∴季節物・誕生日∴

□2020年 カカ誕
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「え?誕生日?俺のですか?」

イルカ先生の家で夕飯をご馳走になりながら、俺は素っ頓狂な声を出した。
「はい!是非お祝いさせてください。だってその…せっかく御付き合い始めたのに…。」
先生は箸の先を唇に押さえつけたまま赤い顔で下を向き、モゴモゴと言葉に詰まっていた。俺はそんな彼が可愛いと思い、温かい幸福感に包まれる。
噂には聞いていたが恋人が出来るとこんなに甘酸っぱい気持ちになれるんだと初めて体験した。そう、先生は俺の恋人。付き合ってひと月近く。
「嬉しいな。ありがとうございます。それでは是非。」
にっこりと素直に嬉しさを顔に出して答えたが、次に彼は彼らしいとんでもない事を言い出した。
「では七班の子達も呼んで…」
「ダメでしょっ。」
「へっ?」
なんでダメなの?ってキョトンとした顔でこちらを見ているが当たり前でしょーよっ!
「先生、恋人の誕生日祝いに教え子まで呼ぶのやめてくださいよ。二人で祝うのが本当でしょうが。」
初めて恋人と迎える誕生日にアイツら呼ぶのはやめてくれ。小さな子供の誕生日パーティじゃないんだからさ…。
「あのね、先生の誕生日には先生の希望があれば呼んでもいいですが俺の誕生日は二人で祝いたいです。第一アイツら俺の誕生日なんて祝う気ありませんよ。」
「そんな事は無いですよ。」
ハハハと呑気に笑う俺の愛しい人。
「あなたの誕生日を知らないだけで、教えたらきっと…」
多分ね、気の回るサクラあたりが他の二人に「お祝いしましょうよ!やるのよ誕生日パーティ!」とか声をかけるに違いないんだ。
サスケなんかはスカして「ふん」とか返事するんだよ。やる気あるのか無いのか分からん返事で。そしてナルトは誕生日パーティみたいな楽しい事大好き人間だから「やろうやろう!さんせーい!」とか言って小躍りするだろうが、アイツの場合、パーティは上司の誕生日でもなんでもいいんだ。
「先生俺はね、自分の誕生日は恋人と二人っきりで祝いたいです。」
「あ、そ、そうですかっ?恋…人と…」
俺が反論して驚いたのか「恋人」と言うキーワードが効いたのか、先生はまたまた顔を赤らめて卓上の夕飯のおかずに目をキョロキョロと走らせる。(そして沢庵を箸で摘まんで赤い顔のままバリボリと音を立てて食べてた。可愛い。)
「プレゼント…何か欲しいものあったら教えてくださいね。その…高価な物は差し上げれませんが。」
顔を上げて「へへっ」と俺を見る笑顔にキュンとする。今日はお泊まり決定だな。夕飯食べたら大抵泊まるんだけど。今夜は特に滅茶苦茶にしてやりたい。
「プレゼント…か。」
考え出した俺に安心したのか嬉しそうなホッとした顔で夕餉を食べ進めた先生。
『誕生日祝いねぇ…。』
今までも同僚なんかが「お前誕生日だろ?飲みに行こうや。」と俺が断る間もなく連れて行かれて祝ってくれた事が何回かあったが(しかも数人集めての飲み会と化す)こうして誰かと二人だけで誕生日祝いなんて…
『 あ… 』
俺は、ふと思い出す。

「誕生日おめでとうカカシ。」

父さんの声と顔が脳裏に浮かぶ。
そうだ、二人きりで祝う誕生日なんて父さんが祝ってくれていたあの頃以来かもしれない。それと同時に父さんがくれた最後のプレゼントも思い出した。
「これ、お前が欲しがっていた名匠のクナイだ。上忍になったら使えよ?お前なら直ぐになれるさ。ははは。」
俺なんかと違って気が優しい父さんは柔らかい笑顔で話しかけてきた。でも俺の本当に欲しいものは無理なお願いしかないから「ありがと。」と、無愛想に応えるしかなかった。
俺は何も言わなかったけど、当時から気づいていたよ。忙しいはずの父さんが俺の誕生日だけは非番になるよう調整していたはずだと。必ず九月十五日に祝ってくれていたからね。
そして誕生日のご馳走の定番が、大きな桶に作った「ちらし寿司」と「ナスの味噌汁」。
ガキの頃から甘い物があまり好きではなかった俺に誕生日ケーキ代わりに彩り良く、食事にもなるちらし寿司を選んで作ってくれていた。
「カカシは甘い物苦手だからなぁ。本当はピンクの粉のやつ散らしたら綺麗なのになぁ。」
「父さん、桜でんぶって言うんだよそれ。」
って最後の誕生日に交した会話だけは今でも覚えている。ああ…それともうひとつ。(手に持った味噌汁椀を見て思い出した)
「ねえ父さん、ところでなんでいつも誕生日には必ずナスの味噌汁なの?いつもだよね?」
そう聞いて父さんの顔を見上げた時、父さんは相変わらず柔らかい笑みを浮かべていたが、その時は少しばかり悲しそうにも見えたんだよね…。
「ナスの味噌汁はね、母さんの好物なんだ。父さんも母さんの作ったナスの味噌汁大好きでね。」
「……。」
突然の母さんの話に言葉に詰まった俺に父さんは話し続けた。
「ほら、お前の誕生日に母さんも居て喜んで祝ってくれそうだろう?」
「なんだよそれ、俺の誕生日が嬉しいのかナスの味噌汁が嬉しいのか分かんないじゃない!変なの!」
俺はちらし寿司を作る父さんの傍を離れて自分の部屋へ戻った。そして襖を閉めてへたり混んで静かに泣いたんだ。
父さんがそんな事を考えて作っていたなんて知らなかった。俺は毎年母さんの思い出の、好物だというナスの味噌汁を誕生日には必ず口にしていたのだ。普段もたまに食卓に出ていたけれど誕生日のそれは特別だったんだと今更気づかされ泣けたんだ。
「カカシさん?」
ナスの味噌汁は俺の好物となった。
「カカシさん?大丈夫ですか?味噌汁不味かったです?」
先生の声にハッと我に返る。どうやら俺は味噌汁椀を見つめたまま固まっていたようだ。
「いや、すみません。ははは…プレゼント何がいいか考えていたもんですからっ。」
「真剣に考えすぎですよ。パッと浮かんだものでいいんです。」
笑ってお茶をすする先生の誕生日は今年は祝えなかったけど(付き合い始めた頃には、とっくの昔に過ぎていたのだ)来年は俺がお祝いしなくちゃな。戦忍的には「出来たらいいな…」と願うばかりだが。
「ねえ先生、誕生日にリクエスト有るんですけど。それがプレゼントでいいんですが。」
「なんですか?」
「ちらし寿司とナスの味噌汁を作って欲しいです。あ、ちらし寿司に桜でんぶは入れないでね。」
先生は最初キョトンとしたけど、すぐに「良いですよ!任せてください!」と満面の笑みを見せてくれた。

父さん、俺久しぶりに本当に嬉しい誕生日を迎えられそうだよ。

母さんも祝ってくれるといいな。








 



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