∴季節物・誕生日∴

□Valentine☆day2017
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テンゾウは悩んでいた。
うみのイルカとどうやって「今、欲しいものは何か」と言う会話に持っていくかを。
まず 会話に持っていく迄のプロセスさえ考えつかない。
いつも忙しそうにしている彼を呼び止めてまで聞く事でもないだろうし。
最近は前ほど偶然に出会う事も無くなってるし…。

『やはり食事か酒に誘うしかないのだが…。先輩に断りを入れなければならないな。』

何故テンゾウがイルカに「欲しいものは何か」を聞かなければいけないのか。
それはイルカの恋人でありテンゾウの先輩でもある はたけカカシから「今欲しい物は何かを聞いてもらいたい」と頼まれたからなのだ。
本来なら自分で聞けば良い事なのだろうが、イルカは頑なに「何も要りません。」と、はぐらかすばかりの様で…

『イルカさんは本当に何も要らないのかもしれない。』

けれどもカカシとしては何かしてあげたくて仕方ないらしい。 恋人の喜ぶ顔が見たいのだろう。
だからと言って後輩を使うのはやめて欲しい。やめて欲しいのだが…

『僕も先輩の喜ぶ顔を見たいしなぁ…。』

仕方がないかと半笑いで諦めた。そんな時

「テンゾウ。」
「わ!ビックリした…。先輩やめてくださいよ突然…。」
「お前もう上がり?」
「ええ。今日こそはイルカさんに聞き出そうと…。なかなかチャンスが無くって。」
「あのさ、俺これから里外に出るのよ。で、今夜はイルカ先生外食すると思うから一楽行ってみて。」
「え、イルカさんと食事を御一緒してもいいんですか?」
「お前だから許す。でも家までノコノコ付いて行くなよ。」

滅相もない!と目の前で両手を振ってみせたら「ふうん?」と信用なさ気な目でテンゾウを見た。

「ま、先生に手を出したらどうなるかは重々承知だろうから大丈夫だろうけど、例の件、ちゃんと聞き出しといてよ?」
「わかりました。頑張ります。」
「じゃ、俺は行くから。先生の分のラーメン代もよろしくね。」
「はいっ。て、え?あ!先輩!」

カカシは脱兎の如くテンゾウの前から走り去った。
いや、イルカさんに御馳走するのは構わないのですが。でもこういう時は先輩が払ってくれるものでは…と腑に落ちない。
まあ良いだろう。久しぶりにイルカで癒やされるのだと思えば。しかもカカシ抜きで。
その後 テンゾウはラーメン一楽が見える所でイルカが来るのをひたすら待った。
そしてお目当ての彼は陽も落ちかけた頃に愛用の肩掛けカバンを斜めに下げて現れた。

『なんだろうね。本当に彼はこう… およそ忍者らしくないと言うか…。』

見ていて心が洗われるというか。
カカシが手放したくない気持ちがよく分かる。

「イルカさん。」
「!! テンゾウさん!お久しぶりです!」

一楽の暖簾の手前で偶然を装い声をかける。

「今お帰りですか?」
「ええ。今日はカカシさんも居ないので一楽で食べて帰ろうかと。」
「じゃあ僕も食べて帰ろうかなぁ…。」
「それは是非!一緒に食べましょう!」

誰かと一緒にいられる事が、本当に嬉しいんだなと思わせるほどに
イルカは それはそれは輝かんばかりの笑顔で応えてくれた。
二人は肩を並べて暖簾をくぐり、丁度二席空いていた椅子に腰掛けると それぞれ好みのラーメンを注文した。

「そうかぁ先輩は任務ですか。きっとイルカさんを里に残していくのが心配だったろうなぁ。」
「やめてくださいよ、子供じゃないんですから。」

ははは… と明るく笑うイルカに心がほっこりする。

「お待ちどう!」
「来た来た!」

箸立てから割り箸を二膳取ったイルカが「はい、どうぞ。」とテンゾウに渡してくれた。

「イルカさん、あとでビールと餃子も頼みましょう。今日は僕に奢らせてください。臨時収入も入ったので。(なーんて)」
「え?そんな悪いですよ。」
「いえいえ!いつもご馳走になっていましたから!今日くらいご馳走させてください!」

テンゾウの押しに負けて「では御言葉に甘えて…」とイルカはエヘヘと鼻傷を指で掻いた。
さて 例の話をどう持って行こうか考える。
麺をすすりながら頭の中で あーでもないこうでもないと話のきっかけを決めかねていた。 すると…

