∴季節物・誕生日∴

□2021、22年 カカ誕
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俺のクラスでは毎月下旬頃に生徒達の誕生会をやる。主役の誕生月の子達に皆で歌を歌ったり、俺が作った誕生日カードを渡すだけの、とても質素な、だけど心のこもった温かいひと時にしている。
そして今、明日の誕生会で渡す九月生まれの子供達へのメッセージをカードに書いているのだが、ひとりひとり生徒の顔を頭にうかべながらの楽しい作業となっている。今月は男子が二名、女子が一名の三人プラス男性が一名だ。
「ふふ…っ。」
その、何故か子供たちに混ざっている「成人男性」の顔を思い浮かべると笑みがこぼれてしまった。
「カカシさん、来てくださるかなぁ。」
それは先月の八月の誕生会の事。前日に知り合いのテンゾウさんに偶然出会い八月生まれだと聞くや暗部の方を子供達に会わせたいと参加をお願いしたことから始まる。まさかその当日にカカシさんまで来てくれた事には驚いたが正直嬉しくもあったんだ。
カカシさんはあの時きっとテンゾウさんを呼びにいらしたのかもしれないけど急ぐわけでもなく嫌な顔ひとつせず、誕生会の最後までいてくださった。
そして丁度良いから九月生まれのカカシさんにも九月の誕生会に参加される事を促してみた。勿論いつ任務が入るかわからん生業の俺達なので無理は言わないし大きな期待も持たないようにしている。
『来てくれたら嬉しいけど、勿論任務優先だ。』
それに子供達は八月の誕生会で暗部さんを二人も見ているから諦めもつく。
しかし、俺としてはもう暗部がどうのじゃなくてカカシさん自身を祝ってあげたくてワクワクしているところがある。歳は違えど同じ里の仲間(生徒達)と一緒に祝ってあげたい。
今まで何度も一緒に酒を飲んでお互い差支えのない色んな話を交わしてきたなかで、カカシさんは早くにアカデミーを卒業して、中忍、上忍になられ、幼い頃から前線に立たれてきたのだと言うことを聞いている。
なので逆に里での事、特に俺のアカデミーでの話をとても興味深げに聞いているようだったから、アカデミーでの生徒としての体験を、思い出を、大人になった今からでも持って貰えたらと俺は思うのだ。
「ん〜…カカシさんへ、と。」
深緑のカードの内側の白い余白にメッセージを書き始める。喜んでくれるかな。気難しそうな人だけど、嬉しい時は案外照れくさそうにひっそり喜んでいる人なんだよな。その様子を見て「可愛い」と思う俺はなんなんだって感じだけど(笑)
「…いや、本当に可愛い人なんだよなぁ。本人には言えないけど。」
ああいう人がいつも傍に居てくれたらほっこり癒されるだろうなぁと思う俺もいる。

翌朝
鞄に昨夜書いたカードを忘れずに入れてアカデミーへと向かう。誕生会は朝のホームルームを少し伸ばして開催するのだ。
『カカシさんは来るだろうか。』
ちょっとドキドキする。
『ドキドキ?なんだよこの感情。ははは。』
テンゾウさんの時とは違う緊張感。そうか、そりゃそうだ。カカシさんは里一番の忍者だもんな。テンゾウさんにとっても偉大な先輩なのだからな。そんな人と飲みに行ける俺はほんと奇跡の中忍なんだよな。
『でもほんと可愛い人なんだよ。ふふふ。』
そんなギャップが本当に…
「!!え?あ…。」
校門の門柱に狐面の暗部。通り過ぎる人達にジロジロ見られながらも腕を組んだまま門柱に寄りかかり真っ直ぐ前を向いて立っている暗部。時々気まづそうに避けて通る人もいる。
「カ、カカシさん!?」
急いで駆け寄ると顔だけこちらに向けてきた。
「おはようございます!来てくれたんですね!嬉しいです!」
ニカッと笑うと腕組みをしている指先がキュッと腕を強く掴んでいた。
「子供達が登校してくる前に来た方がいいと思って。」
「何もこんな人目のつくところでお待ちにならなくても。さあ中へ。」
さあさあと、掌を上に校内へ入るよう促す。
「今日は任務無かったのですか?大丈夫だったのでしょうか。」
「大丈夫だから来てやったんでしょ。」
「すみませんわざわざ。任務がある訳でもないのに暗部装束まで身に着けてきてもらっちゃって…。」
カカシさんは面をつけているから表情は見えないままだ。職員室へ向かう俺の少し後ろから黙って付いてきている。時々キョロキョロと廊下の張り紙や天井などを見ていた。
「カカシさん、職員室ここです。どうぞ中へ。授業始まるまで待機していてください。」
「他の先生方も居るんでしょ?ヤダよ。先生が教室に向かう時に出てくるからその辺に潜んでる。」
「え!いえいえお茶でも…」
「あのさ、職員の中に暗部がポツネンと居ても皆仕事だってやりづらいでしょって事だよ。」
「あ…」
そうだった。結構気を使う人なんだよなカカシさんて。
「では三十分後にまたここで。」
「了解。」
そう頷くとスッと何処ぞへ消えた
『…結構楽しみにしてくれてるようだ。』
任務は本当に無かったのかなとか、ちゃんと朝メシ食べて来たのかなとか。ふと余計な心配が頭に過り「俺はあの人の母ちゃんか。」と笑みをこぼした。

