竜と悪魔と鋼鉄と

□Vier:竜と仏と剣舞(ケンマイ)と
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グリーンデーモンというコードネームは、ベルデに組み込まれた仕掛けに起因する。らしい。
それが何なのかを私は知らない。聞いた所で寿命が縮むだけだ。深入りすれば、命を危険に曝す事になる。
本人はその事を知らない。知れば、精神状況に少なくない悪影響を与えるとのミラージュ側の判断だ。彼女の精神は未だ幼く、脆い。そして、脆さに拍車を掛けているのが強化人間という状況だ。
強化骨格に人工筋肉、光ファイバーへの神経の換装、対加重臓器。あらゆる部位に人の手が及んだ強化人間は、分泌される物質にまで人の手が加わっている。おかしくならない筈が無いのだ。
脳内麻薬の過剰分泌による異常興奮や精神錯乱で、アゴニーパーディングと呼ばれる暴走を引き起こす強化人間は未だ多い。昨今の技術の進歩でその発生率も鎮静化に向かっているものの、強化人間の安定した稼動には巨大な医療設備が不可欠となっている。
加えて、彼女は試験型だ。完成された、従来の強化人間ではない。今まで精神錯乱が起きなかったのが奇跡的と言えた。
しかし、それは起きてしまった。

斎藤が使用したのは、一種のブレーカか緊急停止装置のような物だ。ベルデが何かしらの異常状態に陥って暴走した場合、外部からの操作で精神安定剤を投与する。身体への負担は大きいが、そうでもしなければ止まらない。
バランスを崩した天秤は、一度ひっくり返さねばならないのだ。


私はアリーナを辞退した。
アークからは違約金を請求されるだろうが、彼女の身体の方が心配だ。そんなものはいくらでも払えばいい。
今は基地への帰投中だ。彼女の容態を知る為には、最低でも基地の医療設備でなければならなかったからだ。
ベルデは人員輸送車に寝かせ、私はAC輸送車の助手席に座っている。私にはかなり狭いが、所詮はトラックなので文句は言えない。ただ、腰が痛むのはなんとかならないものか。

鈍痛に苛まれながら、赤茶けた大地を眺める。
どこまでも不毛の地だ。奇怪なオブジェ群が乱立しているが、それは以前被った災厄のせいだ。もう10年は前になるのだろうか。


昔の話だ。
ナービスという新鋭気質の成り上がり企業が、新資源なるものを発見した。それは瞬く間に世界に知れ渡り、ミラージュやクレスト等の大企業が互いに奪い合った。だがそれは資源と呼ぶような物ではなく、爆弾のような災厄だった。
その爪痕が、未だこのように手付かずで残っているのだ。
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