∴季節物・誕生日∴

□2018年 カカ誕
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夜の闇に包まれた森の中の移動は忍と言えども気持ちの良いものではなかったが、今宵の月はいつにも増して光り輝き辺りを照らしていたので足元の危うさは感じることなく走り続けていられた。
時には木の枝を飛んで渡り、前に進む。頭上には満天の星。輝く月の光は里へ帰る彼の姿を木々の間から時おり照らしだしていた。きらきら、きらきらと。
狐の面をしているので、彼の白銀の髪は銀狐の毛並みのように煌めきながら波打つ。
やがて前方の木間(こま)が開けてきて森の終わりを告げる。
『やっと着いたか。』
森から抜け出し、さらに前方に見える里の灯りに安堵の息を小さく吐いた。
本当ならば何処ぞで野宿でもしてきて良いのだけれど、少し頑張れば里に着くだろうし暖かい布団で寝れると思うと足を止める事が出来なかった。
結果⋯『さすがに疲れた。』ふぅ⋯と肩で息をした。
『ん?』
里の灯りが見えるのはこの崖の下なのだが、ここは歴代火影の顔岩の上でもある場所で⋯
『誰か⋯いる。』
顔岩の上には既に先客が居たようだ。こちらに背中を向けて胡座をかいて座っているようだった。
「 !! 」
それは男のようで、こちらの気配に気づき振り向きながら立ち上がった。
『あのシルエットは⋯。』
自分とさほど変わらぬ身長、頭の後ろ高くにひとつに結わえている髪。
「イルカ⋯先生?」
「カカシさんですか?」
その姿、声は紛れもなくカカシが密かに恋い慕っているアカデミー教師のもの。
「何故ここに⋯。」
思わずふらふらと近寄ると、イルカは「えへへ」と言った感じで上げた腕を後頭部に当てて何やら恥じらっていた。
「いやぁ、勤務帰りに満天の星を見上げていたら此処で月見酒でも飲もうかな⋯なんて思ってですね⋯。」
「月見酒⋯。」
よく見ると彼の左手にはコップ酒が。
「焼き鳥を沢山買ってコップ酒も買って⋯って、教師なのに火影岩の上でコレは不謹慎ですかね?」
そう言いながらイルカが急に戸惑い出したので「大丈夫ですよ。ここ、景色いいし。」と面を頭の上にずらしながらイルカの元へと近づいた。
「カカシさん⋯もしかして今お帰りで?」
「うん。野宿して明日の朝に帰ってきても良かったんだけど⋯あと少しだったしね⋯。」
「うわぁ!それじゃあお疲れでしょう!!あっ!座ってください!あと⋯これ良ければどうぞ!」
イルカは慌てて自分の横に座るスペースを作り、袋の中から新しいコップ酒を取り出した。
「え?いいの?」
「コップ酒で申し訳ないのですが。」
「先生飲むんじゃないの?」
「いえっ!これは持って帰る用です。あ!焼き鳥は沢山有りますよ!腹減ってません?あー!ケチんないで寿司折りも買えば良かった!!」
タハーッ!と自分の額を掌で叩くイルカに思わず笑ってしまったが、こんな彼だからこそカカシは今すぐにでも抱きしめたくて堪らない気持ちになるのだ。
「焼き鳥ご馳走になりますね。腹も減ってます。」
「はい!奮発して沢山買ったんですよ!明日の弁当にも入れら⋯あ、いえいえ、全部食べていいんですよ?」
「三本ほど頂ければ大丈夫です。酒、頂きますね。」
イルカが空けてくれた場所に腰を下ろしコップ酒のキャップを外した。
それを見ていたイルカも静かに腰を下ろすと「お疲れ様でした。」と自分のコップ酒を差し出してきたのでカカシもコップを近付け乾杯をした。
「はぁー美味っ!しみるなぁ⋯。」
「もっと良い酒なら良かったんですが。」
カカシにはこれ以上美味しい酒なんて無いと思われた。任務帰りの疲れた体に、大好きなイルカから貰ったコップ酒。しかも彼の横で飲めるなんて最高の贅沢だ。これはなんのプレゼントだ?任務を完璧にこなして来たので神様からの御褒美?
「ん?」
「?なんですか?」
「今日は何日かなぁ⋯。」
「今日?今日⋯は⋯九月十五日ですね。あと数時間は。」
「誕生日だ。」
「え?どなたのですか?」
「俺の。」
「お⋯ え!?」
イルカがサッと立ち上がった。
「え?どうしたの先せ⋯」
「おっ!おめでとうございます!!」
腰を直角に曲げるほど頭を下げると「大事な誕生日に俺なんかと一緒で申し訳ありません!!」と謝り出した。
「ちょ、ちょっとちょっと。待ってよ先生、顔上げて?やめてくださいよ。」
すると、へなへなと膝をついたイルカは「こんな安酒でお祝いしちゃって⋯。」と項垂れてしまった。
しかしそれを見たカカシは「ふぅ⋯」と、ひとつ溜息をついてイルカの前にしゃがみ込み優しく微笑んだ。
「ね、せんせ。俺とっても嬉しいんですよ?だってずっとこうしてイルカ先生と酒を酌み交わしたかったから。夢が叶った。」
「え?」
「それに俺、酒の味の善し悪しなんてよく分からないから安酒って言われてもねぇ⋯ははは。」
自分から勧めた酒を「安酒」と言ってしまった事に今更ながら恥ずかしく思い、イルカは顔を真っ赤にさせて「すみません⋯。」と小さく呟く。
「ね?ほら、ここに座ってよ先生。一緒に月と里灯りを見ながら祝ってよ。」
「⋯はいっ。」
イルカは再びカカシの隣に座り直すと「ん?」と今頃になって気づいた。
「カカシさん、俺と飲みたかったんですか?」
「うん。いつも誘おう誘おうって思いながら言いそびれてた。一度ゆっくり話をしてみたかったんだ。受付だけじゃなくてね。」
「そ⋯ か。へへへ!嬉しいんです!ありがとうございます!」
「うん。だからこれが一番の誕生日プレゼント。」
ほら、とコップ酒を掲げる。
「安く上がっちゃったなぁ⋯ と、またまたすみません!」
「ははは。」
「では改めまして。カカシさん誕生日おめでとうございます!」
「ありがとう。」
カチン とコップを合わせて、平和な里の夜に二人顔を合わせて微笑み合う。
カカシにとって最高の誕生日になったのは言うまでもなかった。










 



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