なんだかんだと三十分経ち職員室から出ると消えた時と同様にスッと俺の目の前にカカシさんは現れた。
「遅いっ!三十二分経ってるよ!」
「すみません。帰らずに待っててくれたの嬉しいです。」
「!!だ!だって約束だからね!帰っても良かったんだけど仕方ないじゃない!」
わたわたと耳を赤くしながら言う姿が可愛くて「ありがとうございます。さあ行きましょう。」と微笑んで促した。
ずるい様だが最近この人の扱いに慣れてきた。とても子供っぽいところがあって癒される。戦地ではどんな顔して敵に刃を向けるのかなと考える事もある。
『こんな顔、俺の前でしか見せてないような気がする。』
いや、きっと他の仲の良い仲間内でもこうなのだろう。そう思うと俺に対しても仲間的な親しみを持ってくれているのかもしれないと嬉しく思った。
教室に着くやガラリと引き戸を開けると前日に言ってあっただけに子供達は誕生会という事でソワソワしていた。
「おはよう!今日は授業の前に誕生会を開きます。」
「暗部だっ!」
「この前も来てくれた人だ!」
「はいはい!座って座って!そうだよ先月の誕生会にも来てくれていた狐面さんだ。一緒に誕生会に参加してくれるんだよ。さあ九月生まれは前に出て来い!」
三人の子供が照れくさそうに且つ楽しそうに前へ出てくる。今日は主役になるのだから嬉しいのだろう。
「じゃあ皆の方を向いて並んで。あ、狐面さんもどうぞ。」
カカシさんが無言で子供達の端に並ぶ。ふふっ、いいぞ。
「じゃあ皆で誕生日の歌を歌うぞ!せえの!」
俺が両手を振り上げると他の子供たちが一斉に御祝いの歌を歌い出す。そして今日は俺もカカシさんの傍で口ずさむ。
「きょ〜うは楽しい誕生会。九月生まれの御祝いに〜」
あれ?さっきまで前を向いていたカカシさんがこっを見ているっ!え?俺が歌い出したから驚いたのかなっ。でも歌い続けさせて頂きますよ?
「み、みんなでおめでと言いましょう〜」
いやいやいや、そんなにこっちを見続けなくてもっ。
「せえの!おめでとうーー!!!」
拍手と共に歌は終わり、カカシさんも何事も無かったかのようにまた前を向いた。
「では九月生まれの皆には先生からの誕生日カードのプレゼントだ!」
まずは子供達一人一人に手渡していく
「おめでとう!サエは手裏剣頑張ろうな!」
「おめでとう!タイチは忍び文字の練習だ!」
声をかけながら渡していき、最後にカカシさんだ。
「おめでとうございます狐面さん!いつも里を守って下さりありがとうございます。」
そうして深緑色のカードを手渡す。
「……うん。」
小さな声で返事をしてくれたカカシさん。なんだかとても愛おしい。
カカシさんは少し俯いて手にしたカードをずっと見つめていた。
「せんせー!ありがとう〜!」
「ありがとう先生ー!」
子供達が俺の腰に抱きついてきた。
「ハハハ!おめでとう!またひとつお兄さんお姉さんになったんだから強くなれよ!」
「頑張る!」
「俺もっ!」
「私もー!」
子供達がぎゅうぎゅう抱きついてきて本当に可愛い。教師になって良かったと思う一瞬だ。
「ハハハ!ほらほら授業を始め……」
突然背後から抱きしめられた。それは本当に気配もなく本当に突然にだ。一瞬固まる俺。
「え…えーと?」
俺は回された腕の逞しさや温もりに戸惑いながら顔が熱くなってくるのを感じた。
「せんせえ?」
生徒に声をかけられ我に返る。
「お顔赤いよ?」
俺から子供達が離れるとカカシさんも俺から離れたようだ。驚きつつ振り返ると狐面で表情は見えなかったが彼もまた耳を赤くして佇んでいる。
『こ、子供達の真似をしたのかな。それじゃなきゃ抱きつくなんて…』
「あ、えーとっ。その、なんだ。席に戻りなさい。あ、暗部さんは廊下までお送りしますので。」
忍び文字の教科書を出して置くように!生徒達にそう言い残し、俺はカカシさんと廊下へ出た。そして後ろ手に教室の扉を閉めて彼へ御礼を述べた。
「今日は来てくださってありがとうございました。任務が入ってなかったようで良かったです。」
「あのさ」
「はい?」
彼は狐面を頭の上にずらして話しだした。
「子供達が先生に抱きついてたから俺もしなきゃダメなのかなって思って。」
「え?」
ぶっきらぼうな言い方と反して彼の耳は真っ赤だった。
「ああ…いえいえいいんですよ。ありがとうございます。」
俺はそっと微笑み返した。なんだろう。俺はこの人が愛しくて堪らなく感じている。誰よりも強くて皆の憧れの忍者なのに俺は逆にこの人を抱きしめて、いつでもよしよししてあげたい気持ちになる。そんなのなんか変だよなって思うけど。
「カカシさん十五日が誕生日でしたよね。お会い出来ませんでしたが。」
「任務入ってたからね。」
「今夜は空いてます?」
「え?」
「あ、いえ無理にとは言…」
「空いてるっ!!」
「!シーーッ!声大きいです!」
「…空いてるよ。」
「じゃあたまに俺にご馳走させてください。安い居酒屋で良いなら。」
えへへと笑って彼を見ると両手に持った誕生日カードをうつむき加減で見つめながら「安い居酒屋好き」とぽつりと呟いていた。
「じゃあ決まりですね?放課後アカデミー前の遊歩道ベンチで待ち合わせしましょう?」
「ふん。仕方ないな。いいよ。」
「ふふふ。では俺は戻りますね?」
いつまでも口を真一文字に結んでカードを見つめる彼を残して俺は教室内へと戻った。


