◆なとなと 番外編◆
□ぼくちの
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ぼくの幼なじみは、凶暴だった。というか、たちが悪かった。
「なとなとー」
なんて、やや舌ったらずにぼくを呼んでくるけれど。
「新しい遊びを思い付いた!」
なんて、少し潤みがちな輝く瞳で、ぼくを見つめてはいるけれど、騙されてはいけない。
□
ブラウンの髪が、そいつの耳のあたりで、風に、さわさわと揺れていた。同じく、よく光を通すクリアーな瞳は、綺麗な、アーモンドじゃなくて……なんだっけ、薄い茶色、みたいな……まあとにかくそれでいて白い肌を惜しげもなく晒しだす白いワンピースを着ていて、ぼくの目の前で、嬉しそうにはにかんでいた。そいつは少女でも少年でもない。理由はある。ただ、ぼくから言うことは出来ないが。
「なとなとー、遊びに来たのなら遊ぼうよ。ちょうどまつりは退屈だよ」
そんな、そいつ、佳ノ宮まつりは、自分のことをそう呼んでいる。
これも理由はいろいろあるようだが、一番の理由としては、まつりは、まつりと呼ばれるのが好きらしい。佳ノ宮と呼ぶと、怒ってしまう。ぼくが名前で呼ぶと、きゃあきゃあと、少しだけ嬉しそうにする。
それはそれは無邪気な、狂気の塊である。
「遊ぼうって言ってもな、なにするんだ?」
「不埒な行為!」
満面の笑みで嫌な回答が帰ってきた。覚えたばかりの単語を使いたがる子どもらしさがあるが、その単語は、いったいどこで学んだんだろう。
ぼくらはまだ小学生だ。そんな言葉からは縁遠くてもいいんじゃないか。
「……、真面目に答えてる?」
「なとなとと不埒な」
「うるさい。黙れ。お前、最初に会ったときやましい感情とかは持てないって言わなかったか?」
「うん。まつりはねー、血液と、動かなくなった直後の生き物、あとー、バラバラにしかそういう興奮はできないんだよ」
「……それはそれですごいけどな、お前にとって不埒な行為って例えばなんなんだ」
言いながら、ふと、無邪気に照れているまつりの足元を見た。フライドチキンの食べ掛けの最終形体、じゃなかったら、それは最初は生きた鳥だったのだろう。それが、今いる、そいつの住む洋風お屋敷の庭の芝生……から、ちょっとずれた、石畳の足元に転がっていた。
無残というより、いっそ清々しいくらいに美しく、散らばっている。
バラバラ。
最初に会ったときは、まさかそういう趣向があるとは思っていなかったのだが──今となれば、もうなにも思わない。
いや、本当はいけないことだと、知っているのだ。だけど異常だからいっそ殺してくれと、目の前のそいつが泣いていたのも知っている。
ぼくはそんなそいつのそばにいることを、望んだ。深く理由はなかったが、でもそいつを嫌う要素にはならなかった。なんなら一緒に死んでもいいくらいだったが、きっとまつりは『気持ち悪い』ということだろう。
ちなみにそいつに気に入られてしまったら、待つのは残虐な死だ。特に、一般人的な愛とかそういう方向が、これに置き換えられてしまうのだろう。恋い焦がれられたら、ナイフに裂かれる。なんとも殺伐としている。
ぼくは切られてもどうでもいいし、そいつに好かれてもどうでもいい。嫌われても、やはりどうでもいい。だからなにも怖くないし、そいつがせめて、違う趣味も見つけてくれるようになればなあ、と思う。
「えーと。ちょっと待っててね。片付けなきゃね」
「はいはい」
「あ、そのとりさん、まつりのものだから、触っちゃだめだよ! 勝手にこーふんしてもだめだよ!」
「その点は大丈夫」
「……うう、信用出来ないなあ。もし変な真似をしたら暴力的な意味で襲っちゃうからね」
「はいはい」
「なとなとが、マゾ奴隷に目覚めるの、楽しみにしてる」
天使のような笑顔で、よくわからない電波を撒き散らしていた。
「……残念だったな、お前の楽しみは、永久に保証されることがない」
「えー、そんなことないよ!」
一度、手を洗うのか、はめていたらしい手袋を捨ててくるのか、破片を処理すべく塵取りでも持ってくるのか、奥の、お屋敷の中の方へ引っ込んでいく。
──かと思えば、一度くるっと振り向いて、きっ、とこちらを強くにらんで「まつりは強いんだよ!」
といらない釘をさしていった。
それはすでによく知っている。全てにおいて、全くかなわなかった。
たぶん、死体が置かれている間、そいつにとって、その瞬間のその場所は『自分だけの領域』なんだろう。
横取りされるとかを、本気で思ってはいないだろうが、なんとなく領域を汚された気分になってしまうのかもしれない。
それで何度か怒られた。
ちょっとなんか言動がずれているが、これでも、まつりはとても賢い。