音闇クルフィ
□番外編2
1ページ/2ページ
昨年はこの時期バレンタインというものを知った。
キャノは日本に来て彼女よりも長くそういったイベントに馴染みがあるらしく、毎年大量のちょこれーとを部屋に段ボールで送って貰うらしい。
ファンからの気持ちだかなんだからしいが、それにしても多い。
「お前、これ全部食べるのか?」
なんとなく聞いてみると、彼女は困ったように笑った。「甘いものは好きなんだけどね」
日持ちや場所の問題はそうあなどれない。
「お肌にもちょっと……だから一日3個にしているの」
「ふーん……」
ホテルの部屋で同室というのをクルフィもあまり良いとは思っていなかった。最初はどうしようもない理由があったが、今となってはそれなりには生きていけるのだし、アイドルと二人というのは(やっぱりまずいよな……)
部屋でチョコやレターを選別する彼女のかたわら、焦りを感じてしまう。
「どうかした?」首をかしげられて、苦笑を返す。
「私、どっか部屋探そうと思って」
キャノは意外にも、嫌だとは言わなかった。
「そっか」
「あれ、カフェインを多量接種しにいくくらいはしそうなのに」
これについては実際に過去に見たことがある。
相手は違っていたが、あるきっかけで、故郷への未練でくすぶっているよりも、少し地元かは出て先へ進もうと決心していた矢先のことだった。
バスを待つ間、何やら辺りが騒がしいと思っていたら近所の家の人が病院に運ばれたというのだ。
「リルが出ていくときいて、不安で一杯になり、コーヒーを大量に接種して中毒になった」そこのおばさんはそう話してくれた。
彼女はそういう感覚が苦手だったため
可哀想よりは、むしろ『怖い』とか『意味がわからない』といった狂気を感じていたものだった。
後々、似たようなことが何度かあってからは彼女は何処かにいくとき、誰にも知らせないように厳重に注意しようと心に誓うようにもなった。
高い魔力のそばにいると、何か生体的にも周囲をおかしくするようで、
友達、恋人、というのが重たく不気味な狂気をはらんでいるものに変化することは多く、極力の知人とは完全に縁を切る必要があった。
そうしなければ殺していたかもしれない。
いくら『彼女ら』は良くて、戻ってきて欲しかろうと、それは呪いのように重く響く、トラウマなのだ。
だから出来れば二度と、会うつもりはない。
キャノは同じく、高い魔力を持って居るので、さほどの心配はなく、それなりには親しくなっていたがそれでもお互い、なんでも気兼ねないというわけにはいかず、日中極力は外を歩いたりしている。
ただ彼女のほうは彼女のほうで何故かクルフィを愛していたので、かつての知人たちのような『奇行』に及ぶ心配は充分にあったのだが……
「ちゃんと、肉以外も食べるのよ?」
「わーってるって」
そんなやりとりがあった程度だ。
前にも何回かこんな提案をしてはぐだぐだになっていた気がするが、さすがにもう思うところがあるのかもしれない。