∴季節物・誕生日∴

□2021年 イル誕
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「梅乃家…ここだ。」
太い木の幹そのままの門柱に白く四角い行灯が付いていて、そこには可愛らしい字体で「梅乃家」と書かれてあった。
「あれ。俺ここ来たことある?」
思い出した。俺はここへ来た事がある。忘れもしない(店の名前は忘れていたが)中忍試験に合格した後、三代目の爺ちゃんが「皆には内緒だぞ」と合格祝いに連れて来てくれた所だ。
誕生会の皆が、それを知っているはずもなく。偶然とはいえ誕生日にこの店にまた来れるなんて、なんとも感慨深いものがあった。
暖簾をくぐり玄関までの石畳を歩くと玄関の引き戸の外に仲居さんが一人佇んでいた。
「いらっしゃいませ。うみの様でございますね?」
「あ、はい。え?」
何故来たのがわかったのかとキョトンと中居の顔を見ているとニッコリ笑って答えてくれた。
「忍びの方は「気配」とやらでお分かりになるのでしょうね。お連れの方が門の近くまで来ているはずだからと仰られたのでお迎えに上がりました。」
「そうですか。」
誰だろう。こういうことに長けているのはマツカゼだろうか。なかなかやるな。
「椿の間はこちらになります。」
「あの、すみません。厠に寄ってから行きたいので俺一人で行きます。ありがとうございます。」
「さようでございますか?ではこの廊下を突き当たりに右でございますので。ごゆっくり。」
「ありがとう。」
仲居と別れてすぐ近くの厠へ用を足しに。
『あいつらの事だから襖開けた途端にクラッカー打ち鳴らして「イルカァー!おめでとう!ヒュー!」だろう?仲居さんが一緒だと恥ずかしいったらありゃしない。ひとりで部屋へ行った方が良い。』
手を洗って目の前の鏡の中の見慣れた顔を見る。
『でも、あいつらだって場所わきまえてそこまでする事ないかな?』
いや!あいつらならやるな!油断出来んぞ?心して行こう!
廊下へ出ると椿の間へと忍び足で進んだ。これぞ忍者。ザ・忍者だ。ガキの頃からイタズラする時は忍び足が必須だったりしたからな。忍び足にかけては誰にも負けん!
すすすすすっと椿の間の入口まで進み、息を殺して左右の襖の引手に指をかける。きっと開いた途端にクラッカーだ。もし俺がここまで来た事に気がついてなければ開けた途端にあいつらのポカンとした間抜け面が拝めるというもの。
『お前らになど負けないぞ。今日の主役は俺だ!』
両手を左右に思い切り開いてスパーンッ!と襖を開けると、あいつらより先に言い放ってやった。
「ハピバースディ俺っ!!!」
してやったり!
「て、あれ?」
三人の気配が無…い…
「あ、お待ちしてました。」
「!!!しっ!失礼しました!!」
俺は慌てて再びスパンッ!と襖を閉めた。え?何?今部屋の中に、座卓の前にカカシさん座ってなかったか?あれ?あれ?つ、椿の間って、あれ?
俺は胸元からタツヤが寄越したメモ程度の手紙を取り出し確認した。
『料亭「梅乃家」…椿の間…』
背後で襖が開いた。
「先生?」
「あ、あのっ!えっと、すみませんっ!何か手違いのようで!」
あははと笑って誤魔化した。早くこの場を去り、あいつらを探さなければと少し怒りも湧きつつオロオロとしてしまった。イタズラにしては、大人気ない。里のエリート上忍様の前で俺は恥をかいてしまった。て言うか失礼極まりない事を…
「いいんですよ。先生の誕生会の席は此処です。さあどうぞ、待ってたんですよ?最初はビールでいい?」
「え?」
憧れの上忍の片手が俺の腰を押して優しくリードし部屋へと招き入れる。
「さあ座ってください。一番良いコース料理を頼んであるので一緒に美味しく食べましょう。酒も好きなだけ飲んでください。」
「は…はあ。」
ストンと腰を下ろしたものの、この部屋にはカカシさんしかいない。あれ?あいつらは?
「あの〜…」
「先生のお友達は他の離れた座敷で楽しんでもらってるよ。この部屋は俺とイルカ先生だけです。」
「ど、どういう」
「彼らから聞きました。先生今日誕生日なんですってね。おめでとうございます。」
「ありがとう…ございます。」
何がなんだか分からない。それよりも憧れの上忍様と向かいあわせで座ってる事に胸がドキドキしていた。俺、汚い顔してないかな。服、乱れてないかな。
「あなたの仲間が誕生会の計画を立てているのが耳に入ってね。その…俺としては一度イルカ先生と飲んで話をしてみたいって前から思っていて…。」
気のせいか里の誉がモジモジしている。この人でも照れくさく感じる事ってあるんだ。それも、え?俺と?俺と飲んでみたかったって…。
「あははっ。カカシさんも面白い方だ。受付で顔を合わす程度の俺と飲みたいだなんて!」
そりゃあ俺にとって「はたけカカシ」は雲の上の存在。憧れの上忍ではあるけど。
「いつからかなぁ。任務から里に戻って先生の顔見て報告書出して「お疲れ様」って、その笑顔を見るのが俺の癒しになってました。聞けばアカデミー教師も兼任で…て、そちらの方が本職でしょうけど。」
と、その時 酒と料理が運ばれて来た。
「最初はビールでいいよね?あとはどうしましょうか?あ、ケーキ用意してあります、ほら。二人なので小さめのホールケーキですけど。」
目の前に豪華な料理が並び、真ん中にはホールケーキが鎮座し、どうやら俺の憧れの上忍、カカシさんも上機嫌の様だ。
これが俺へのサプライズ?憧れの上忍様との飲み会。誕生日パーティー。
『ま、悪くはないか。気は張るけどな。ははっ。』
「ささ、イルカ先生どうぞ。」
カカシさんがビール瓶をこちらに傾ける
「わわっ!そんなっ!カカシさんからどうぞ!」
「何言ってんの。今日の主役は先生でしょ?ほら。」
「すみませんっ!ありがとうございます!」
ひー!恐縮過ぎて、俺本当に楽しめるかなぁ!あいつらめ!ありがたいけど覚えてろよ!



「今頃イルカのやつ、楽しめてるかなぁ。」
「憧れの上忍をゲストに驚かせようと思ったのにさ。まさか別室にされるとは。」
「ま、ここの支払いは全て払ってくれる事だし。俺達は俺達でまた後日にいつもの店で改めて祝ってやろうぜ。」
「はたけ上忍とどんな雰囲気だったか聞かなきゃだしなっ!」
ギャハハハ!と酒や肴に舌鼓を打つメンバーだった。


HAPPY BIRTHDAY イルカ先生








 


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