの名前が書かれているらしい。それにしても慣れたもので侍女達の餌入れの出し入れが素早い!
『マジか!!早すぎる!!』
そうこうしている内に新しい餌が入った入れ物が籠の中に設置された。練り餌も。
『くそぅっ!!』
誰が餌なんて食うものかっ!馬鹿にしやがって!!鳥の餌で満足するわけ⋯
『 ん? 』
気のせいか練り餌から香ばしい良い香りが。
『⋯昨日のも美味かったもんな。少し食べてみるか。』
どうやら昨日の物とはまた違うものらしい。 パクッ。
『!!んっっめえぇぇぇーー!!』
何これ何これ!とイルカは夢中になって啄んだ。
『くそぉー!情けねぇ!でもうめぇ!腹が減っては戦はできぬだ!食ってやるーー!!』
権兵衛 もとい、イルカは腹いっぱい餌を食べ、自分のアパートの水道水とは比べ物にならない岩清水の様な美味しい水で喉を潤し満足するのであった。



   ※※※



イルカが消えた。何事がおきたのか?
早朝の火影岩の上、カカシは目を細めて里を見渡していた。
『イルカ先生⋯何処にいるの?』

昨日里へ戻り、寿司折を手土産にイルカのアパートへ帰宅したカカシは部屋の明かりが消えていたので少しガッカリした。
今日は遅くまで受付業務だろうか?それともアカデミーで残業?
部屋の明かりを点け、寿司折を台所へ持っていく。流しのシンクの中には朝に食べたであろう水に浸かった茶碗類。そして昨夜食べたのかいつ食べたのかカップ麺の空き容器。
『まーた俺が居ないとこんなもので済ましちゃうんだから⋯。』
まあ自分も人の事が言えない食生活だったのでフッと笑って蛇口を捻り水を出す。
『⋯受付行ってみるかな。』
カチャカチャと茶碗を洗いながら彼を迎えに行く事に決めた。
再び外へ飛び出したカカシはイルカの元へと走り出す。早く彼の顔が見たい。
「あ⋯はたけ上忍。お疲れ様です。」
「あれ?イルカ先生は?」
受付に着いたものの座っていたのはイルカの同僚ただ一人だった。
「イルカですか?今日はアカデミー定時に上がりのはずですよ?」
「そ、ありがと。」
定時に帰宅した?ならば仲間と飲みにでも出ているのか?カカシは歓楽街へ足を向け両手をポケットに突っ込んだまま歩き回った。
しかしどの店からもイルカの匂いはして来ないし気配も感じられない。
『先生⋯どこ行ったの?』
不安にかられてカカシの足取りが速くなる。イルカが行きそうな所、もちろんアカデミーや御両親の墓、慰霊碑、教え子の住む家⋯いろいろと探し回ったが何処にも姿は無かった。
もしかしてアパートに戻っている?そう考えては戻る事二回。しかし部屋の明かりは自分が消したきりになっているし、もしかしたらカカシが帰ってきていないと思って寝てしまったのかもと部屋に上がってみるが、やはり姿は無かった。
「せん⋯せ?」
彼に何があったのか?耳の奥で響き渡るドクドクという嫌な心音を聴きながらカカシは忍犬を呼び寄せた。
「どうした?カカシ。」
「パックン⋯イルカ先生が居ない。」
それは自分でも情けないくらい心細さが露わになった声。
「居ない?」
「里の何処にも気配を感じないんだ。俺では感じとれないほど⋯何処か⋯深い所、部屋の奥の奥とかに閉じ込められてたらと思うと⋯」
「分かった。少し落ち着いて待っておれ、皆で手分けして探してくる。」
「お願い、急いで。」
情けない事に自分の手が少し震えているのが分かった。
「先生⋯。」
取り敢えず畳の上に座り込み、もう一度彼が行きそうな場所や心当たりを思い巡らせてみる。しかし全て探し尽くしたと思われるし、なんのヒントも浮かばない。
そうしてジッと我慢して待つこと四十分程。シバがハァハァと息を切らして戻ってきた。
「カカシ!火影屋敷の玄関先でイルカの匂いがした。他の箇所に比べると割と新しいものだが随分と時間は経っていると思われる!」
ハッと顔を上げたカカシの姿は直ぐに瞬身で消えた。

