偽りのソラで
□黒魔
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「・・・・なんだって?」
思わず、俺は身を乗り出した。白の受け付けを挟んだ向こう側には、受付嬢が業務用の笑みを浮かべている。
「ですから、ネオライン・コーテックスの意向によりまして、レイヴンDurandal様の口座は凍結されておりまして」
つまりは、差し押さえられて使えないのだ。俺の金が。
話によると、どうやら俺が失踪した折りにコーテックスが口座を差し押さえたらしい。
どうせ死亡扱いにして、死人の金を回収しようという腹だったんだろう。
ぶちキレそうになったが、しかし、ここで暴れると間違い無く警備員につまみ出される。
「・・・・そうですか」
俺は一度息を吐くと、にこやかにそう言って踵を返した。
何故か受付嬢の顔が引き攣ったように見えたが、それは気のせいだろう。
ゆっくりとした足取りで出口を下り、そして一気に脱力する。
もう怒る気力もなかった。
せっかく手に入れた安定した生活。陰険借金取りに困る事もなく、堅実に生きていこうとしていたというのに・・・
それが、たかだか2ヶ月の間行方不明だっただけで、社会から抹消される事になろうとは思いも拠らなかった。
昔にウラシマタロウという話を聞いたことがあるが、今の俺はそのタロウとやらと同じ気分に違いない。
「いつまで座り込んでるつもりだ? その様子だと、俺の予想通りだったみたいだが」
俺を呼ぶ声に、重い頭を持ち上げる。
視線は車の窓から。
気楽に紫煙を吐き出す松永に殺意すら覚えたが、ここに連れて来てくれたのも彼だ。
文句など言えはしない。
「だから言っただろう。悠長に、病院で2週間も休んでて大丈夫かってな。まあ、金は代わりに払ってやったし、めでたく借金生活に逆戻り。今後とも、ごひいきによろしくな」
…こんの極悪借金取り。
前言を撤回したいところだが、そんな時間もうなだれる暇も、実は無い。
この後は剛龍邸に行かなければならないからだ。
レティの事で、剛龍の翁には会わねばならない。けじめと言うやつだ。
彼は怒るだろうか。
泣くだろうか。
・・・想像も付かない。
だが行きたい。行かねばならない。
その思いは、入院している頃からあった。
少なくとも、謝りたいのだ。