∴季節物・誕生日∴

□2019年 イル誕
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「うぇーい!イルカ!誕生日おめでとうー!」
「今度こそイルカに彼女が出来ますようにー!」
「今度こそイルカに嫁さんが来ますようにー!」
「今度こそってなんだよっ!」
大勢の忍で賑わう居酒屋の片隅で友人三人に囲まれたイルカが誕生日を祝って貰っていた。友人⋯ 言わば悪友と言うやつか。
「今度こそ、だよ。今彼女居ないのお前だけじゃん。」
「忙しい忙しいって言うけどさ、要領良く仕事減らせよ。」
「お前は生真面目だからなぁ。」
「彼女の存在は生きて行く糧だぞ。」
「うるせぇー、お前何人の糧に振られてんだよ。数えてやろうか?」
「あ!イルカ!お前って時々すげぇ意地悪な!すげぇ性格悪くなる!」
ワッハッハ!!と笑って返してみたものの意地悪のひとつも言いたくなるというものだ。教師になって忙しくなってからは彼女なんて作る暇も無くなったから。
「まあまあ飲めよイルカ!今日は俺達の奢りだ!好きな物頼め!」
なんだかんだとうるさい奴らだがイルカにとっては大事な友だ。しかし、だ。
「俺もいつかはお前らみたいにだなぁ、誕生日当日は彼女と過して、こうして集まるのは別の日にするからな!」
「おお!イルカが宣言したぞ!」
「来年な!来年こそ別の日にしろよ?」
わいわいと賑やかに飲んでいると横を通った男が足を止めて声をかけてきた。
「よお、賑やかだな。」
「「「ア、アスマさん!」」」
まだ酔いが回りきっていない中忍四人は思わず背筋をピンと伸ばす。
『あれは⋯』
イルカはアスマの後ろにぼんやり立っている男に目をやった。はたけカカシだった。この二人が友人関係なのは受付で見かける様子からもよくわかっていた。両者共に階級など関係なく皆に分け隔てなく話しかけてくれる人間だ。イルカもこの二人の上忍が大好きだった。憧れの存在でもあった。
特に⋯ はたけカカシ。彼の柔らかい物腰と優しく耳に残る声には何かしら惹かれるものが有った。彼はいつもイルカの「お疲れ様です」と言う労いの言葉に「イルカ先生もお疲れ様。」とニッコリ微笑んで返してくれるのだ。くノ一達が騒ぐのもよーく分かる。
「ま、楽しいところを邪魔するのもなんだし、さっさと帰るとするか。飲みすぎんなよお前ら。」
「ありがとうございます。」
「今日はこいつの誕生日なもので⋯。」
帰りかけたアスマとカカシの足が止まった。「こいつの⋯」と言われて肩に手を置かれたイルカが「言わなくてもいいって!」と気恥しそうに友人を見返す。
「え?イルカ先生、誕生日なの?」
そう聞いてきたのはカカシ。キョトンとした感じでイルカを見ていた。
「あ⋯あははっ、はいっ。」
イルカはというと照れくさそうに鼻傷をポリポリと掻いて何故か「すみません⋯」と謝った。
「おいおい本当か。イルカの誕生日か。」
「はい。アスマさん。」
「そうか、おめでとう。ま、ゆっくり飲んでいけ。」
「ありがとうございます。」
二人が玄関手前の会計へ向かうのをイルカはボーッと見送った。カカシが一度チラリとこちらを振り返り何か言いたそうな雰囲気だったのは気のせいか⋯。
「かっこいいよなぁ、あの二人。」
「奥の個室から出てきたんだぜ?上忍ともなると俺達と違って人に聞かれちゃヤバい話とか有るんだろうなあ。」
皆が憧れるのも無理はない二人は会計を済ませると店の外へと消えていった。
イルカ達はまた直ぐに飲み始め、お互いの近状や嫌な上司の話で盛り上がるが、暫くするとテーブルに刺身の舟盛りが運ばれてきたので目を丸くした。
「違う違う!俺達こんなの頼んでないぜ?」
「他のテーブルのじゃねえ?」
「只で置いていってくれるのならいいけどー!!」
ワハハと騒ぐと店員が「猿飛様からの注文です。お代は頂いております。」とニッコリ笑って言うではないか。
「さっ猿飛!アスマさんからだ!」
「お前らが誕生日だなんて言うから⋯。」
「うわー!俺、イルカの誕生日だって言って良かった!」
わははは!と周りは喜びに湧いたがイルカ自身は申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「まあいいじゃないかイルカ。お気持ち有り難く頂こうぜ?次にお会いした時には俺らも礼を言わなきゃな。」
どう見繕っても店で一番高そうな舟盛りで貧乏性のイルカは『幾らしたんだろう。』と申し訳なくて、そればかりが頭に浮かんだ。
しかし皆の言う通り、有難く頂く事が気持ちに添える事なのだろうと「頂きます。」と拝むように両手を揃えてから箸をつけた。

