∴季節物・誕生日∴

□Valentine☆day2019
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何やら商店街が賑やかだ。いつもより、やけに女の子が目につく。そして皆ウキウキと浮かれているようにも見える。
『あ〜⋯なるほどね。』
非番で里の中を巡回がてら歩いていたカカシは、すれ違う女の子たち皆が楽しそうにしているのを不思議に思っていたのだが、とある洋菓子屋に貼られているポスターを見て理由がわかった。
甘ったるそうなとろけるチョコレートの写真にハートと共にValentinedayと書かれてある。
『俺も昔っからよく貰ったよなぁ。』
しかしどれも相手にしないうちに段々と貰う数も減って行った。そのうち後輩のくノ一や同僚のくノ一、そして上忍師になってからはチーム紅一点のサクラくらいからしか貰わなくなっていた。
『まあ安心して口に入れられるのはサクラからのだけだけどね。』
冷蔵庫に入れて、疲れた時に少し食べるだけ。忍犬達にチョコレートを分けて与える訳にも行かないから、無くなるまで半年近く庫内に残っていたこともあった。
「いやあ〜自分の為に買いたいけど高いよぉ!」
洋菓子屋の扉が開き、聞きなれた声が聞こえてきた。
「でも買う人は買うのよねぇ⋯て、あら!カカシ先生!」
「サクラに⋯いの、二人ともバレンタインチョコ買ったの?」
「いい所で会ったわ!先生ハイ!どうぞ!」
サクラが青い箱に山吹色のリボンが付いた薄い箱を渡してきた。
「毎年悪いねサクラ。ありがとう。」
本当にあげたいだろうサスケは里抜けをして今は居ない。それに同じ班のナルトも自来也様と修行の旅に出ているから他にチョコレートを渡す相手もいないのだろうと思われる。
「いいんです。あとは父に渡すだけだし。」
「本当にいいの?こういうって高いんじゃないの?自分の為に買いたいけどって聞こえたけど⋯。」
「やぁだ!聞いていたんですかー?」
「違いますよカカシ先生、サクラと言っていたのは、この店で一番高級で高くて美味しそうなチョコレートの詰め合わせですぅ!」
そんなチョコレート誰が誰に買うのか分からないが、サクラ達の小遣いでは買えない値段のようで
「あのさ、良かったら俺が買ってやろうか?お前達に。」
「「 えっ! 」」
年頃の女の子二人の輝いた瞳に見上げられカカシも少したじろいだ。「は⋯ははは⋯。」
「先生本当にいいの!?凄く高いんですよ?」
「あら!カカシ先生だって腐っても上忍!ボーッとしている様でかなりの
高給取りだから大丈夫よ!ね!せんせっ!」
サクラ⋯ それ褒めてないから。と言いたい気持ちを掻き消しながら二人の肩を押して「ほら、早く買わなきゃ無くなるんじゃないの?」と店へと入った。
店内の甘い匂いはチョコレートだけではなく、女の子達からも香っているのだろうと思われた。
「なんかあれだね、俺やっぱり場違いだね。」
「大丈夫ですよー先生。ほらほら、このチョコです。本当にいいの?」
それは他のチョコとは明らかに違う、赤いハート型の陶器に六粒入っているだけで結構な値段だった。
「これは容器代が高いんじゃないの?」
「原材料も質とか違うみたいですよ〜。」
「売れてんの?」
「多分⋯上忍のお姉様方が本命に⋯とか。」
要するに金のある奴しか買わないという事かと納得した。とにかく他の物とは値段の桁が違う。
「うーん。味も値段に伴えばいいけどね。じゃあこれ⋯買うか。」
「やった!ありがとうございます先生!!来年はもっと良いチョコ贈りますね!」
『良いチョコって、じゃあくれたチョコはどんなのだって言うのよ⋯。』
カカシは飾られている残り三個のハート型の容器を全て手に取った。
「え!先生全部買うの?」
「だって容器を二人で分ける訳には行かないだろう?一人ひとつずつやるよ。それに一個残してもなぁ。」
三個を手に取り会計へと持っていく時「お金のある人の買い方よね⋯。」と、いのがサクラに囁いたのが『丸聞こえだーよ。』だった。
「はい、じゃあこれサクラ、これいのにね。」
「すみません先生、私にまでぇ。」満更でもない顔でいのが嬉しそうに「えへへ」と笑った。
「さて、残りのひとつはどうするかな。」
「先生には本命の人っていないんですかぁ?」
「あ?俺に?いるわけないでしょ。彼女を作る暇もないっつーの。」
「嘘ばっかりー。面倒臭いだけじゃないんですかー?」
サクラの意見が図星であった。
「誰か⋯この人ならあげちゃってもいいかって人に差し上げたらどうです?」
「お前達の言う本命とかっていうのじゃなくても?」
「この際、貰い物だけど俺は食べないからどう?とか言って。」
「それでそのままいい仲になればいいですけどね〜。」
サクラといのは大きく手を振りながら仲良く夕陽の中を走って行ってしまった。残されたカカシの手には透明なケースに入った赤いハート。
『うーん⋯なんとなく買ってしまったけど、これ女の子にあげちゃったら勘違いされる事間違いないよねぇ。』
この人にならあげちゃってもいい⋯か。チョコを片手に考えながら歩いてた。
「先生さようならー!」
「おう!もう遅いから気をつけて帰れよ!」
聞き覚えのある声に顔を上げると生徒に手を振ってこちらに歩いてくる知った顔が。
「あれ?カカシさん。」
「⋯イルカ先生。」
「今日は任務なかったんですか?」
「あの、これ。」
「え?」
イルカの前に差し出した赤いハートに自分でも驚いた。『え!なんで俺!』
「え?これは?」
「あ、いえ、これはサクラ達がその、」
「サクラ達からですか?」
そうじゃなくて⋯と口篭ったが⋯
『そうか。イルカ先生にならあげてもいいよね。』
この人と飲むと楽しいし、自分にしては珍しく離れがたくて朝までハシゴしながら飲み続けた事もあった。
「先生もう帰るだけ?」
「え?ええ。」
「ねえ、これから飲みに行きません?俺の奢りです。バレンタインだしね。ほら、このチョコの事も正直に話しますから!」
「んー?何か有るんですね?曰く付きのチョコですか?」
ニヤリと笑いこちらを見上げるイルカに、飲む前から楽しくてワクワクさせられたカカシも「うふふ。」と意味ありげに笑い返した。
「さあ、行きましょ?」
「はいっ。お伴させて頂きます!」


まだ恋心に気づかない二人の始まり









 



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