偽りのソラで

□猟兵
1ページ/44ページ

待機状態から能動状態へシフト、上体を起こす。

動態センサ、サーモセンサ、異常無し。
各部モニタリング・・・
異常無し。


起動した理由。それは至極単純なもの。
任務。
この単語に尽きる。

該当ヘリコプター機内にて指示あるまで待機、という命令を完遂し、次の命令のために各装備品のチェック、及び装着を開始する。




ふと、待機中に見た記録が再生を始めた。
その記録は酷く曖昧で、且つ私は体験していない。


夢・・・と、いうのだろう。

内容は、両腕の無い銀髪の男に殺されるという、ただそれだけの物だ。
場所は、何処か倉庫のような屋内。足元には無惨な女性の遺体がある。
男の顔はわからない。距離がある訳でも、屋内が暗い訳でも無い。唯々、フィルタがかかったかのようにそこだけが記録から抜けている。


この夢は以前から見ていた。メンテナンス時に報告したところ、これはベースであるこの肉体に以前から記憶されていたものらしい。脳神経を流用しているのでこのような事がおこるのだと、説明された事を記録している。
これは記録容量を圧迫するジャンクであるのだが、どうしても消えなかった物らしい。
そのようなジャンクは、他にいくつも存在する。


寂れた町。
微笑む二人の女性。
惨殺された二人の女性。
赤く濡れた手。
裁判。
刑務所。
別れを告げる女性。
捩伏せられた自分。
悲鳴。
クソ虫。

メンシェン・イェーガー。

そして、判断不能の膨大なノイズ。


メンシェン・イェーガーは名前だ。意味は、人間狩猟機。人を狩るという意味。
私を指してデュラン・O・ドーズが放った言葉"イェーガー"から、私の依り代となっているこの肉体の事だと判断できる。

これらジャンクからこの人物の歩んだ道を予測する事は可能だが、感情の無い私に一切の感慨は無い。
そもそも、その行為に意味が無い。
私は人ではなく、死体なのだ…





装着完了。最後に、立て掛けてあった30mmオートマチックカノンを掴み、立ち上がる。

「こちらノスフェラトゥ、降下準備完了。」
『了解だデッドマン。ハッチのロックを解除した、いつでもいいぞ。』
「・・・EINS。」

ヘリコプターのパイロットに返事をし、空いた手でドアを開けた。途端、ローターに巻き込まれて暴風と化した空気と、モーター音が機内へ侵入する。

私は前方に歩き、夜空へと身を投げ出した。







私は進軍する。
私は唯、下された命令に従うのみ。
備品は、使用されるのみ。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