森と君と+呪いたち
□2:歌声が映すもの
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掠れた残像を、支えにしていた。
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気が付くと、知らない所に立っていた。何があったのだろう。いったい今、ここはどこで、どうやってここに来たのか、よく覚えていない。
(誰かと会い、誰かと……なんだったけ……何か……大切な、何かを……)
そこは、神殿のような場所だった。
ステンドグラスが夕日に輝き、きらきらと美しい影を作っている。
大理石か何かの石の床から、ひんやりした空気が伝わった。落ち着かないほど、広い場所だ。
そこにフレネザが、目と口から血を流しながら、ふわふわと浮かんでいた。おそらく、彼女の意思ではないだろう。むせて、苦しそうに、目の前の台座のようなところに横たわる。
なぜ、こんなところに彼女が、そして自分がいるのか、と不思議ではあったが、意識が戻ってから聞くことにし、セイは急いで駆け寄った。
すると、力が抜けたようにフレネザの体が落下してきた。あわてて受け止める。
彼女は意識を失っていた。落とさぬよう気を付けながら支えて歩く。力を抜いた人間は、思っていたよりずっと重いものだった。
ここにいてはいけない。
セイはなんとなくだが、そう確信していた。
この場所は、詳しいことはよくわからないが、おそらく、森の中にあるのだろう。
彼女を探して、森に立ち入ったことだけは、かろうじて思い出すことができる。
(ひとまず、彼女を、病院まで送り届けよう……)
出口に向かって歩いたが、すぐに、ふらついた。自分を支えながら、彼女も支えるのは、なかなかに大変なようだ。体が重い。
足からピリピリとした、何かを感じた。じわ、と足先が湿った。嫌な予感。自分もまた、傷付いていることに気が付いた。
セイに、力は、もともとあまりない。しかしひきずるわけにもいかない。
一度痛みに気が付くと、一歩踏み出すたびにそこにしびれが走り、泣きたくなってきた。苦しい。
「いっ……」
再度、気を取り直して踏み出そうとして、思わず声をあげる。痛い。
しゃがみ、靴と、くつしたを脱いでみると、赤く、さらさらした液体が、ぽたりと地面の石に染み込んでいった。
左足の指先が赤い。何か炎症を起こしたようにも見える。ところどころ皮膚が切れて血液で微かに光っていた。
こんな怪我をするほど無茶をしたような記憶はない。
なのに、一体どうして。
「けがれた、もの……」
誰かが、そんなことを言っていなかったか。
「あ、セイだ。どうしたの?」
ふいに、背後から、知っている声がした。幼さを帯びた、少年の声。
間違いなく、ドゥロロだった。
着替えたらしく、木と鳥の模様が織り込まれた布で作られた、この地方伝統の服を纏い、たたずんでいた。まっすぐ、こちらに近付いてくる。
いつの間に。どうして、ここまで来れたんだろう。
首だけ動かして、呆然と見つめていると、彼は、寂しそうに笑った。
身動きが取れないセイを、見下ろすようにしている。
袖であまり見えない右手には、刃物かなにかを隠していると、わかった。
それを見て、なんだか、ふいに、愛しさが込み上げてくる。
少しだけ、笑えた。
「そうか……今日は、いつもより、わかりやすいんだな。ドゥーちゃん」
自然に口から出た言葉。
ドゥロロは目を見開いて、固まった。
「な、ぜ……」
「わかってた。だけど、そんな、お前が好きだったよ」