◆なとなと 番外編◆

□車内にて。
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・・・

 車窓の向こうには今日もいつもと変わらない穏やかな風景が存在していて、隙間から湿気を含んだ風が流れてくる。
いい天気で、少し涼しくて、なんていい日だろう。
(静かだな……)
 これから車で再び学園に戻る。アレを実行する――とは思えない天気。
 膝の上では夏々都が眠っていて、柔らかな寝顔を晒している。
「……ふふ」
予定でも無ければこうして自分も目を閉じ一緒に眠っていたい。あるいはお弁当を持って来てピクニックも良いかもしれない。
 不穏な気持ちと、裏腹に沸いてくる奇妙な高揚感。
……勿論ただの現実逃避だ。
そこまで考えて居ると、ふいに途中まで途切れていた声が届いた。


「そりゃ私達の業界だと、ジュンを孕ませたのがニッシーって噂らしいからなぁ」
前を向いたまま、淡々とそんな言葉を零す。
変な抑揚が付いても気持ち悪いだけだけれど、やはりかといってあまり盛り上がりたくない話題だ。
「みんな具体的に言わなかったみたいだけど、あいつに女を絡ませたくないんでしょ」














……彼女もそうなのだろうか。
どこかため息交じりな声音に、言い知れない不安を感じ取りながら、まつりは言う。
「そうなのかな、だから男に走ってる?」
 膝の上で寝ている夏々都を撫でる。
なんとなく、やりきれなさと居た堪れなさとで、まつりもどうしていいかわからなかった。
「女性が居る学園なのに、なぜ男を出す必要があるんだろうって思ってたけどさ。そもそも根本から捻じ曲げようってんだから、冷静に思うと異常過ぎるしね」

「さぁ。でもただでさえロリコンって言われてて逮捕されてるのに、牢屋から出て来たと思ったらまたジュンジュン鳴いてるって」  
うぇえ、と彼女は吐くような仕草をした。

「ジュンって誰?」
  ジュンが誰かは知らないが、ニッシーには少し、心当たりがあった。 
普段は本だか論文だか書いている人なのだが、同時に女好きで誰でも口説くという噂。昔近所に来たことがあり、話しかけられたことがある。主に姉が。「……そう」 
数秒の沈黙。彼女にやや陰りが見えた気がする。

「なんでニッシーがそこに出て来てる? ニッシーに会いたいって言ったこと全く無いと思う。何に反応してるの?」 性別もだが、そもそもまつりは夏々都以外に興味がない。 勝手に目を付けられているというのが理不尽にも思ったけれど。

「さぁねぇ、何か勘違いでもしてるんでしょう」

 窓の向こうの景色が少しずつ変わっていく。知らない景色。何処にでもある港町の景色。
「……まぁ、結局のところ、相手が誰だったとしても、危険には変わりがないか。あの研究所だって、解体されたと言ってもまつりたちは認知されてしまったし」
(最初の訃報が母様とも限らない、か)
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