「火影様!五代目!」
もう時計の針は翌日に回ろうとしていたにも関わらず、カカシは屋敷の扉を叩いていた。
「なんだい!今何時だと思ってるんだい!」
上から声がしたので透かさず見上げてこちらを見下ろす綱手に声をかけた。
「お願いです!話があります!中へ入れてください!」
「⋯ったく。少し待ってな。」
暫くするとシズネが扉を開けて迎え入れてくれた。シズネの後ろには綱手の姿もあった。
「なんだい、私に夜這いなら百年早いぞカカシ。」
「綱手様!イルカ先生が居ないんです!」
「はあ?」
とにかく応接室へとシズネが直ぐ横の扉を手で指し示した。
「まあ落ち着いて座って話せ。私もそろそろ寝ようかと本を閉じたところだった。」
応接室へ通されたカカシは大人しく従いはしたが腰を下ろすなり口を開いた。
「探したんです、里中くまなく。だけど何処にも姿が無かったのですが忍犬がここの玄関先に先生の割と新しい匂いが残っていたって⋯。」
「ここの?」
「あ!」
綱手の後ろに立っていたシズネが声を上げた。
「なんだいシズネ、イルカがこの屋敷に来たのかい?」
「えーと⋯今日の午後に綿雪様御一行の為に貴賓室をお貸ししまして⋯。イルカ先生とは廊下でお会いしました。」
「ああ、使っていいとは言っておいたが⋯そう言えばイルカには書庫の鍵を渡しておいたな⋯。」
「お子様相手だからアカデミーの先生に接待役の白羽の矢が立った様で私からスズメ先生にお任せしていたのですがイルカ先生も少しの間ご一緒だったようですね。」
「まさかイルカ先生が連れていかれたなんて話は無いでしょうね?」
カカシがキッと睨みつけるようにシズネを見た。
「あひいぃ!それは無いかとっ!!」
「カカシ落ち着け。シズネ、その時一緒だったスズメと⋯他には護衛に付けた特別上忍も一緒だったはずだから明日の朝にそこに居た者を此処へ集めておくれ。」
「は、はいっ!」
「明日の朝?明日の朝ですか!?」
「イルカも木ノ葉の中忍、それもかなり優秀な⋯な?大丈夫だ、今日のところは帰って寝ろ。⋯まあ眠れないかもしれんがな。」
「 ⋯⋯ 」
「お前も明日の朝に来い。皆の話を聞こう。」
「わかりました⋯。」
眠れるはずなどないに決まっている。拳を握りしめ、苦痛の表情(かお)を見せたままカカシは屋敷から去り ⋯ーーー

「⋯そろそろ屋敷に行くか。」
今こうして火影岩の上で一夜を明かして、カカシは再び動き出した。


   ※※※


餌も食べ終え、また少し時間が経つとイルカは止まり木にジッと動かず考え事をしていた。目線の先には向かい側に見えるレースのカーテン越しのフランス窓。
あそこが開く事は無いのだろうか?空気の入れ替えとかしないのだろうか?と都合の良い事も考えてみる。
『⋯今頃はアカデミーの門が開き子供達が登校する時間なのでは⋯。』
この部屋に時計の姿も音もしないので時間などわからなかったのだがレースのカーテン越しに差す陽の光の高さでだいたいの時間の見当はついた。
『予定通りだと今日にもカカシさんは帰って来る⋯。そうしたら俺が居ない事に気がつく。彼は⋯どうするだろう⋯。』
俺を探してくれるだろうかとシュンと項垂れた。
「ピィヨゥ⋯ピィピ⋯(カカシさん⋯会いたい⋯)」
思わず声を漏らして泣き言を言ってしまったが誰が聞いても小鳥の寂しげな鳴き声にしか聞えなかったであろう。
その時カタンッと隣の籠から音がしたので、ふとそちらを見た。
『⋯モモちゃんがこっちを見てる⋯。』
鳥同士だと何か心の寂しさが伝わるものなのかと笑って(笑ったつもりで)再び下を向く。
「ねえ、あなた忍者?」
「 !!! 」
その声に顔を上げた。女の声だった。
「昨夜も話していたわよね?帰りてぇって。」
「え!え!?ええーー!!?きっ君は!?」
声の主はモモちゃんで、何故かお互いの話す事が理解できるようであった。




 
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