「あの… テンゾウさんて、今何かプレゼントされるとしたら…欲しい物って有りますか?」

イルカからの問いに一瞬心を読まれたかと固まる。

「ぼっ、僕がですか?」
「ええ、何か任務に必要なものとか…。」
「え…と…。それってもしかして先輩への…。」

そう聞き返せば、こちらを見たまま見る見る顔が赤くなるイルカに、何故かテンゾウまで頬を火照らせてしまう。
しかしこれでこちらからもイルカの欲しい物が何か聞きやすくなったと言うものだ。

「そんなイルカさんは欲しい物って無いんですか?」
「俺は別に…」

イルカはそこまで言うと何かに気づいた様にハッとした顔を見せ、ニヤリと笑ってテンゾウを見た。

「そうですねぇ…。蓬莱(ほうらい)の玉の枝とか?」
「蓬莱の玉の枝?」

それはどういった物か?ポカンとした顔をしていれば、イルカが「ハハハ!」と軽く笑い
「嘘ですよ。そんな物あるわけ無い。」とニンマリとした。
多分彼は気付いたのだ。テンゾウがカカシから「欲しい物を聞いてこい」と頼まれた事を。
けれどもテンゾウは知らぬ存ぜぬで通すつもりだ。

「僕だったらクルミのひと袋でも貰えば喜ぶんですけどね。イルカさんだったら甘い物?」
「うーん…」

イルカは少し考えてから漸く答えを出してくれた。

「新しい忍者ベストかなぁ…。」
「ベスト!?」
「もうこれも、替えのやつもくたびれて来ちゃって…。新しいのを支給して貰おうかと思ったんですけど、お金を出せば素材がもっと良い奴が手に入るんですよね。」

それは上忍になってからと思っていたそうだが、このまま教師として中忍で終わる覚悟らしいので諦めているそうだ。
そう言われてみると、自分の着ているベストとイルカの着ているベストの縫い目までもが多少違う気もしてきた。

『素材の良いベスト…ね。』

任務完了。ラーメンも食べ終わる。

「すみません、餃子とビールください。グラスは二つね。」
「あいよ!」

テンゾウとイルカはビールで乾杯をすると、その後も他愛もない話で時を過ごした。




バレンタインデー当日
イルカはカカシから大きめの紙袋を渡される。中には新品のベストが三枚も。

「特別に作らせました。布も糸も軽いですけど今までのベストよりは丈夫です。」
「新しいと色も褪せてないから綺麗だなぁ!中忍になりたての頃を思い出します。」

ヘヘッと笑ってべストを自分の体に合わせて見せる。

「先生、気づいてたでしょう?俺がテンゾウに欲しい物を探らせた事。」
「さあ?」
「蓬莱の玉の枝なんて無理難題押し付けたでしょう?」
「ははは!テンゾウさんから聞いたんですね。」
「ま、本気で欲しいなら何処ぞに頼んで作らせますけどね。」
「そんな物…。俺はカカシさんが元気で居てくれたらそれでいい。本当に何も要らないんですよ?」

隣りに座るカカシの頭をキュッと抱え込んで抱きしめる。

「せんせ…」
「で、ホワイトデーには何が欲しいのかなカカシさんは。」
「!!俺だって先生が居れば!」
「俺はベストって頼んだんですよ。カカシさんも何か考えておいてくださいね。」
「じゃあ火鼠の皮衣でも頼みましょうか?」
「あんたにそんな物要らないでしょう。強いんだから。」
「俺だって焼かれれば死にます。」
「死ぬとか言うな。」
「だって先生が。」
「とにかく!考えておいてくださいね!俺の財布事情を考えながら!それ大事です!」

ガサガサと紙袋にベストを仕舞いこみながら「今度の参観日に着ようっと。」と嬉しそうにするイルカに
「明日からでも毎日来てくださいよ。」とカカシは返すが

「勿体無いから何かの行事の時と任務の時に着ます!」

と宣言するイルカにカカシはガクッと肩を落とす。

テンゾウはと言えば
「カカシさんには内緒ですよ。」と袋いっぱいのクルミをイルカから貰っていたのであった。









※蓬莱の玉の枝→根が銀、茎が金、実が真珠で出来ている枝。
 火鼠の皮衣→焼いても燃えない布

どちらも「竹取物語」で、かぐや姫が貴公子達の求愛を断る為に要求した実現不可能な物。


 



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