∴季節物・誕生日∴

□2022年 イル誕
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「え?俺の誕生日にですか?」
「うん!休み取るからね先生。俺シカマルに頼み込んで絶対休みもぎ取るから!」
昨夜は珍しく家に帰って来る事が出来た多忙なカカシさんは、朝食の後にお茶を飲みながら俺にそう宣言した。
「だーってここ最近忙し過ぎていつ家に帰れるか…いつ先生を抱きしめられるか分かんないでしょ!?先に宣言しとかなきゃさあ!」
不貞腐れた顔でグイッとお茶を飲み干す。
「俺の机の上の書類の山見たでしょ?何あれ。全部五代目が残していった書類だよ?早くサインしなきゃ期限だって切れそうな物もあるんだよ?」
「ええ、そう言ってましたね。」
にこやかに話を聞いてあげる。この話は前に帰宅出来た夜にも文句言っていたからな。
「有能な奈良家の息子が時間かけて綺麗に整理してくれてるから処理もしやすいというものの、それでも時間がかかるっちゅーの。」
「他にもやることありますものね。」
俺もずずっとお茶をすする。そして書類という名の紙の束に悲鳴を上げている彼に心の中で苦笑する。
若い頃は里一番の凄腕上忍と言われ暗殺戦術特殊部隊の部隊長まで務めあげた彼なのに。幾多数多の忍を相手に死線を越えて来たというのに紙切れ如きで泣き言を言うなんておかしくて可愛らしい。
「ほらほらカカシさん、もう時間ですよ。執務室という戦場へ行かなきゃですよ。頑張って。」
「ほんと戦場だよね。」
「しょげないしょげない!ほら立って!」
彼の背中を優しく叩いて鼓舞する。
「先生も厳しいなぁ。昨夜はあんなに可愛かったのに。」
「なっ///早く行けっ!(怒)」
油断すると恥ずかしい事をつらっと言うのは昔も今も変わらない。そこは治して欲しい。
なんだかんだ文句を言いながらも支度を済ませると玄関から出る間際に「またいつ帰れるか…誕生日前に帰れるか分からないから。」って俺の顔を両手で包むと長い口付けをし、最後に強く抱き締めて「行ってきます。」と耳元に腰に来るような良い声を残して出ていった。
カカシさんはカカシさんで忙しいのだが俺も俺で校長としての仕事の他に、実は時期火影候補のナルトの教官として彼に個人教授もしているから大変なのだ。
里の英雄となったナルトが七代目になるのは間違いなく、かと言って英雄と言うだけでは火影の座に座らせる事も出来ないと判断した身近な者達(主に彼の同期のメンバー達)が「ナルトに火影としての教育を!」と教官として白羽の矢を立てたのが俺だった。いや、もっと他に居ただろうに。しかしサクラの「ダメ!ナルトはイルカ先生じゃなきゃダラダラした上に終いには逃げ出しちゃうわよ!」という言葉に「…確かにそうかも」と首を縦に降ったのである。やれやれだ。
「ん、今日の午後にも約束が入っていたな。」
里が平和になったとはいえ、それでも何かしら任務はある。ナルトに教えると言っても週に三回も会えればいいとこだ。今日は五日ぶりに顔を見るので授業の後に茶菓子でも出してやるか。アカデミーに行く前にあいつの好きな焼菓子でも買って行こう。
「さてと俺も支度するか。」

校長室には小さな冷蔵庫が置いてある。頂き物で要冷蔵の物も少なくはないからだ。今朝は学校に来る前に洋菓子屋へ寄りケーキ二つと焼菓子を数種買ってきたから冷蔵庫にケーキだけ入れておく。喜んでくれるかなナルト。
コンコンッとドアがノックされナルトがやってきた。髪も短く切ってすっかり青年の顔だ。今は生意気にも家庭持ちで奥さんはヒナタ、そして可愛い子供もいる父親だ。
「せんせー久しぶりぃー。はい、これお土産だってばよ。酒の肴にバッチリだって土産屋のおばちゃんお勧めの…なんて言ったかな。えーと魚のなんか加工品。」
「なんだよそれ。ちゃんと商品名くらい覚えて持って来い。」
「冷蔵庫に入れといた方がいいぜ。晩酌でカカシ先生と食べてくれよ。」
「うん、ありがとうな。」
俺はいそいそと冷蔵庫の扉を小さく開けて土産物を包みのままそっと入れた。ケーキ、見えてないよな?あとで見せて喜ばせたい。今見せたら今食うって言うに決まってるしなっ!
そうしてさほど疲れも見えないので直ぐに木ノ葉の歴史書と近隣諸国の歴史書などを机の上に出して「始めるぞ。」と促した。
「分かった。始めようぜ!」
いつもなら「えー?」とか「お茶も出ないのー?」とか文句から始まるのに今日は珍しい。少しは大人になったかな?
「だいぶ暖かくなってきたな。今日は暑いくらいだ。少し窓を開けておくか。」
「おう!その方が気持ちがいいってば。」
ナルトとのこうした二人の時間は、カカシさんとの時間とはまた違う喜びがある。真剣に巻物などに目を通している姿を見ていると『大きくなったな。』と涙が出そうになるから困ったものだ。まさか本当にこいつが火影に…いや、まだ候補だが、なるとは思わなかっただけに感慨深い。



 
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