「いや〜、それにしても豪勢な舟盛りにありつけて良かった!」
「俺もあんなカッコイイ真似ができる上忍になりたい!」
誕生会と称した飲み会も終わりイルカ以外の仲間が会計の為に勘定を割って払うつもりでレジの前に立ったのだが
「お支払いは、はたけ様へ請求する様にと言われていますので、このままお帰りくださって結構です。」
『カカシさんが!?』
「うおー!はたけ上忍かっこいいー!」
「今日はなんてラッキーな日だ!」
「イルカ様様だなっ!」
喜ぶ仲間とは裏腹にイルカは本当に却って申し訳なくて仕方がなかった。明日は受付も非番でアカデミーも休みだが、上忍待機所まで足を運んで御二人に頭を下げてこなければ⋯と溜息を吐いた。
『嬉しいことは嬉しいが。一応顔を見て礼を言わねば。』
外へ出ると空には綺麗な月が浮かんでいた。何故か⋯ふと、銀髪の彼の姿が頭に浮かぶ。
『⋯カカシさんにご馳走になってしまった。⋯アスマさんにも。』
「じゃあ俺はここで。」
「おう!イルカ、彼女出来たら教えろよ!」
「ははは!わかったよ!おやすみ!」
「おーう、おやすみぃ!」
「気ぃつけて帰れよー!」
部署も違う友人達とは普段なかなか顔を合わすことも無いのだが、本当にそのうち⋯大事な人が出来た時には報告して回ろうと心に誓った。
『今まで惚気られていた分、うんと惚気けてやるんだ!ひひひ。』
「⋯と⋯!!!」
ニヤニヤと歩いていると、先の方に見える人影にドキリとさせられた。そしてその人影は、ゆらりと動き出し月明かりに照らされながらこちらへと近付いてくる。
「あ⋯ あなたは⋯。」
「お疲れ様イルカ先生。」
「カカシさん。」
ご馳走になってしまったという事もあり、思わず彼に駆け寄った。
「あの!先程は店での勘定をっ」
「あ〜 いいからいいから。先生の誕生日だったようだし、たまには⋯ね。」
「ご馳走様でした!ありがとうございます!」
「もう〜頭上げてよ。 ね?」
カカシに促され頭を上げたものの「本当に⋯すみません。」と、また口に出してしまい「ほら、また。」とカカシに笑われた。
「ところでカカシさんは何故ここに?どなたかと待ち合わせでも?」
あの店でアスマと飲んでいたとはいえ、もう一軒行くには十分な時間だった。
「待ち合わせって言うか⋯待ち伏せ?」
「待ち伏せ?ですか?」
「うん。 ⋯イルカ先生を待っていた。」
「え?俺?」
ツツ⋯とカカシが更に近付き「あの⋯」と伏せ目がちに、そして遠慮がちに聞いてくる。
「良かったら、もう一軒俺と飲みに行きませんか?」
「え?カカシさんと飲みに!?」
「あ、いや、その、えーと、もう飲みたくなければ何か少し食べて帰るとか。」
「俺は全然飲めますよ!明日は休みですし、カカシさんさえ良ければお供させてください!」
何故だかこの上忍様はイルカの誕生日を祝いたいらしい事が伝わってきたので、喜んで返事をさせて貰った。
「じゃ、じゃあもう一軒行きましょう。ぜひイルカ先生の誕生日を祝わせて?」
「嬉しいです。ありがとうございます。」
憧れのカカシと飲める事の嬉しさに顔が緩んで仕方の無いイルカはウキウキした足取りで
「何処へ行きましょうか?俺、朝までやってる店知ってますよ!あ、朝まで⋯は無いですよね!あはは!」と子供の様にはしゃぎだした。
「ううん。先生が良ければ朝まで飲み明かしましょう。俺、付き合います。」
「カカシさんも言うなぁ!じゃあ今日はとことん飲みましょうね!」
仲間と飲んでいた時とは違う楽しさがイルカの中に湧いてきた。
「ねえ先生?」
「はい!なんでしょう?」
「良かったら⋯また来年も祝わせてくださいね。誕生日知っちゃったし。」
ふふっと笑うカカシに思わず見とれてしまいそうになったが、その気持ちが嬉しくってイルカは言葉も出ずにニカッと笑顔で返した。そして何故かしら頭にこう浮かぶ

来年の誕生日にはカカシと二人で飲んでいたいな⋯ と










 



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