竜と悪魔と鋼鉄と

□Ein:空と魔笛と幻影と
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【アオ】に包まれる、一瞬。


あたしは、それが大好きだ。
雲一つない世界が目の前にくるなんて格別。
邪魔するものなんて何一つない、どこまでも行けそうな感覚は、あたしの想いを地平の果てまで飛ばしてくれる。
あたしはその時だけ、【アオ】と同化できた。

続く加速感も、あたしは大好き。
【アオ】と別れるのは嫌だけど、雲の海を突き抜ける時はわくわくする。
抜けた先に何があるかなんて、考えるのは素敵じゃない?

白と灰の向こうの赤い大地も、あたし達が住まう地上も好きだ。
あの何処かに彼がいる。そう思うと、嬉しくて堪らない。
加速して、加速して、突き抜ける。
意識だけが先行しそうになる。
楽しくて仕方がない。

「ぃいやっほーーー!!」
『煩いバカ』

そして、ここでいつも邪魔が入る。
人がせーっかく楽しんでるのに。

『降下作戦の度に言ってるはずだよな、叫ぶなって。インカム越しにキーキー煩いんだよ直せ馬鹿!』
「煩いのはこっちの台詞って、何回も言ってるじゃない! あと、馬鹿って言った方が馬鹿なんでスー!」
『俺が知ってる最大級の馬鹿は… あ、最終――』
「バーカ、バーカ」
『・・・おい』
「バーーーーーーーカ」
『最終減速高度過ぎたからさっさとブースト拭かせ馬鹿!!』
「うん、やってる」
『・・・・・』

そう、いつも通り。
あたしがバーカって言い出した頃が、減速開始高度。
この後は、通信機から胃が痛いだの覚えてろだの、そんな恨みが聞こえてくるの。


「【アオ】は静かで、赤は煩くて、あの人は西のオアシスに…」

うん、今日のあたしは詩人だわ。

『何がオアシスだ、お前が向かうのは東だ寸胴方向音痴』

あ、今さりげなく酷い事言った。
気付くが、抗議は間に合わなかった。
無線は封鎖、こっちからじゃ掛けられない。
HMD(ヘッドマウントディスプレイ)には、カーナビよろしく赤いラインが映し出されていた。


・・・行こ。

文句は仕事の後にしよ。
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