◆なとなと 番外編◆
□枠と境界線
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――なんか知らないけど、厄介なことになってしまった。
只今、クラスメイトの、梅ちゃん(って呼ばれていた)に、捕まって、帰宅中だ。彼女は気さくで可愛らしいのだが、ぼくは目立たない上に、口が上手くない方だし、普段は人とあまり話したりしないので、なんというか、どうしていいかわからない。
町を歩いていて、そこで彼女が一目惚れしたとかいう、ぼくと歩いていた知り合い(おっかないやつ)のことを聞かれ、適当に逃げていたのだが(おっかないから)、お願い助けて、と言われて、教室で、クラスの注目まで集めてしまうと、さすがに不利だったのだ。
関わるのは一度きりにして、もうこんな状況にならないようにと、対策を考えねばならない。
事情を聞いても、ぼくには正直、心理が理解出来なかったけれど。
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あいつのことは誰にも言わないという約束を取り付けて、気乗りしないだろうなあと思いつつ、まずは連絡を取ってみる。
返って来たのは案の定「やだ」だった。
『そんなの、どーしろってんだよぉ。だいたい、知らないし。話してみたいって、何を? わけわかんない。趣味とか言っちゃう? ドン引き確定じゃん。っていうかさー、歩きながら電話してないよね?』
遠くからコトコトと、なんだか癒されるような、鍋の音が聞こえた。あいつが、料理っていうか、包丁を持つのも、実をいうと切り刻む癖(何をかは知らない方がいい)の延長だ。
家庭的な面があるという話とは、ちょっと違っている。機嫌が悪いと肉料理(丸焼き系)が増え、サラダの量が倍になったりする。野菜が超細かくなって。
ついでにコップの口元を持たない、とか畳の模様のある部分を踏まない、とか、音をたててドアを閉めない、とか〜しながら電話をしない、には、特に厳しいやつだ。ぼくも、家族によく言われまくってきたことなので、不便はないのだが。
「してないよ。途中にある、公園のブランコに座ってるよ。今は、ぼくら以外誰もいない」