∴季節物・誕生日∴

□2020年 イル誕
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俺は走った。走って走って走り続けた。どこを走っているのかさえ分からないくらい走り続けた。あの人を探している。
「カカシさーん!!」
愛しい人の名を叫びながら。足も止めず走り続ける。
どこに行った?どこまで行った?ケーキを買いに?酒でも買いに?もうこんな夜更けなのに。店も閉まっているし里の人達だって風呂入って寝る頃だ。
「カカシさーん!!」
俺は息を切らして立ち止まる。街灯の明かりに人影も無い。
「カカシ⋯さん。」
俺は貴方がそばに居てくれるだけで良かったのに。傍で笑っていてくれるだけで⋯

「なぜ泣いてるの?」

その声は⋯

「イルカ先生?大丈夫?」

カカシさん? 光の中に居るのはカカシさん?

「目が覚めた?先生涙流して寝てるんだもん。どうしたの?嫌な夢でも見た?」
「⋯夢⋯」
「とりあえずお誕生日おめでとう。昨夜も0時過ぎに言ったけど。」
「バ⋯」
「ん?バ?」
「バカヤロー!!」
「へ?」
「あんたが昨夜、俺が死んでも誰のものにもならないでね。俺が居なくなっても悲しまないでね。なんてヤリながら言い聞かせるから変な夢見ちゃったじゃないか!」
一瞬キョトンとしたカカシだったがヘラッと笑うと「なぁに?俺が死ぬ夢でも見た?」と嬉しそうにニヤニヤとした。
そんなイケメン顔にイラッとしたイルカは更に文句を言う。
「うるさい!馬鹿!」
「嬉しいなぁ。そんな夢で泣いてくれたのかと思うと。」
「ニヤニヤするな馬鹿!」
「あんたねぇ、教師が馬鹿馬鹿言うのやめなさいよ。」
「うるさい!!」
不貞腐れたイルカは布団を被って更に何やらブツブツ言い続けると最後に大声で「バカヤロー!!」と叫んで終わりにしたようで、掛け布団から少しだけ顔を見せた。
「⋯高級料亭だけじゃ許さない。」
「うん。夕方に予約してあるよ。」
「一楽のラーメンだって食べたい。」
「うん。昼に食べに行こうか。チャーシュー大盛りでしょ?」
「ケーキだって食べたいんだ。ホールケーキ。」
「うん。一楽の帰りにでも買って帰ろうね。」
「カカシさん、水っ!」
「はいはい、待っててね。」
何を言ってもイケメン顔をニコニコさせているのが憎たらしいが嬉しい。こんなだから彼とは離れたくないし離れられないのだ。
『俺の事⋯こんなに甘やかして愛してくれるのはあの人だけだ。それが無くても俺はあの人が大好きだけど。』
いつか戦の無い世界になるといい。あの人が任務に出る度に不安に押しつぶされそうになるのは辛い。
ナルトが自来也様との修行の旅から戻ってくる日も近い。彼は強くなって戻ってくる。でもその強さが生かされない平和な世界になるといい。
「はい、水。」
この人とお互いシワが出来るまで一緒に居たい。居られる⋯かな。
「カカシさん、愛してますよ。」
「え!なに!?今日は俺の誕生日なの?なんで先生から俺が嬉しい言葉を貰っちゃうの!?」
「いつまでも傍にいてくださいね。」
「うん!わかった!」
少し体を起こしたイルカの体をギュウッと抱きしめた。
『いつまでも、なんて。そんな約束戦忍だから出来ないけどって、付き合い始めの頃に言ったの自分で覚えてないのかな。』
今はノリで言ってくれたとしても嬉しい。
「はたけカカシ、朝食を作って来るであります!」
嬉しさで幸せいっぱいと言った顔のままカカシは寝室から出ていった。
『いつか貴方は必ず火影になる身⋯。それ迄でもいいんだ。貴方が生きてさえいてくれたら。』
うつらうつらと再びイルカの瞼が閉じてきた。
『誕生日おめでと⋯俺⋯』
次にイルカが見た夢は泣けるほどに幸せな夢だった。








 



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