※※※


午後の上忍待機所。
「あれ?先輩いらしたんですか?」
「悪い?」
「いえ、手が空いてる者は砂まで火影様を護衛せよって伝達が有ったので。先輩真っ先に声がかかっていたんじゃないのかなと。」
「俺は忙しかったの!お前こそなんで居るの。」
「僕もやる事あったんで。」
「ふぅん。」
テンゾウは「横失礼します」とカカシの隣に腰かけた。そしてカカシに「ところで…」と話しかけようと顔を向けると、彼の手には何やら深緑色の手紙のようなものが。
『あれって確か…。あ、今日アカデミーで誕生会があったんだ?』
横目でチラと見るだけに留めているとカカシが誕生日の御祝いカードをひらひらさせながら溜息をついた。
『何かあったのかな。』
さらに黙ってチラ見しているとカカシの手からカードが離れてテンゾウの足元に落ちた。
「おおっと。いけないいけない。」
そんなに慌てるふりもなくカカシが落ちたカードに手を伸ばしてきたので、すかさずテンゾウが拾おうとしたが落とした本人が素早くサッと拾い上げていた。
「大事なものですよねそれ。アカデミーの誕生会で頂いたものでしょう?」
「あ、分かった?あーそうか、お前は先月貰ってたもんね。俺もさ、子供達が待ってるって言うから仕方なくさ、少しだけ顔出したの。」
「見せてくださいよ。」
「 は? 」
「あ、いえいいです。すみません。」
見せたくて、気がついて欲しくてわざと落としたのだろうに。なのに触られるのも嫌なんだとテンゾウはすぐに悟った。
「じゃ、俺はそろそろ行かなきゃなんで。」
「はあ。」
「なんかさ、あの中忍先生が是非とも俺を祝いたいって。飲みに行きましょうって執拗いから。行かなきゃなんだーよ。」
「イルカさんが?良いですねぇ!」
「お前はダメ!来ちゃダメ!今日はあの先生の奢りだから!人数増えて負担かけさせちゃ悪いでしょ!」
「いえ僕は別に。」
「じゃ!」
片手を上げて、どう見てもウキウキした足取りで去ってゆくカカシを見て
『まあ楽しそうな先輩を見ているのも僕は嬉しいけどね。』
そう思い口元に笑みを浮かべ溜息をついた。



 Happy Birthday KAKASHI







 



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